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UXデザイナーが営業に挑戦してみたら、事業貢献だけじゃないやりがいに気づいた話

はじめに

こんにちは。KDDIアジャイル開発センター(KAG)のサービスデザイナー・よねみちです。
本記事では、デザイナーの自分が営業に初チャレンジしてみて気づいたことや感じたやりがいについて語ってみます。

特に、営業や企画的な動きをした方がいいとは思いつつも、一歩踏み出せない、そんな人に何かポジティブな変化が生まれたら嬉しいなという思いで書いてみます。


なお、僕のこれまでの経歴や経験などはこちらの記事にありますので、もしご興味あれば見てみてください。
https://note.com/kag_yonemichi/n/n2b5a0a50bfda

営業活動に挑戦した背景・経緯

ここ数ヶ月間、X(Twitter)を眺めているとしばしば、デザイナーと営業の関係性についての話題が目に入っていました。例えば、デザイン組織はコストセンターなのかプロフィットセンターなのか、という議論。あるいは、事業貢献に寄与する姿勢があるデザイナーになれるといいよね、といった内容です。

例えば、以下の記事にすごく共感して何度か読み返しています。

特に以下の一節とその前後で語られる、デザイナーが不本意にコストセンターとみなされてしまう構造について納得感しかありません。

デザイナーを不本意にコストセンターとして見てしまう最大の要因は、デザイナーの待ちの姿勢」にあります。デザイナーの業務が、他者からの依頼をきっかけにしかスタートしない。デザイナーは利益創出の起点にならず、常にその後方支援にまわっている構図です。

他にも、例えば以下の記事では個人に焦点を当てた「事業貢献に寄与できるデザイナー」の重要性が語られ、

デザイナーは、事業の売上に寄与する他分野への越境も検討すべきである

結論、自分は上記のように考えてます。
検討すべきと書いてあるのは、「自社の売り上げに最も貢献できる方法が、デザインに専念することである」というのであれば、あえて越境する必要はないと考えているからです。

自分の感触とすごく近しいです。デザインに専念して貢献する形も忘れてはいけない

この記事では「ビジネスオンチ」という言葉でデザインとビジネスのミスマッチのリスクが表現されています。

しかし、いつ何時も理想論的な捉え方をしてしまうと、ビジネスの現実から乖離していく。現実に向き合う実務家ではなく、安全圏から理想で語る評論家の姿勢が基本となる。ビジネスの世界に内在する矛盾を許容せず、嫌悪・忌避してしまう。そうして、現実最適化された実効性のあるアイデアが出せなくなる。

これがいわゆる「ビジネスオンチ」である。…

これらの記事を読んで、KAGのデザインチームもそこで働く自分もどんどんプロフィットセンター寄りに動いていきたいぞ、と思うようになりました。
そう感じた理由は主に2つ*です。
1つは、KAGデザイナーへの期待が、デザインスプリントやプロダクト開発を通じてお客様のCustomer Problem Fit, Problem Solution Fit, Product Market Fitを達成するドライバーになることでありアウトプットよりもアウトカムの方がより大事な点。
もう1つは、会社のフェーズとして新規案件の拡大が必要で、デザインやコンサル営業がそのフックになることが多い点。
*この節は個人の見解であることを念のため注記しておきます。

【参考】PSFとは。CPF・PSF・PMFの違いと検証方法:https://makoto-tanaka.com/business/8689/

ちなみに、KAGのデザイナーはもれなくこの辺りのアンテナが非常に高く、「ビジネスオンチ」と真逆の存在で日々尊敬です。本記事で触れるようないわゆる「営業」や「ヒアリング」をオンライン/オフライン問わずバシバシ進めたり、営業チームと商材を整備したり、複雑な要件が絡むビジネスとUX・UI設計の落とし所を見つけて納得ある着地したり…

僕よりも経験豊富なデザイナーが多いのですが、そんな「仕事が作れるデザイナー」の彼/彼女らに個人的憧れがあった上に、こういったビジネス領域は自分の得意分野を活かしてバリューが出せそうだと感じていました。
僕は精緻なUIデザインなどパーフェクトな成果物を作るのは苦手な一方で、ふわっとした課題を対話やフレームワークで解きほぐすのが得意なためです。
他分野に越境する不安よりも、「デザイン成果物だけで自分の報酬分の価値を周囲に与えられるだろうか?」という問いの方が僕には恐ろしい。

最初の記事から再び引用ですが、自分も「企画」「営業」的な動きを実践できたらKAGデザイナーチームなら3割どころか、もはや9~10割を狙っていけるのでは!?と考えました。

