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書評:有機化学講座6 有機金属化学


読んだ本

丸山和博 編、山本嘉則 成田吉徳 共著、有機金属化学、丸善、1983年、328頁、(有機化学講座, 6).

分野

有機金属化学

対象

研究室配属~大学院生

評価

難易度:易 ★★★☆☆ 難
文体:易 ★★★☆☆ 難
内容:悪 ★★☆☆☆ 良
総合評価:★★☆☆☆

典型金属化学はまだ使える

内容紹介

~無機化学と有機化学の境界領域として大きく発展した有機金属化学はそれ自身で一つの学問分野を形成するとともに、一方では有機化学者によって大幅に取り込まれ、有機化学の中の一大分野となりつつある。~後者の立場からみた有機金属化学、特に有機合成への応用を志向した有機金属化学は総説類は多いものの成書としての出版は比較的少ない。本書は、このような有機化学の立場からみた有機金属化学として有機化学反応を中軸にして書かれたものである。

当書序文より

感想

 戦前の有機金属化学といえば、Grignard試薬やアルキルリチウム試薬程度である。にもかかわらず、戦後のたった数十年で、クロスカップリング反応やオレフィンメタセシス反応、C–H活性化反応など、酸・塩基反応を超越した反応を次々と開発してきた。具体的には1970年以降から有機金属化学の分野が大きく発達し、例えばACSのOrganometallicsが刊行したのが1982年である。当書は1983年に発行されており、有機金属化学の黎明期といってもいい時代だったのではないだろうか。最近では環境やら毒性やらで、やたらと金属フリーの化学がもてはやされているが、当書からはそのような片鱗は感じさせず、有機金属化学に対する希望に満ちていた時代だったのだろう。それ故、学問の発達もすさまじいスピードで急成長し、ノーベル賞も数多くを分捕ってきた。しかし今となっては、有機金属化学者をして、「有機金属化学からノーベル賞はもうでない」と言わしめるほどには、それなりに成熟した分野である。その背景には、ともに成長してきた量子化学計算、コンピュータの性能向上も一助となったのだろう。
 話がそれてしまったが、とにかく1970年代以降の有機金属化学の発展は目を見張るものがあり、そのような背景から、当書を安易におすすめできない。特に、有機遷移金属化学が目当てならやめたほうがいいだろう。確かに当時は希少性の高い書物であったが、今となっては有機金属化学の成書など数多く存在している。ただ、有機典型金属化学が目当てなら、悪くはない。当書は、Li, Na, K, B, Al, Si, Sn, Hgなどの典型元素にも焦点を当てており、このあたりの化学は、かなり有機化学に近いので、そこまで年代を感じさせない。例えば金属エノラートの化学などは、今でも十分学ぶ価値のあるものである。また、有機金属化学の花形が遷移金属なので、典型金属に関する成書は実は数が少なく、未だ価値はある。

購入

当書は有機化学講座というシリーズもので、私はまとめ買いでシリーズ丸ごと購入した。今でも、少し高いが、まとめ売りしているものをちらほら見かける。

単品ということであれば、1000円前後で買えるようだ。

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