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不純物の産業活用

今回は興味を持ったことについて備忘録的に書いてみます。
(簡単にまとめるつもりがしっかり書いてしまった。)

1. はじめに

鉱業や工業において不可欠なものはたくさんあるが、特に、近年は環境への配慮というものがある。

鉱物は基本的に純物質で産出することは少ない。しかし、製品として出荷する場合は、純物質乃至、産業的に活用できる混合物である必要がある。
製品とするために踏む過程が、選鉱であったり、製錬であったり、精製であったりする。

その中でも特に、今回は不純物除去に伴う副産物について注目したいと思う。

今回は例として足尾銅山とセメントについて取り上げる。
前半は足尾銅山。後半はセメントについて紹介する。

2. 足尾銅山とは

足尾銅山は言わずもがな公害問題で広く知られている鉱山である。江戸時代から採掘されていた鉱山で、近年まで採掘されていた。負の側面として、鉱物の製錬過程で発生する亜硫酸ガスの未処理による周囲の森林破壊や、鉱山からの排水の未処理による、水質汚染が挙げられ、田中正造が活躍したことでも知られている。
主に、黄銅鉱などを採掘し、製錬することによって、粗銅を生産、出荷していた。

さて、特に煤煙のことについて取り上げたい。足尾銅山の製錬は、足尾本山駅にある、本山製錬所というところで行われていた。詳しくは過去記事の足尾探索記を見てほしい。

古河機械金属 本山製錬所

3. 足尾銅山の製錬と脱硫

さて、ここから排出される煤煙が問題となっていたわけだが、これの解決の為に、脱硫という過程を設けることとなった。ここからは化学の話になってしまうが、かみ砕いて説明していこう。
この精錬、脱硫の過程では、自溶製錬法、電気集塵法、接触脱硫法を用いている。

軽く流れを説明していこう。

1.硫化鉱を採掘する。

2.銅の含有率が高い物を選鉱する。
            →これが銅精鉱となる。

3.銅精鉱を高濃度の酸素と共に自溶炉に投入する。
              →不純物を排ガスとして取り除く。

3の過程を自溶製錬法を呼び、この過程を経た、銅は銅マットと呼ばれる。さらに別の炉で製錬(転炉)してことによって粗銅を生産する。なお、足尾で独自に改良された自溶製錬法のことを特に足尾式自溶製錬法と呼ぶ。

さて、排ガスは電気集塵装置を用いて排ガス中の粉塵を回収する。さらに先で接触脱硫法を用いる。

接触脱硫法は、接触法と呼ばれ、高校化学でも習う内容だ。
簡単に過程を解説する。

1.亜硫酸ガスに高濃度な酸素を加え、三酸化硫黄を生成する。

2.三酸化硫黄に硫酸を加えることにより発煙硫酸を生成する。

3.発煙硫酸にミスト状の水を加える。

4.硫酸が完成する。

このような過程を踏んだ排ガスは有害物質の含有が少なくなる…と言った、具合だ。この、電気集塵や脱硫の過程は、排ガスの浄化だけではなく、副産物を生み出すため、それを商品活用することが出来る。

濃硫酸専用貨車のタキ29300形

実際、足尾銅山は主力製品の粗銅のほかに、副産物である、硫酸を出荷していた。このように、脱硫は産業活用することが出来るとても有用なものであることが分かる。

今度は太平洋セメント、特に、太平洋セメント東藤原工業と火力発電所について見ていこう。

4. 太平洋セメント東藤原工場とは

太平洋セメント東藤原工場とは三重県北部に位置する、藤原岳から石灰石を産出し、セメントを生産している工場だ。近年では大きく減ってしまった鉄道貨物による製品出荷を行っている数少ない工場である。

実は、この工場のセメント製造にはJERA碧南火力発電所が大きく関わってきている。

5. 碧南火力発電所とは

JERA碧南火力発電所は愛知県南部に位置する日本最大の石炭火力発電所だ。この発電所は1号機から5号機が存在している。この火力発電所の最大の特徴は、産業廃棄物の再利用である。石炭火力発電所は石炭を燃やすという特性上、煤煙に石炭灰(フライアッシュ)や亜硫酸ガスが含まれてしまう。