組織として考えた時、デザイナーの何割かは「企画」業務ができないと、不本意なコストセンター化が進みます。全員が「企画」を実行できることがベストではありますが、感覚的には3割ほどを維持できれば、組織の自立性を確保し続けられるものと思います。

https://note.com/osakiyu/n/n6862a511a57e

その一方、正直なところ、営業活動にチャレンジする前には不安も多く感じていました。必要なこと、大事なことだとわかってはいるものの、1人の人間として営業にやりがいを感じて取り組めるのだろうか?営業って漠然と不安だなあという感情です。

こうした経緯や思いを頭に浮かべながら仕事していたところ、ちょっとしたきっかけでラフなご相談から案件提案に発展する機会を作ることができ、営業メンバーと共に営業活動することになりました。

やったこと

  • 「個人的な相談」から案件化に向けてお客様の課題感ヒアリング、提案書作成、ご提案など(お金や契約周りは営業チームに手厚く支えていただいた)

    • こちらはありがたいことに受注が決まり、プロジェクト開始となりました。

  • デザインにご興味を持っていただいたお客様に対する営業チーム主体の会社紹介・ヒアリングへの同行×N回

  • 大型案件のRFP回答書の作成

やってみて気づいたこと

現場に出てみたところ、幾つもの気づきがありました。今回は4つ話します。

1.営業とUXデザインはすごく似ているということ

これは全体を通してすごく感じました。
UXデザインあるいはデザインシンキングのプロセスとすごく似ている。
エンドユーザー(営業の場合は目の前の顧客)と対話を重ねて、共感し、課題に仮説を立てる。仮説に対してこちらでなんらかのコンテンツを準備してユーザーに当ててみる。反応を見て次のアクションを決める。というプロセスですね。

UXデザインと営業のアナロジー

特に共感や問題定義のフェーズが重要な点がUXデザインと近いと感じました。ソリューションを初手で出しても響かないんですね。まずはしっかり課題を理解すること。うちのつよつよセールスメンバーの対話はUXリサーチを見ているようでした。お客様が発した課題感を俯瞰したり深掘りたりしながら、JobsやGoal, Pain, Gainを把握する様はまさにプロフェッショナル。

このデザインプロセスと営業プロセスとのアナロジーを捉えてから、今どんなフェーズで何を意識してやっているのかがなんとなくわかるようになりました。
同時に、そういった経験値を持っているデザイナーって営業とシナジー強いのでは!?と感じました。

2.「感動体験」が決め手

お客様の心が動かない限り、発注の決済が得られないのだな、ということがわかりました。提案のスペックや理由付けだけでは不十分なんですね。「一緒にやってみたい」「任せたい」といった熱量、熱量を産むだけのお客様にとっての「感動体験」が重要な鍵なわけです。
この点も、1つ目にあげたUXデザインとの相似性を感じました。UXデザインにおいてもプロダクトの機能やUIが優れているだけではなく、ユーザーがコンセプトに共感し使いたくなる、使うことに意義を感じるように体験設計することが使命のためです。

3.案件が取れたことへの圧倒的感謝

2つ目に書いた「感動体験」の延長線にあります。誰かの心を動かして、行動変容を産むというのはとても大変なことです。自分が現場に出てみてしみじみと感じました。
普段、それをやり切って案件を取り、社内に持ち帰ってきてくれる人たちへの圧倒的な感謝の気持ちが生まれました。

4.納得して、案件が取れないケースがある

営業に挑戦する前は、「案件が取れた」「取れなかった」の二元論で営業結果を捉えていたように思います。しかし今は、この軸に加えて「納得できた」「できなかった」の軸があることに気づきました。すなわち「双方納得の上、今回は案件化しなかったね」という象限があることに気づきました。

お客様としっかり対話して課題感を共有した上で、KAGとのシナジーが見えてこなかったケースです。
ニーズとソリューションがマッチしなかった、という風に抽象化すると、創出したアイデアを受容性テストにかけてみた結果、「ユーザーにささらないアイデアだったね」と結論付ける話と似てるように思います

逆に、双方納得できていないのに何故かプロジェクトがスタートする、という象限も恐ろしいですね。PSFしてないプロダクトをゴリゴリ開発するイメージか。。

事業貢献だけじゃない「やりがい」

営業活動を始める前は「会社、デザインチームとしてやるべきことをやれている」「売上に貢献できる」といったやりがいがあるだろうと想像していました。
実際に活動してみた結果、そうした事業貢献のやりがいを十分に感じました。幸運にも自分が相談ベースから作った案件が無事に受注できたことが大きかったです。

その一方で、他の「やりがい」にも気づくことができましたので3つ紹介します。

1.ゼロスタートからプロジェクト完了までやり切る達成感

ふわっふわな「お悩み状態」から徐々にプロジェクトの輪郭を作り、案件としてキックオフし、本業のデザインで解決しきるプロセスを体験できるということの達成感です。
受注が決まったプロジェクトの話を営業チームから聞いて参画するときと比較して、お客様の抱いている課題感への共感度が一段上がります。課題が外的に与えられたものではなく、「一緒に解消したい!」という内発的なものになるためいつも以上に熱量が入りやすいと感じました。

例えるなら、通常のデザイン業務は「買ってきた野菜で料理を作って食べる」プロセスだったのに対して、営業から入ったデザイン業務は「種から育てた野菜で料理を作って食べる」プロセスになるイメージです。
なんとなく後者の方が、包丁でカットする時の思いの入り方や食べた時の満足度が大きくないですか?

