金融庁が推し進める「企業の持ち合い株の解消政策」は日本を滅ぼす愚策でしかない

「株式持ち合い」という言葉をご存じだろうか?
企業や銀行などが取引先などの企業の株式をお互いに持ち合う形で保有する場合、その株式を「持ち合い株」などと呼ばれる。

「持ち合い株は解消されなければならない」という言葉を聞いて、どう思うだろうか?
持ち合い株解消という合言葉は30年以上言われ続けてきたこともあり、多くの人が、「株式持ち合い=悪!」と思うのではないだろうか。
事実、筆者も社会人一年目のときに先輩たちから「持ち合い株は悪だから、持ち合いが多い企業は経営能力がない」などと言われたもので、特に争いを好まない筆者は「え?そうなの?そうかなぁ・・・そういう考えが強いのかな?」と思ったものだ。

1990年頃、持ち合い株式の比率は35%程度(広い意味での株式持ち合いだと50%超!)であったが、株式持ち合い比率は低下の一途をたどり、現在では10%を下回るまでになってしまった。

1990年当時、多くの企業が取引先企業の株式をお互いに持ち合っていた。
企業が取引先企業などの株式を持ち合う場合、一定以上の株式比率を保有していた場合には株主として企業の経営に影響力を与えることが出来る。
そうでなくとも、お互いの企業の株式を保有していることから、お互いの企業と同盟関係となり、少なくとも相手の企業の経営が悪化すると、保有株式の価値が低下することによって自社の懐も痛むようになるため、お互いに持ち合いの企業同士が助け合ったりするようになる。

株式を持ち合うと、理屈の上では相手の企業の経営に物申すことが出来たり、「もっと配当を増やせ!」ということも可能ではあるが、多くの場合は同盟関係として持ちつ持たれつ関係となり、お互いに長期的に安定した経営ができるように配慮するようになることが多い。
株式を持ち合うことで、互いに安定的な経営を目指すことが実現できるというのが、株式持ち合いの利点であった。

しかし、1990年頃から日本政府は外国政府や外国資本の命令に従い、企業の株式持ち合いを解消させるための政策を行ってきた。
バブルの崩壊によって株価が急落し続けたが、会計制度が簿価会計から時価会計に変更されたことから、持ち合い株の時価評価が下がると、自社の利益に大きな影響を与えるようにもなり、多くの企業が株式の持ち合いを解消するようになっていった。
さらに、物言う株主が出現することによって、持ち合い株式の解消を求められ、多くの企業がさらに株式の持ち合いを解消していった。

持ち合い株式が減ることで、それぞれの企業の株主構成が変わり、企業経営を温かく見てくれる企業同盟的な株主の比率は低下し、その代わりに「もっと配当を払え!」「株主に還元しろ!」「利益を最大化させろ!」「自社株買いも行え!」と主張する株主の比率が上昇するようになった。
これにより、企業は短期的な利益獲得に走るようになった。

株式の持ち合いが盛んにおこなわれていた頃であれば、企業は短期的な利益を追い求める必要がなかったため、長期的な利益を追求することができた。
企業経営は時には長期的な目線で経営を行う方が良いことも多い。
取引先などの企業が互いに株式を持ち合い、助け合うような中では、お互いに製品の値上げを受け入れあって、品質の向上を維持したり向上させたりすることも行いやすかった。
企業の利益を株主にだけ還元するのではなく、長期的な研究開発に回したり、自社の社員の給与を増やすことも行いやすかったのである。
しかし、株式持ち合いが解消されるようになると、多くの企業が株主の要求ばかりを聞くようになり、取引先には自社の利益の最大化のためにコストカットを求めるようになり、自社の社員の給与を上げるくらいならば株主配当を増やそうとし、自社のコストカットも進めることで正規社員を減らして非正規社員を増やすようになってしまった。

1990年以降、日本では消費税が導入され、消費税率が上げられ続けてきた。
さらに、非正規労働者制度が導入されることとなり、正規社員比率が高ければ高いほど、支払わなければならない消費税が増える一方で、非正規社員比率が高ければ高いほど、支払わなければならない消費税が少なくなる制度が導入された。


企業は株式の持ち合い解消を求められ続け、物言う株主比率が高まるにつれて、企業は自然と、配当金を最大化させるために従業員の給与を制限し、法人税減税と消費税増税を財界圧力として要求するようになる。
上場企業の多くは輸出比率の高い企業であることが多いため、消費税が増税されれば輸出還付金によって減税圧力が働くようになるため、財界全体として消費税増税を要求するようになるからだ。

これら、株式持ち合いの解消による効果を日本国民の視点から見てみよう。
多くの日本人は企業の配当金が上昇するよりも、企業が支払う給与が上昇する方が経済的にありがたい。
企業の配当が増えてうれしいのは、一部の富裕層だけである。
多くの企業が株主の言いなりになって短期的な利益を追求するようになることで、社員に対するコストカットや非正規社員比率の増加によって、日本国民が全体として益々貧しくなる。
さらに、株式持ち合い解消企業が消費税増税を推進することで、日本国民が消費税増税によって生活を苦しめられるようになる。

株式持ち合いが当たり前であった時代の経営者の多くは、社会全体で幸せになる経営を目指したり、従業員を家族のように大切にし、リストラは出来るだけ行わないという考え方だった。
しかし、株式持ち合いが解消されるようになってからは、企業はコストカットを当たり前のように行い、従業員を大切にする経営者が激減し、株主利益最大化のための短期利益の追求ばかりを行うようになり、いわゆるSDGsが言うような「持続可能な経営」は行われなくなった。

金融庁は現在も、企業に株式の持ち合い解消を強烈に推奨しており、ますます持ち合いが出来ないようにしている。
株式持ち合いを強制的に解消させることは、個々の企業の持続可能性は低下し、短期的な株主利益に走り、日本経済を弱体化させる。
結局、金融庁が進める株式の持ち合い解消も、世界の支配者たちによる日本弱体化装置の一つなのである。



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