[前世紀の残務整理] 射影仮説は仮説でなく定理

清水明「新版量子論の基礎」要請5が「射影仮説」です。
昭和の教科書には、波動関数(状態)の収縮さえ認めてないものが
ほとんどでした。
曰く「測定によって、系の状態は予測不可能な擾乱を受ける」とか。
故人ですが、ある素粒子論の大家は、ホームページの文献に
「池の水をバケツに汲んできて、池の水が「収縮」したとは言わない」旨
書いておられました。
今の放送大学の「量子物理学」のテキストには波動関数(状態)の収縮
については書いてありますが、「射影仮説」は書かれていません。

ボルンの確率規則と射影仮説

   状態|ψ>について、物理量Aの理想測定を行った時、
   ( |ψ>は、Aの固有ベクトルの重ね合わせ状態)
   測定値は、Aの固有値のどれか1つになる。
   どの固有値になるかは、一般には測定毎にバラつき
   (測定値はどれも対等。どれも正しい)
   固有値 a になる確率は、その固有ベクトルへの射影の
   大きさの2乗=||a><a|ψ> |^2 =||a>ψ(a) |^2 = |ψ(a) |^2
   で与えられる。
   (↑ ここまでが「ボルンの確率規則」。ここから「射影仮説」)
   測定値(=固有値)が a であったとすると、
   測定後の状態ベクトルは:
   |ψ_after> =|a><a|ψ>
   で与えられる固有ベクトルただ1つになる。

小澤正直博士によって射影仮説がボルンの規則から導出されました

   https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/172051 
   詳しくは、堀田昌寛「入門/現代の量子力学」p100~102
これにより、射影仮説は、仮説でなく量子力学の「定理」になりました。
これは、「波動関数(状態)の収縮」が、コペンハーゲン解釈の一部ではなく
量子力学本体に含まれることを意味します。
したがって、「波動関数(状態)の収縮」がない とする多世界解釈は
意味を持たなくなったと言えます。

清水先生のテキストは?

清水明「新版量子論の基礎」の「射影仮説の要請」も不要になった
わけですが、今年の4月から始まる放送大学の「物理の世界」が
清水先生の担当なので、この講座のテキストがどうなっているか
楽しみです。
テキストが到着ししだい、ここに書きます。

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