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連載小説の進め方について、アジャイル開発の本から学んでみた その1

連載小説を書くのは大変なプロジェクトだ。しかもそのプロジェクトの進め方を誰も教えてはくれない。

小説の書き方指南本の多くは書き下ろし小説を書くためのものである。つまり執筆の時間がたくさん確保されていることが前提である。
だが連載小説は違う。「毎月あるいは隔月で面白い原稿を完成させて読者に届け、半年ないし一年が経過した時には単行本一冊分のストーリーができあがっている」という無茶なプロジェクト(※1)である。それをどう進めていけばいいのかを書いた指南本を私はまだ見つけていない。(※2)

正直、このプロジェクトが苦手である。人生はやり直せても連載小説はやり直せない。「必ず定時で帰る主人公」を1話で書いてしまったら、このテーマで5話も書くのは無理だと思っても後の祭りである。計画性や器用さ、という小説家の資質とはかけ離れたものがこのプロジェクトを成功させるためには必要なのである。

もちろんプラスの面もある。編集者とマンツーマンで進める書き下ろし小説は刊行されるまで読者の反応がわからない。だが連載小説には毎月楽しみに読んでくれている読者が必ずいる……かどうかはわからないが、その存在をイメージすることができる。Twitterなどで読者の方が書いてくださる感想や、他社の編集者から寄せられるアドバイスからヒントや励ましをもらい、物語を進化させることも少なくない。

だが、問題は進め方である。前述の通り、連載小説が苦手な私は今までに数々の失敗を犯し、編集者さんたちに迷惑をかけている。どうしたものかと考えてあぐねていた最近、自宅の床にこんな本が落ちていた。

最近新しい部署に移ったパートナーが勉強のために買ったらしい。会社員にとっては異業種の仕事のやり方を取りこむことは日常茶飯事だからだろうが「君の仕事にも役立つかもしれない」とも言われた。……ほんとかい。

そもそも「アジャイル開発」の「アジャイル」ってなんだ。「すばやい」「俊敏な」という意味らしいが、素早い開発とはどのようなものなのか。Wikipediaで調べてみた。

アジャイルソフトウェア開発 (アジャイルソフトウェアかいはつ、英: agile software development) は、ソフトウェア工学において迅速かつ適応的にソフトウェア開発を行う軽量な開発手法群の総称である。例えばオブジェクト指向開発において、設計とプログラミングを何度か行き来し、トライアンドエラーで改良していく手法を指す。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

自分の仕事と重なる気がまったくしない。そう思って読み進めていると、下記の文章に行き当たった。

アジャイルソフトウェア開発手法の多くは、反復 (イテレーション) と呼ばれる短い期間単位を採用することで、リスクを最小化しようとしている。 1つの反復の期間は、プロジェクトごとに異なるが、1週間から4週間くらいであることが多い。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

プロダクトの開発を短期間に分割して行う……。その部分においては、なんとなく連載小説と近いものを感じる。その目的がリスクを減らすためだというのも少し似ている。(※3)

ここで、アジャイル開発が必要とされるようになった背景をパートナーに聞いてみた。「まあ、アプリだろうね」とのことだった。「完成品を売るのではなく、ローンチ後に機能を追加していくソフトウェアが主流になってきているからではないか」とも言っていた。

さて、ここでもう一度、さっきの本である。

アジャイル開発が何なのかは少しわかったが、「アジャイルサムライ」とは何なのか。表紙の刀の写真も怪しい。パートナーによると「それは著者のおふざけだよ」ということである。「達人開発者への道」という副題からもわかるように、すでにアジャイルな開発で悩んでいるマネジャーたちが読んで「ああああああ、だよねええええ」となる本らしい。

私のために書かれた本でないことだけはたしかだが、大事なのはそこから何を勝手に学びとるかである。連載小説が得意になるために、不器用な小説家が藁をも掴もうとしている様子をお送りできたら幸いです。

たぶん「その2」に続く。


(※1)「連載開始前に原稿を完成させる主義」「書き下ろししかやらない」という小説家も多い。経済的に余裕があれば、そうした方がいいに決まっている。

(※2)漫画「BAKUMAN」では「伏線でもなんでもなかったことを伏線に仕立て上げる」と言う技術を使うシーンがあり。何度かお世話になった。漫画の世界では連載のメソッドが共有されているようだ。

(※3)連載小説は文芸誌の購読者のために書くものである。同時に小説家が他社の仕事を優先したり、執筆に行き詰まって逃げるというリスクを低減させるためのものでもある。