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ゲーム開発の「規模と発明のトレードオフ」とどう戦うか?インディーゲームでローグライクを作ってみた

本日(2020/03/19)SteamにてローグライクであるDIMENSION REIGNをアーリーアクセスリリースした。今までと違う開発、ビジネスモデル、ゲームモデルだったため戸惑うこともあったが、チームの助けもあり面白いゲームになり、完成までこぎつけることができた。

タイトル:DIMENSION REIGN (ディメンションレイン)
プラットフォーム:Steam
リリース形式:アーリーアクセス
デバイス:Windows 7 / 8.1 /10
ジャンル:ローグライク(ローグライト)
値段:1,840円(リリース後7日は10%オフセール)

ゲームを簡単に説明すると「ずっと俺のターン」×「お壊れビルド」のローグライクゲームだ。圧倒的な無双をしつつ、手に入れたものの中で最善のビルドを組んでいき、強大なボスに作ったお壊れビルドをぶつけてみるゲームだ。もちろん、今までに書いてきたnote記事のメカニクスや、まだ書いていないメカニクスも存分に使っている。

ただ、この記事上では、プレイ前に製作者がゲームそのものを語りすぎるのは野暮でもあるしネタバレだとも思うので控えている。なのでゲームそのものではなくて、背景や挑戦していることについて書こう。

なぜ、インディーゲームなのか、なぜローグライクを選択したのか。またそれのビジネス的な見込みはどんなところなの?など、会社で行うインディーゲームの具体的な話を書いておこう。

簡単な経緯から、説明をしておこう。去年の5月に独立をして新しい会社を作った。そこで、規模が小さく始められそうなインディーゲームでローグライクを作ることにした。ARやVRなども選択肢に入っていたが、事業として見たときの不確実さが極めて大きく、またARやVRに対するチームの経験値不足から、最終的に選択肢から外れた。

ゲーム業界のイノベーションのジレンマ

前段として、なぜソシャゲを作るのをやめたのかを書いておこう。まず、私の立ち位置ではあるが、いくつかの会社で5本ほどオリジナルと版権のソシャゲをディレクターとして作っていた。4本ほど当たり、ほどほどに成功したほうだろう。

だが、スマホアプリになった当初から気にはなり始めていたことではあるが、開発費と規模が大きくなり、演出や物量はリッチになるが、開発での発明や探索は求められなくなってきていた。その理由はビジネス要件側で、大規模な開発費は回収できないと会社としては困るのである。その結果「大成功を目指す」から「失敗しないでそこそこの成功をする」ことを求められるようになった

私自身は、新たな発明をしたいタイプなので、そういう戦い方はあまり好みではない。成功打率が高いので、ビジネス的な合理で考えると、手堅く当てるタイトルでディレクターをするべきである。するべきではあるが、守りの開発は私はあまり楽しくないし、今までの成功は攻めて成功したのであって、守って成功したのではない。また、数億円クラス、30人以上の開発規模は、発明や探索という意味ではひずみを抱えてしまうため、攻めの開発をするのにも、ものすごく苦労をするようになった。

大手コンシューマゲーム開発会社の人から聞いた話ではあるが、コンシュマーゲームでもPS2時代に似たようなことになったと聞いている。規模の拡大、予算の増大によって、当たるもの(回収できるもの)しか作らない、すなわち売れたゲームの続編ばかりが出てくるという時代だ。これも同じように、内部の開発者は悩んでいた。

私は、本来であれば、5~10人くらいの小規模開発で新しい発明をしていくのが最も性にあっているし、楽しいし、パフォーマンスがでるのだ。私は、どうするべきなのだろう?

起業をするにしても、収益性、開発費のサイズで言えば、このタイミングではソシャゲが一番よい。だが、短期であればよいが、中長期で続けていくのは、自分自身ゆでガエルになるリスクがある。とはいえ、無理に合わないことをやっていっても、数年で無理が来るのは目に見えていた。であれば、新しい分野での挑戦を模索するしかないだろうという結論に至った。私は、挑戦できる分野を検討して、インディーゲームに絞ることにした。

