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月と散文

又吉直樹

いつからこんなに引き込まれているのだろう。

「劇場」、「人間」の生々しさが遠くでゆらゆらしていてこの本を見つけた。(火花は、読んでいない。又吉さんの言葉を借りるなら、恥ずかしいから)

恥の多い人生を送ってきました。を彷彿とさせる冒頭。「はじめに」ではなくて、ここからはじまっている。自分が存在していることが他者とのつながりができることで認知され、恥ずかしくなる。自分のためにちょっと大人びた文房具を買うとき、トイレの並びで鏡越しに誰かと目が合いそうになったとき、電車の中で誰かの存在を感じたときに自分も誰かにそう感じられていると意識した時。吉澤嘉代子の「あーはずかしいっ」が再生される。

どこで間違って本なんか読むようになってしまったんや
を少しおびえながら読んで、
あの頃のようには本を愛せなくなってしまった
の途中のいま。

書店が恐ろしくなった理由が、一部の文学者の反応に失望したことなんて哀しい。本という友人について、読書感想文を書くのであれば、とメロスを通じた社会を書いていたのに。
未来の自分にもメールを書けるようになったんだよ、過去の自分にメールを書いていた又吉さん。面白くない、という声を超えられたのならば、書店に行けなくなったことも超えられえるとメールで書いてあげてほしい。とも思うが、今の書店は彼にとって「親が離婚した実家のような存在」なのかもしれない。自分が育った場所でありながら、不可抗力でできた闇がある場所。

やっと続きを読むことができて、本を嫌いになることなんてないと記されていて安堵した。ほっ。

表装の松本大洋さん、鉄コン金クリートの方でほぼ日でも手掛けてる方でしたか・・・とても素敵。

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