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連載小説の進め方について、アジャイル開発の本から学んでみた その2

少し前にこんな記事を書いた。

連載小説の進め方について、アジャイル開発の本から学んでみた その1

息抜きに書いたこの駄文、ミステリー作家の円居挽さんが読んでくれたらしい。

読んでくれる人がいるなら、もう少しだけ続けてみよう。

アジャイル開発の達人になれると噂のこの異業種の書から、連載小説の進め方について、強引に学びを得ることにする。

しかし、この本を開く前に私は基本的な疑問にぶつかった。

そもそも連載小説とは何だ。

なぜ小説家は無茶なスケジュールを背負ってまで連載をするのか。原稿料がもらえるから。そのメリットは大きい。しかし、それよりも大事なことがある。連載小説は読者にどんな価値をもたらすのかということである。

新作をすぐ読める。それに尽きる。

大好きな作家の新作が「書き下ろし」された場合、執筆開始から半年は待たねばならない。完成まで5年、10年待つこともザラである。だが連載なら最短で1ヶ月で物語のはじまりの部分を受け取ることができる。次の月には続きが読める。大好きな小説家の連載が始まったと聞いて、一番嬉しいのはそこではないか。

つまり連載小説とは、読者にアジャイルに小説を届けるシステムである。

しかし、連載は一度始めたらやり直せないため、破綻というリスクと隣り合わせである。冒頭で引用した円居挽さんが「難しい」と言っているのは、おそらくその点だろう。

筒井康隆氏が著した『小説の極意と掟』には、多くの有名作家が破綻に至った例が紹介されている。また、その類型も列記されている。

ストーリィの破綻。
首尾結構の破綻。
中断。
結末の破綻。
外的状況の破綻。
作者自身の破綻。

『小説の極意と掟』筒井康隆より

この破綻を絶対に避けたいならば、「完成した準備稿を作り、それを分割して掲載する」ことが最も有効である。……が、それは「書き下ろし」に限りなく近い。読者に破綻の少ない物語を届けることができる代わりに、連載前に少なく見積もっても半年程度の執筆時間と、その間の生活資金が要る。

そう考えると、書き下ろし小説は、開発スタイルとしては「ウォーターフォール型開発」に近いかもしれない。銀行のATMのように障害が許されないケースなどに適用される開発モデルで、アジャイル開発とよく比較される。

ウォーターフォール・モデルは、ソフトウェア工学では非常に古くからある、もっともポピュラーな開発モデル。
プロジェクトによって工程の定義に差はあるが、開発プロジェクトを時系列に、主として以下のような工程で行われる。
1.要求定義
2.外部設計(概要設計)
3.内部設計(詳細設計)
4.開発(プログラミング)
5.テスト
6.運用
上記のように作業工程(局面、フェーズ)にトップダウンで分割する。線表(ガントチャート)を使用してこれらの工程を一度で終わらせる計画を立て進捗管理をする。原則として前工程が完了しないと次工程に進まない(設計中にプログラミングを開始するなどの並行作業は行わない)事で、前工程の成果物の品質を確保し、前工程への後戻り(手戻り)を最小限にする。ウォーターフォール・モデルの利点は、工程の進捗管理がしやすいことである。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

書き下ろしは基本、物語全体の執筆が終わるまでは編集者や校閲者に渡されない。刊行もされない。それゆえ計画的に書くことができる。そういう点においても「ウォーターフォール型開発」に近いように思う。

開発者が大勢いるソフトウェア開発と執筆者が一人しかいない小説を比較するのが強引であることは承知しているが、下記の比較図を見て欲しい。

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「アジャイル開発とウォーターフォール開発の違いは何?アジャイル開発の手法や意味も要チェック」 より引用

設計を「プロット」、実装を「執筆」、テストを「編集者からの指摘と校正」に置き換えると、なんとなく「ああ」という感じがするのではないだろうか。

「アジャイル開発」のフローは短編小説集や連作短編の作り方にも似ているが、今回は「アジャイルであること」を避けられない連載小説のプロジェクトだけに話を絞って進めていこうと思う。しかも、半年間の準備期間が用意できなかった場合とする。(そもそも半年間で準備稿ができあがるという保証もないのだが)

駄文のくせにひどく頭を使った。
早く「アジャイルサムライ」を読めと思われているかもしれないが、私は考えるのが遅いのだ。

「その3」にたぶん続く。