この話は、開発者であれば、よくある話というのは理解できるだろう。初期市場の数人でやっている時代と、何十人の開発体制での開発は性質が変わってしまうのだ。ビジネス的要件からこうなってしまうのだが、さらに日本的ビジネスでは横に倣えの性質が強く、よくみんなで一緒にこの進化の袋小路に入っていってしまう。そうすると、いつかのタイミングで、独自の生態系で進化をした、外部からの黒船に市場が食い荒らされるのだ。最近だとPUBG、荒野行動とかフォートナイトがわかりやすいだろうか。

本来であれば、組織や市場がうまくいっているときに、新規市場の投資をするべきではあるのだが、うまく行っている市場と黎明期の市場の規模の差の問題と、1つの組織が抱える事ができる文化的な多様性のキャパの問題でうまくいかないことが多い。一般的にはこのジレンマは「イノベーションのジレンマ」と言われている。

イノベーションのジレンマとは、巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論。クレイトン・クリステンセンが、1997年に初めて提唱した。
大企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力なく映るだけでなく、カニバリズムによって既存の事業を破壊する可能性がある。また、既存の商品が優れた特色を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かない。そのため、大企業は、合理的な意思決定の結果として新興市場への参入が遅れる傾向にある。その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく後れを取ってしまうのである。

提唱が97年なので、だいぶ時間は立っているが、ミクロで論理的に正しい判断を行っていくと、マクロの判断とぶつかるという話なので、日本、世界を問わず現状でもあらゆる分野で繰り返しよく見る。

イノベーションのジレンマでは、解決法として、「組織自体を分離する」というのを提唱している。これは、10000倍儲かっている隣の部署で、「今から0ベースで市場の探索を始めますよ」とやると、必ず「無駄なコストでは?」となってうち切られるからである。儲かっている企業ほど、効率化が進んでいて、価値基準判断として効率化の優先度が高い。その結果、新しい挑戦が無駄なものに見えるのである。合理的な意思決定が企業を潰すのである。

私は今回独立をしたので、そのバイアスは問題ないが、そもそもとして新しいところでゲームを作って食べていくということをする必要がある。それは、決して低いハードルではない。

ビジネスモデルとしてのアーリーアクセスインディーゲーム

まず大企業のような投資は難しいし、チーム規模も数人から始まるレベルである。そうすると物量、質においてすごいものを作るのは難しい。しかし、Steamのインディーゲームであれば、一点特化型のゲームが世界で数十万本売れるという市場となっている。

例えば、宇宙船シミュレーションローグライトで有名なFTLであれば300万本の売り上げがあり、定価は10ドルなので、日本円では30億円の売り上げがあることになる。Steamのプラットフォーム手数料(30%)やセールなどを加味しても、おそらく10億円相当は手にしているはずである。

我々のチームはプロジェクトの開始にあたり、Steam Spyを活用してどのようなインディーゲームが何本売れているのかを調査した。Steam Spyは2018年4月にSteamの規約変更で正確な売り上げデータが取れなくなってしまったが、いまでもPatreonでお金を支払ってメンバーになると、不正確ではあるが売り上げの数値を得ることができる。以下は調査の一例であり、売り上げ本数はSteam Spyがある程度正確な数値を返してくれている2018年ごろのデータを参照している。Steam Spyでどのようなデータが見れるかは以下のInternet Archiveによって過去記事を参照してほしい。


Enter the Gungeon

FTL

Enter the Gungeon 88万本、Crypt of the NecroDancer 92万本、factorio 112万本、Kerbal Space Program 200万本、Risk of Rain 150万本、Mushroom 11 22万本、This is The Police 41万本、Convoy 8.4万本、60 Seconds! 34万本、mini metro 50万本、Prison Architect 240万本、Banished 190万本、World of Goo 75万本、Valiant Hearts 50万本、Paper please 200万本、This war of mine 250万本、etcetc


そうやって自分たちが知っているゲームと、売り上げを突き合わせて行くことで、チームの中にクオリティと売り上げの勘所を醸成することができた。
こうして我々のチームには一つの勝利目標が決まった。

8人で1年開発で開発費5000万円、定価2000円で5万販売で1億円。プラットフォーム手数料は差し引いての会社利益は2000万円。

もちろんこれは捕らぬ狸の皮算用であるが、アーリーアクセスを行いながら長期的に売り上げを伸ばしていくことで、この数値はもっと改善していく可能性がある。最終的にはSlay the SpireのようにSwitchやPS4のコンシューマ移植まで行ければ、レバレッジは相当に大きくなるわけである。けれどもアーリーアクセス期間まで含めてた人件費で赤字になるかもしれない。

