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[前世紀の残務整理] 射影仮説は仮説でなく定理

清水明「新版量子論の基礎」要請5が「射影仮説」です。
昭和の教科書には、波動関数(状態)の収縮さえ認めてないものが
ほとんどでした。
曰く「測定によって、系の状態は予測不可能な擾乱を受ける」とか。
故人ですが、ある素粒子論の大家は、ホームページの文献に
「池の水をバケツに汲んできて、池の水が「収縮」したとは言わない」旨
書いておられました。
今の放送大学の「量子物理学」のテキストには波動関数(状態)の収縮
については書いてありますが、「射影仮説」は書かれていません。

射影仮説の役割

清水先生の文献: https://as2.c.u-tokyo.ac.jp/archive/handai2009.pdf のp7
射影仮説には2つの役割があります:
 (A) 異なる測定値に対応する量子状態の間の干渉をなくす
 (B) 干渉のなくなった複数の量子状態の中からどれかひとつを選び出す
 どれになるかは、測定値となる固有値が複数あるもののがどれもが正当
 なので、一般には測定毎にバラつく。

ボルンの確率規則と射影仮説の関係

   状態|ψ>について、物理量Aの理想測定を行った時、
   測定値は、Aの固有値(一般に複数ある)のどれか1つになる。
   どの固有値になるかは、(確率は異なるが)どれも対等で正当
   なので、一般には測定毎にバラつく。
   測定値(=固有値)が a で、固有ベクトルが |a>であったとすると
   測定後の状態ベクトルは:
   |ψ_after> =|a><a|ψ> を規格化したもの
   で与えられる固有ベクトルただ1つになる。
   (↑ ここまでが「射影仮説」。ここから「ボルンの確率規則」)
   測定値が固有値 a になる確率は、
   「その固有ベクトル|a> への状態ベクトル|ψ> の射影」=|a><a|ψ>
   の大きさ( a での確率振幅=<a|ψ> = ψ(a))の2乗
   で与えられる//

小澤正直博士によって射影仮説が導出されました

射影仮説が、ボルンの確率規則と確率の公理から導出されました。
   https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/172051 
   詳しくは、堀田昌寛「入門/現代の量子力学」p100~102 や、
   EMANさんのNote.com「EMANが堀田量子第7章を書いてみた」参照
これにより、射影仮説は、仮説でなく量子力学の「定理」になり、
ボルンの確率規則と統合できると思います。
これは、「波動関数(状態)の収縮」が、コペンハーゲン解釈の一部ではなく
量子力学本体に含まれることを意味します。
したがって、「波動関数(状態)の収縮」を不要とするための多世界解釈は
意味を持たなくなったと思います。

清水先生の新しいテキストは?

清水明「新版量子論の基礎」の「射影仮説の要請」も不要になった
わけですが、今年の4月から始まる放送大学の「物理の世界」が
清水先生の担当なので、この講座のテキストを見ると
p210に、「量子論の基本原理Ⅴ」として、「新版量子論の基礎」の
式を省略したものが載っています。ただし、詳しい説明はありません。
小澤正直博士によって射影仮説は、定理となったので、
「量子論の基本原理」というのは、おかしいと思います。
清水先生に、放送大学のメールで質問してみます。

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