元々、フライアッシュは活用されておらず、産業廃棄物として埋め立て処分されていた。しかし活用策が見いだされてことによって、フライアッシュの有効活用が始まったのである。

また、足尾銅山の項でも述べた通り、煤煙から亜硫酸ガスを取り除く必要があるため、ここでも脱硫の過程が必要となる。

6. 産業廃棄物の有効活用

セメントの製造工程は少々複雑なので順を追って解説していこう。

太平洋セメント東藤原工場での動き

1.藤原岳から石灰石を掘り出し、選鉱する。
2.選鉱した石灰石を粉砕し炭酸カルシウムを生産する。
3.炭酸カルシウムを出荷する。

炭酸カルシウムはホキ1000(またはホキ1100)形という専用の貨車に載せられ、三岐鉄道からJR貨物、衣浦臨海鉄道に引き継がれて輸送されていく。

写真はホキ1100形

JERA碧南火力発電所での動き

1.石炭を燃やし発電を行う。
2.石炭の燃焼で発生した煤煙を電気集塵機によって、粉塵(フライアッシュ)を除去。
3.粉塵を除去した残留物に、炭酸カルシウムを加え、石膏を生産。
4.フライアッシュ並びに、石膏を出荷。

炭酸カルシウムは、電気集塵で回収できなかった残留物を脱硫するために用いられる。

発電所から出荷されたフライアッシュは衣浦臨海鉄道、JR貨物、三岐鉄道と引き継がれて輸送されていく。この時の貨車はホキ1000(ホキ1100)形である。往路で炭カルを積載した貨車に、復路はフライアッシュを積載しているのである。

貨車の側面にはフライアッシュ及び炭酸カルシウム専用と書いてある。

再び太平洋セメント東藤原工場での動き

1.発電所から出荷されたフライアッシュと石膏、
 採掘した石灰石などを加え、フライアッシュセメントを生産。
2.フライアッシュセメントを四日市出荷センターに搬入し、出荷。

フライアッシュセメントの出荷は三岐鉄道、JR貨物、太平洋セメント四日市出荷センター専用線といった感じに引き継がれて、出荷されていく。
この時の貨車は、粉粒セメント積載専用のタキ1900形が使用される。
復路は、空荷で運行される。

このタキ1900形は全国各地のセメント会社が私有して使用されていた車輌であった。各地のセメント鉄道輸送廃止に伴って余剰となった貨車を寄せ集めて、当地で使用されているため、同型の貨車であっても複数の形態が存在する面白い車輌でもある。

タキ1900形
この工程を図解するとこうなる。

と言った感じに、相互で産出されるものを上手く活用していることがよく分かる。
セメントの原料の一つ、フライアッシュは、粘土の代替品として活用しているのだ。このセメント製造の流れも、脱硫や廃棄物を上手く活用した事例である。

7.まとめ

環境、人への配慮。製品としての活用がうまくなされている両者の取り組みを紹介した。今の時代、廃棄物を減らし、環境にやさしくと叫ばれる世の中に適合したモノづくりであったと考える。

8.さいごに

今年8月に名古屋方面に旅行へ行った。専用線や臨海鉄道、専用貨物列車などの撮影を主に行った。セメントの製造について事後調査を行ったところ想像以上に興味深いことが判明し、筆を執った次第だ。ついでに脱硫で製品を生み出していた足尾についても再度調査を行い、本記事を完成させた。

調査の中で、中国では、火力発電所への脱硫装置の設置率が低く、大気汚染に繋がっているという記述も見かけた。超大国に片足突っ込んでいる中国もより積極的に取り組むことで、産業としても保健衛生的にも更なる発展を遂げることが出来るのではないかと感じた。今後このような取り組みがさらに進んでいくことを願って本記事の結びとしたい。

今回はここまで。


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