ゲーム開発というのはギャンブルである。極論するとすべてのビジネスはギャンブルである。そうであるならば、軌道修正の回数を増やすことで成功率を上げるしかない。そのため、現時点においてはリスクとリターン、レバレッジとしてSteamのインディーゲーム市場でアーリーアクセスでのリリースを選択したわけである。

そして、初動がすべてのコンシューマーゲームと違い、インディーでアーリーアクセスでリリースを行うと、アーリーアクセス開始以後も大幅バージョンアップや、セールのタイミングで売れてくれることが期待できる。つまり、安定収益がある状態で開発者を安定雇用し、ゲーム開発をし続けられるモデルが出来上がり、ギャンブル度合いが下がるのである。

もちろん、捕らぬ狸の皮算用だ。蓋を開けてみるまでは分からない。賽は投げられた。

なぜローグライクか?

Steamで新たな潮流として生まれたローグライク(”Slay The Spire”やFTL)が、斬新でとても面白かったので、自身もそのような新しいものを作りたいと思ったためだ。

ジャンル自体私が個人的に好きというのもあるし、システムの多様性はあるが、物量としてはそこまで大規模にならないため、今回の小さなチームで作成するものとして適当だと判断した。

加えて、ローグライクはアーリーアクセスと相性が良いという仮説もあった。
以前の記事でソーシャルゲームは「意図的に拡張性を持ったゲームデザインを行う必要がある。」と述べたが、これは実はアーリーアクセスを行うインディーゲームにも当てはまると考えている。

アーリーアクセスとは継続的なアップデートを行いユーザの期待値を高めつつ、コアユーザを経由してアップデートをTwitterやYoutubeでバイラルしてもらうことで、より多くの人に情報が届くことを期待する。

ローグライクはちょっとやそっとのアイテム追加、機能追加では壊れない。そのため、ダンジョンやキャラクター、世界観、ストーリーテリングを増やしていくことで、継続的なアップデートが可能になる。そのため、ローグライクとアーリーアクセスは相性が良いと考えた次第だ。

余談だが、逆にアーリーアクセスと相性が悪いゲームは何だろうか?と考えてみると、2D弾幕シューティングなど、すぐに例を上げることがでできる。2D弾幕シューティングなどは、少しでもゲームバランスが変わったら、ゲームそのものが全く変わってしまうような薄氷の上にいる。ちょっとやそっとの機能追加ではゲームが壊れない、拡張に対して余裕のあるゲームデザインが適用できるのがシミュレーションゲームやローグライクなのである。

DIMENSION REIGNのコンセプト

まずは、トレイラーをみてこんなゲームだというのを感じてほしい。

「ずっと俺のターン」
バトルにパズル的な要素をいれ、特定の行動をする(HPバーをブレイク)と追加行動ができる仕組み(ブレイクチェイン)を入れてある。うまく行動することで、通常の何倍ものダメージを敵に与え、敵から反撃をさせないで倒すことができるという仕組みだ。このゲームはうまくプレイすると9割程度のバトルで、敵に何も攻撃させないでクリアができる。ただそのうえで、緊張感をもったり、単調にならないようにと様々な工夫をしている。

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「お壊れビルド」
このゲームは、普通のゲームだと数十時間かけてビルドを作っていくのと同じくらいのビルドを1~2時間程度で構築する。壊れの系統や組み合わせもたくさん用意してあり、手に入れたものの中で最善のビルドを組んでいき、強大なボスに作ったお壊れビルドをぶつけてみるというゲームだ。

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これで一人分のビルド。もう一つ同じくらいのビルドができる。

アーリーアクセス期間の開発

今回は、私も初めてのアーリーアクセスリリース(早期アクセス)ではある。開発者あるあるではあるが、ゲームのリリースをした後で、こうすればもっと完成度が上がったのにというのに出くわすことは多い。今回はアーリーアクセスによってユーザからのフィードバックを取り入れてより完成度の高い、とても面白いゲームが作れることを楽しみにしている。