関わり方のイメージ

2.プロジェクトが「一粒で二度美味しい」状態になる

「デザインシンキングで課題解決し、ユーザーに理想的な体験を提供する」という点にUXデザイナーのやりがいを感じていますが、プロジェクトの企画から携わるとこのやりがいがダブルループになります。

通常、例えばto CのUXデザインプロジェクトであれば、サービスのエンドユーザーに着目しペイン解消やゲイン促進といった効果が生まれるように体験を設計していくことが担当レベルの主目的でしょう。「~~の使い方がわからなくて不安だ」「もっと~~したい!」などなど。。
ここに、企画から携わると、クライアントがデザイナーにとっての「ユーザー」となりペイン解消・ゲイン促進を目指すもう一段大回りの活動全体*に関われます。上記の例に合わせると「エンドユーザーの困りごとを解消してサービスをグロースしたい」などですね。

*営業に携わらない場合であっても、こうしたクライアントのミッションを実現するようにプロジェクトを立案、推進しています。ループ全体に主体的に関わり"クライアント体験"を設計していけるかというところが焦点。

この外側のループは「営業」「コンサル」「サービスデザイン」などいろいろな名前で表現されるかもしれませんが、やることの本質はUXデザインとそんなに変わらないです。営業とUXデザインがすごく似ていると先述した通りで。

ダブルループが完成するとどうなるか。携わるプロジェクトは1つなのに、デザインで解決しようとする課題、生み出す体験が2つになる。結果、プロジェクトあたり2倍のやりがいが感じられるわけです。
また、もし受注に至らなかったとしても、その過程でお客様の課題感がクリアになったのであればそれだけでも達成感があります。

3.ビジネスパーソンとして世界の広がりを感じる

まだまだ独力で営業できるとは思えていませんが、それでも短期間数回のTryでビジネスパーソンとしての世界の広がりを感じました。
ちょっと刺激的な言い方をすると、箱庭の中にいて餌を待つしかない受け身な状態だったのに対し、仲間のために箱庭の外に出て餌を獲りに行ける自由さが心に生まれつつあるように思います。箱庭の外に居続けて餓死せずに生きていける自信はまだないですが、餌の獲り方を知れたのが大きい

1人の人間として、いざとなったら自由に一歩踏み出せるぞっていう感触は自信になりますね。

営業同行からチャレンジしてみませんか

営業活動にチャレンジして新たな気づき・やりがいに触れたいま、多くのデザイナーさんにもこの体験をしてほしいなと感じるようになりました。この記事を書こうと思ったきっかけもその思いです。

その一方で、いきなり「コンサル営業行ってこよう」は正直しんどいと思います。じゃあどうするか。

「営業に同行する」からチャレンジがいいなと思います。特に、自分の得意分野のプロジェクトになりそうなお客様へのヒアリングフェーズがおすすめかなと思います。

不安材料になりやすいビジネスお作法的な部分は本職の営業さんを頼ってプレッシャーを軽減しつつ、自然とバリューが出しやすいためです。
デザインプロジェクトの事例や設計意図をQ&Aできる存在が現場にいることは営業さんからもお客様からも安心感に繋がるはず。
その時には、「見学」のノリで不用意にお邪魔するのではなく「Q&A担当として一緒にビジネスを作りにいくプロ」の姿勢を持つことだけ、気をつけたら良いのかなって思います。

おわりに

今回、自分なりにできるところから営業にチャレンジして、色々なことが見えてきました。
特に、デザインと営業プロセスが似ている点、事業貢献以外にもやりがいってあるんだな、と思えた点が非常に大きかったです。

「デザインはデザイナーの仕事」「ビジネスづくりは営業やコンサルの仕事」と、役割を肩書きで分けるのは世界が狭くなってつまらないなと思います。
「どこの誰でもいいじゃん、得意なこと組み合わせて必要なことやろうよ」って感じですね。
今回はそういった役割の垣根を越えられて、充実感を持って仕事に取り組めました。

「ビジネスインパクトを出せるデザイナー」「仕事を作れる人」
そんな超かっこいい存在を目指してこれからもちょっとずつTryしてみようと思います!


KAGではサービスデザイナーの仲間を募集しています!




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