書評:有機化学のための量子化学計算入門
読んだ本
西長亨・本田康 共著、有機化学のための量子化学計算入門-Gaussianの基本と有効利用のヒント-、第一版一刷、裳華房、2022年、224頁.
分野
計算化学、コンピュータ化学、DFT計算、量子化学
対象
GaussianでDFT計算を始める初心者
評価
難易度:易 ★★☆☆☆ 難
文体:易 ★★☆☆☆ 難
内容:悪 ★★★★★ 良
総合評価:★★★★★
初心者用Gaussianマニュアル書の頂点に君臨
内容紹介
量子化学計算に興味はあってもどうすればいいのかわからない、有機系をはじめとするすべての実験化学者のための「習うより慣れろ」的実践マニュアル。
初学者でも無理なく最初のハードルを越えられるよう、計算を始めるための環境整備から、計算ソフトGaussianの基本と特性、実際の使い方から困ったときの対処法まで、具体的な応用例を示しながら丁寧に解説する。(引用:<書籍紹介> 有機化学のための 量子化学計算入門(西長 亨・本田 康 共著)【化学】 (shokabo.co.jp))
感想
量子化学計算ソフトウェアの中でデファクトスタンダードであるGaussianのマニュアル書。Gaussianのマニュアル書は、和書だけでもかなりの数がある。例えば公式本であれば田崎健三 訳『電子構造論による化学の探求』があるし、非公式本も堀憲次・山本 豪紀 共著『Gaussianプログラムで学ぶ
情報化学・計算化学実験』(amazon)など、多く出版されている。
私はマニュアル書の中で、①対象とするGaussianのバージョン、②ぶっちゃけて書いているか、の2つを評価するポイントとしている。例えばGaussianやGaussViewのバージョンが古い場合、大まかには変わっていないが、初心者にとっては見た目が違うだけで混乱するに違いない。その点でいうと、マニュアル書は足が早く、基本的に古いものはやめたほうがいいだろう。②はどういうことかというと、理論屋さんが著者の場合、誤解を招かないように書くので、それが逆にわかりにくい原因になっている。例えば、使用すべき汎関数と基底関数系は初心者が最も知りたい情報の1つだろう。にもかかわらず、どれを使うべきですよ、と書いてある書籍はほとんどない。なぜかといえば、最適な計算レベルは系に依存するからである。例えば単純な有機分子であればB3LYPを使っておけばいいのだが、大規模共役系などでB3LYPを使うのは好ましくない。従って実際には、どのようなケースもこれをつかっておけばいい、という計算レベルは存在せず、結果として断定できない著者と、使う計算レベルを知りたい読者の間に溝ができる。私は著者の気持ちを十分に理解しているつもりだが、それでも初心者用書籍であれば、ある程度は腹をくくる必要があると思っている。結局、初心者は計算レベルの良しあしどころか、何があるのかも知らないので、最初は最適でなくても、道を示す必要がある。当書はそんな初心者の気持ちをよく理解している。以下に一文を引用させていただく。
まさに初学者が求めた言葉が上記につづられている。ここまで初心者フレンドリーに書かれた書籍は当書を除いて見当たらない。初学者用であれば当書一択である。欠点をあげるとすれば、よくある”入門”詐欺ではなく、本当の”入門”書なので、あまり深い理解は得らない。ただ、量子化学計算に対する深い知識を会得したいのであれば、読むべき本は当書ではない。
購入
発売と同時に新品で購入した。Gaussian初心者は迷うことなく当書を買えばいい。
参考サイト
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?