アーリーアクセス期間では主に次のような機能追加を行う予定でいる。

・チュートリアルの拡充
・新しいジョブ/タイプの追加
・新しい武器の追加
・新しいレリックの追加
・多言語対応
・BGM、背景、演出等々の追加
・コントローラー対応
・ゲームバランスの調整
・新しいダンジョンの追加
・世界観・ストーリー要素の追加
・ユーザMODの対応

これらのアップデートは随時行っていくが、その時々において、ユーザのプレイの統計データや、コミュニティハブでのコメント、Twitter、Youtube等での反応を拾い、より面白いゲームになるように調整していく予定である。
コミュニティハブへの感想の投稿、ハッシュタグ #DIMENSION_REIGN でツイートしていただければ、開発者はすべて目を通します。

世界リリースへのチャレンジ

今回、もう一つの挑戦だと思っているのが、世界向けのリリースである。初期リリースでは、日本語版だけのリリースになったが、英語、簡体語など、色々な言語でのリリースを予定している。

今後の市場の流れを考えると、早めに世界に対してのアプローチを蓄積したほうが良いと感じている。Steamであれば、それも可能だろうと考えている。ここは実際にチャレンジしてみて、現実はどうなのかというのを見ていきたい。そしてそれがどうなったかは、随時noteで公開していけたらと思う。

今回は開発初期からローカライズすることを前提に、多言語対応のデータ変換のパイプラインをくみ上げており、翻訳者さえ見つかれば他の言語への移植は比較的簡単なように作っている。そのため、もし、このゲームを面白いと思っていただき、英語、繁体字以外の言語への翻訳をしてもいいという方がいたらご連絡いただければと思います。

まとめ

ゲーム制作は、趣味でない限り、市場の動向の影響を受ける。その場合、市場のフェイズによっては、規模とビジネス的安全性が要求される。その結果、ゲームモデルがある程度のところに収束をしてしまい、結果ユーザー離れが起きる。でもこの流れは基本的には避けられない。

避けるためには、ほかの市場へのピボット(軸足をずらすこと)が必要である。ピボットをした場合、戦い方が変わるため非常にリスクが高い。もはや、これはスタートアップの世界である。

今回私は、ローグライクをSteamのアーリーアクセスで出す決断をした。

コンセプトや、ゲーム、また私やチーム、チャレンジなどに興味があったら是非アーリーアクセスに参加して一緒にゲームを作る過程を楽しんでほしい。プレイをして思うことがあったら、SteamのコミュニティハブやTwitterのハッシュタグで意見や感想を書いてほしい。現時点では粗いところはあるが、とても面白いコンセプト、体感のゲームになった。

いろいろ知見がたまったり、開発状況や、売り上げ状況の進捗などが発表できるようになったら、noteの記事として書いていきたい。

次回予告

次回の記事は、「DIMENSION REIGNを作るのに参考にしたゲーム」を予定してる。以下は参考にしたゲームのリストだ。

・Slay the Spire
・雪道
・風来のシレン
・Into the breach
・FTL
・XCOM、XCOM2
・ペルソナ4
・ダンジョンメーカー
・ファイアーエムブレム
・Sid Meier's Civilization: Beyond Earth、Deal Cells
・ソードアートオンライン

これらのゲームが好きな人は、DRを触ってみて、これらのゲームの要素がどのようにDRに反映されているのかを考えてみるのも面白いかもしれない。

リリース記念キャンペーンのお知らせ

公式アカウントのフォロー&リツイートで、抽選で10名にSteamキーをプレゼントするキャンペーンをしております。興味のある方はこちらから、よろしくお願いいたします。

メディア・ゲーム実況関係のみなさまへ

DIMENSION REIGNや私、会社などに興味のある方は、下記のメールアドレスまで連絡いただけますとありがたいです。
dim-reign@scopenext.jp
画像素材提供など、できることは協力いたしますので、よろしくお願いいたします。

追記:2020/03/20

リリース後御礼報告

みなさまのおかげで非常に評価されています。ありがとうございます!
これからも、ユーザーの声を聴いて、もっと面白いゲームを目指して、アーリーアクセスを運用していきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

紹介していただいた記事など





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ゲームデザイナー/ディレクター。ScopeNext取締役。ARバトルのGraffity顧問。かえるが好き。お仕事やご依頼はTwitterのDMからどうぞ。

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