見出し画像

短編を作ってみよう③プロットを作るぞ!(ネタバレ度:★★★)

下記の記事の続きです。

<これまでのあらすじ>
「ほろ酔い読書」というお酒をテーマにしたアンソロジーの2冊目の執筆陣に加わらせてもらった朱野。Twitterで対立した二人が生牡蠣を食べにいくという設定を思いつく。対立したのに一緒に牡蠣を食べに行く理由を考えるうちに「××するために来る」というベタなアイディアを考えついた。

それでは続きをやりましょう。

やっぱりエンターテイメントで面白いのは・・・・・

ネタバレ度:★★★だよ!と先に書いたので、前の記事の「××するために来る」の部分の伏字部分を公開します。

復讐するために来る」でした。

伏せ字にする必要あったっんかってくらいにベタですね。それでもネタバレにはなっちゃうので伏字ににしました。すみません。
もう少し詳しく言うと、こうなる。

「二人はかつてTwitterで対立し、一方は炎上させられた。炎上させた方は相互フォロワーがかつて対立した相手だと気づかずにいるが、炎上させられた方は忘れてはいない。生牡蠣好きという共通点を用いてオイスターバーに呼び出し、復讐する」

「ほろよい読書」のためのアイディアにしては物騒になっちゃってきちゃった……。でももういいんです。そもそも「ほろよい」=「リラックス」とは限らないじゃないですか。酒の席でうっかり言った一言で地獄が始まることだってあります。それに、読者が、人間同士の美しい絆だけをツマミにして飲みたいかと言ったら違うかもしれない。登場人物が泥試合をする姿を見て「酒が進む」という女性もいるはず。私はその線でいく。

気分がアガってきたので、もうプロット作っちゃおう

泥試合と決めたら、急にテンションが上がってきた。まだ詰めきれていないことはたくさんあるけど、

・二人のキャラクターを作っていく
・二人の対立した理由をざっくり決めてみる
・物語の構成を決め、プロットを仮組みしてみる

この三つはプロットを作りながらやってしまうことにする。
さあ、ドエンタメを作るぞ!

ドエンタメを作る時、私はいつもプロットを四段階に分ける。

1)危機が起こる
2)あがく
3)悪くなる
4)解決する

クーンツの『ベストセラーの書き方』と言う本がある。すごいタイトルだが、エンタメ小説の基本中の基本が書いてるので、プロの作家でこの本を持ってる人はわりと多い。

『わたし、定時で帰ります。』も、この本に載っていた物語の構成に倣って書いた。ただし、やってる間にどんどん単純化して、こうなった。

1)危機が起こる
2)あがく
3)悪くなる
4)解決する

実際に四段階にきれいに収まるとは限らないのだが、とりあえずこのベタベタな枠にはめてみる。
まずは白い紙を四つに折る。

縦にも三つに折った理由は後でわかります


私は付箋でプロットを作ることが多い。
きちんとした文章にしてしまうと余白がなくなるのと、構成要素の順番を変えたいと思ったときに組み替えるのが面倒だからだ。アウトライナーでもやってみたが、付箋の方が組み替えるのが早いし、空間の使い方の自由度が高い。手で書くから大変ではあるんだけど(3Mは活字を印刷してくれる付箋を出してほしい)、書きながらアイディアを詰めていけるという利点もある。

さっき決めた下記の設定をもう一度、確認しよう。

「二人はかつてTwitterで対立し、一方は炎上させられた。炎上させた方は相互フォロワーがかつて対立した相手だと気づかずにいるが、炎上させられた方は忘れてはいない。生牡蠣好きという共通点を用いてオイスターバーに呼び出し、復讐する」

この設定に沿って、物語の構成要素、例えば登場人物の設定、セリフ、やりたいシーンなどを思いついた順に付箋に書いて、横の紙に貼っていく。

セリフの場合はキャラクターごとに色分けしておくとわかりやすい

この付箋を全部使うわけではない。ブレストしてるだけだ。

ここで、男性キャラの名前は城戸行人に決定。女性キャラの名前は近藤茉理になっているが、なんか違うなと思っていて、まだ仮。

付箋がある程度溜まったら、さっきの四段階の紙に貼っていく。左の列に貼られた濃いピンクの紙には「危機が起こる/あがく/悪くなる/解決する」のそれぞれの段階、ざっくりとした展開(あくまで仮で)が書いてある。

