書評:元素楽章
読んだ本
揚げ鶏々 著・イラスト、元素楽章、第1版第1刷、化学同人、2024年、149頁.
分野
元素化学
対象
中学生以上
評価
無評価(学術書ではないため)
内容紹介
感想
化学同人は以前から絵本などを発行しており、東京化学同人と比べると、割りとフリーダムに感じる(なんで化学同人が絵本を発行しているのか知っていたら教えてください)。従って、私個人としては、東京化学同人を”硬派”と表現すると、”軟派”な化学同人というイメージである(もちろん、学術書を発行している時点で硬派ではあるのだが)。当書も当然のことながら、その”軟派”な書籍に分類されるわけで、私はこのようなものをあまり好まない。しかし、”本に貴賎なし”ということわざがあるかは知らないが、読んでみないと評価もできまい。また、最近の新刊にめぼしいものがなかったので、少し毛色の異なる本を入手してみた。
さて、ここで一つ愚痴を言わせていただきたいのだが、私は当書のことをファンタジー系の小説だと思い込んでいた。実際、化学同人の紹介でも、「~物語にまで昇華させた,待望の元素擬人化ファンタジーが誕生」と書かれており、小説でもラノベでも漫画でも何でもいいのだが、何かストーリーが描かれているとばかり思っていた。しかし実際には、作者の頭の中の世界の設定集?のようなものであったので、かなり驚いてしまった。確かに、イラストも担当しているとは書いてあったが、精々ラノベの挿絵程度なのだろうと思っていた。しかし、当書は全ての頁にイラストがあり、そこにあるのは”文章”ではなく”説明文”である。作者もあとがきにて、当書は”攻略本”と呼称している。著者曰く、ゲームの攻略本ならワクワクしながらスラスラと頭に入るとのことである。だが、ワクワクして読めるのは、あくまで自分がプレイしているゲームの攻略本であるからで、全くやったことのないゲームの攻略本を読むような人は少数派ではないのだろうか。
つまり、私がいいたいのは、先にストーリーがあり、その後に、ないしは並列して攻略本を出すべきではないのだろうか、ということである。小説を書くにあたって、最初に設定を語りすぎるな、とはよく言われることである。知らない物語の設定を先にあれこれ言われても、読者としてはついていけない。なので、パラパラとめくってみて、「なんだこれ」と思わず言ってしまったのは仕方のないことだと思う。
だが、私はこの本そのものにダメ出しをしているわけではない。今回の悲劇は、あくまで抽象的に書かれていた化学同人HPの説明文が悪いのである。 つまり、著者があとがきで書いていた”元素の攻略本”ということをアピールしてもらえれば、このような悲劇は起こらなかった。化学がわからない、苦手な人に元素のことを好きになってもらう、そういうコンセプトが元であるならば、当書は遺憾なく効果を発揮することだろう。元ネタを基盤に、丁寧に練り上げられた設定は、わかる人が見れば、思わずクスッと笑ってしまう。特に驚愕なのが、当書の著者がまさかの学部生ということだ。1年から3年まで執筆していたということなので、まさに大学生の時間を全て費やした力作であろう。作者が今後、日本の化学界に大きな影響を与える人物になるのは間違いない。
ちなみに、全ての元素を紹介していない点には注意していただきたい。有機化学畑の人間からすると、なぜこの元素を選んで、あの元素 (B, F, Pd etc.) を選んでいないの? と少し疑問に思った。また、イラストの良しあしに関しては、素人故にノーコメントとさせていただく。
ちなみに、48頁に、化合物モンスター (Molecule monster) とあるが、”分子モンスター”か、"Compound monster"が正しいのではないだろうか。
購入
新品で購入。化学同人メールマガジン2024年6月4日号によると、発売1週間経たないうちに重版が決定したらしい。あとから知ったことだが、もともとネット上で活動していて、それなりに認知度があったようだ。
参考サイト
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?