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書評:現代ケイ素化学


読んだ本

吉良 満夫、玉尾 皓平 共編、現代ケイ素化学、第1版第7刷、化学同人、2013年、444頁、(DOJIN ACADEMIC SERIES, 3).

分野

有機ケイ素化学、無機ケイ素化学

対象

ケイ素系の研究室に配属されたB4以上

評価

難易度:易 ★★★★☆ 難
文体:易 ★★★☆☆ 難
内容:悪 ★★★★★ 良
総合評価:★★★★★

ケイ素化学界の聖書

内容紹介

基礎化学や応用化学の一分野として,活発に研究され,目覚ましい発展を遂げている有機ケイ素化学の基礎と応用および最近の研究成果をまとめた.その体系と広がりを一望できる.専門家だけでなく,大学院学生や多分野の研究者にも役に立つ.(1)

感想

 実はこのアカウントを作成した当初から書きたいと思っていた書籍が、この現代ケイ素化学である。ただ、当書は絶版してからプレミア化が続いており、3万円近い価格で取り引きされる状況だった。中古市場に1冊もない状況もざらで、知る人ぞ知るマニア本であった。そういった状況から、私のような弱小アカウントが考えることではないが、当書を記事に取り上げることでさらにプレミア化に拍車がかかることを恐れてこれまで書いてこなかった。最近(あまり覚えていないが、一年前くらい?)、当書が電子書籍化したため、プレミア化も収まるだろうと考えていたものの、むしろ紙媒体のプレミア化は進む一方だった。
 それがついこの間、公式WEBサイトによると2024/8/15にオンデマンド形式で発売されることとなった。オンデマンド形式について詳しく知りたい方はこちらを参照してください。簡単に説明すると、紙媒体の在庫をもつことなく、発注がくるたびにその都度その場で印刷するという形式のことである。すなわち、元データさえあれば、在庫切れという概念がなくなる画期的な発売形式なのである。
 あえてオンデマンド形式(ペーパーバック)の欠点をいうとすれば、ハードカバーでは作れず、ソフトカバーで覆われていたり、帯がついていることがない。ただ、ハードカバーはかえって頁を捲りづらかったり、帯はどうせ捨てるという人にはオンデマンドのほうがむしろメリットを感じるかもしれない。さて、かなり話がそれてしまったが、とにかく紙媒体の供給問題が解決したため、当書のレビューを行うことを決めたわけである。

 当書は題目の通り、ケイ素化学という、少しマニアックな学問を取り扱った書籍である。しかし実は日本とケイ素化学の関係は深く、例えばケイ素が関与する多くの人名反応は日本人によって開発されている(細見-櫻井アリル化、玉尾-Fleming酸化、檜山カップリング)。したがって、ケイ素化学の日本人研究者は数・質ともに厚く、そのような専門家が結集して書かれたのが当書である。日本ケイ素化学界の元を辿れば、京都学派の小田良平先生という方がおり (詳しくは『化学者たちの京都学派』(amazon) を参照せよ)、その門下生に、かの熊田・玉尾カップリングで有名な熊田誠先生がいる。そして熊田先生の門下に玉尾皓平先生 (玉尾酸化)、細見彰先生 (細見-櫻井アリル化)、吉良満夫先生と、錚々たる研究者を輩出している。檜山カップリングの檜山爲次郎先生も元を辿れば京都学派であることから、日本のケイ素化学は京都学派によって形作られてきたといっても過言ではないだろう。当書も、玉尾先生と吉良先生の共編であり、京都帝国大学から連綿と続くケイ素化学の集大成といえよう。であるから、当書は日本でしか作れない価値がある。
 中身に関しても素晴らしく、はじめは基礎から (ケイ素のα, β効果、Si=Si結合の不安定性など) 始まり、ケイ素化合物の特徴から反応まで幅広い分野を扱う。そのため、ケイ素に少しでもかぶっている分野を研究しているのであれば、ぜひとも読むべき書籍である。特に第1部:ケイ素化学の基礎は非常に素晴らしい出来であり、当書を除いて、ここまで詳しく学ぶことはできない。

購入

実は2024/8/8に化学同人にオンデマンド形式で売ってくださいとおねだりしていた直後だったので、割と驚いている (返信はいまだにないから、おそら偶然タイミングが重なっただけだろう)。とにかく、現状は電子orオンデマンドと、選択肢の幅が広がったため、好きな媒体で買えばいいだろう。少なくとも、1万円の価値は十二分にある。

参考サイト

  1. 現代ケイ素化学 - 株式会社 化学同人 (kagakudojin.co.jp)


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