付箋の消費量がすごい

中央の列にはの三つの列は男性キャラ・城戸行人が各段階で言いそうな台詞を書き出して貼りつけている。右の列には女性キャラ・近藤茉理(仮)の台詞を青や水色(青が足りなくなったんでしょう)の付箋で貼ってある。この時点で、二人のキャラがきちんと決まっているわけではない。セリフとセリフをぶつけてみて、どういう関係性が面白いか、試してみているのです。

右上に貼ってあるオレンジの付箋は何かですって? ここにはこの物語のトーンが書いてある。泥試合とは決めたものの「優しいトーンで」「お酒をのとある。アンソロジーなので、自分色を出しつつ、読者の期待値から外れすぎないようにしようという、プロ根性が感じられる。

黄色い付箋は…なんででしょうね。特筆したかったことかな。

この時点では、こういう展開を考えていた。

1)危機が起こる
歓談しているうちに男性キャラがTwitterで炎上中であることがわかってくる(彼はその痛みを女性に癒してもらいに飲みにきた)
2)あがく
男性キャラに炎上させられた過去があると女性キャラが明らかにする
3)悪くなる 
男性キャラを女性キャラが追い詰めていく 
4)解決する
女性キャラが牡蠣に当たり、当たった経験のある男性キャラに介抱されるハメに

二人は和解はしないものの、「牡蠣に当たる苦しさ」と「Twitterで炎上する苦しさ」と言う二つの体験を共有する。この段階ではそういうラストをふわっと置いてみている。

資料本で得た知識をインプットして、もっと面白くならないか考える

アイディアがもう出なくなったので、今度は牡蠣の本を買って、そこで得た牡蠣の知識を付箋に書いて、二人のセリフに追加していく。

小説内で披露する知識は執筆前に調べておくと楽ですよ

ここで「牡蠣は雌雄同体である」「牡蠣はセックスフードと言われ、男女が牡蠣を食べていたらセックス後という暗喩として映画などで使われてきた」という知識を得た朱野。なんだろう、脳がパチパチする。

性別を変えることができる牡蠣は男女二元論を超えた存在だ。まさに今の若い人たちのような生き方。なのに「男女が牡蠣を食べていたらセックス後」などという、いかにもオッサンが考えたぽい意味づけも昔はされていた。

そういえば……

バブル期には「飯を食わせたらやれる」みたいなナンパテクがあった。「焼肉食べにきている男女はセックス後」みたいな決めつけもあった。今定年間際の方たちくらいまでだと思うけど、電車の中でチューしてるカップルもたくさんいた(戦中派に怒られていた)。そういう軽薄な時代を生きた人たちが今この社会を支配しているわけで、そりゃセクハラがやむわけもない。

城戸行人と近藤茉理(仮名)は対立はしているものの、二人とも先進的な企業に勤めていて、やはり古い時代の人の古い価値観に悩まされているのではないだろうか。きっとそうだ。
そのストレスゆえに二人は対立してしまったのかもしれない。

プロットを作りながら、登場人物のプロフィールを考える

彼らのプロフィールを考えて、黄色い付箋に書いて貼り付けてみた。

城戸行人は営業をオンライン化したいスタートアップの代表。初職はベンチャーで、対面コミュニケーションを重視する古い時代の人たちと真っ向から対立する存在だ。
女性キャラは、名前が綾乃亜佑に変わってますね。これも(仮)で、また後で変わります。キャラにしっくりくる名前を模索し続けています。
彼女はフェムテックのスタートアップ企業で広報をやっている設定。フェムテックのスタートアップは前に取材させてもらったことがあり、その時の知見を活かす。最初は広報担当の設定も、後でマーケティング担当に変わる。「生理のない人のためだけの社会」を作ってきた人たちとぶつかっている人物である。
だが彼女の方は元大企業社員でもある。この辺りに、ベンチャー出身の城戸と対立しそうな要素がありそうに思える。

ここで、全体を俯瞰してみる。たくさん貼った付箋を眺めていると「ジュリアス・シーザーが牡蠣欲しさに戦争を仕掛けたことがある」という牡蠣の歴史を書いた付箋がぴかりと光った。
そう、これは戦争の物語なのだ。牡蠣をめぐる戦いの物語でもあるし、資本主義の世界で誰が生き残るかをめぐる戦いの物語でもある。そこから思いついたバージョンアップした設定がこれである。

登場人物たちは、中高年男性だけが快適な社会を変えたいと願う若きビジネスパーソン。
でも、ひょんなことからTwitterでぶつかり合い、結果として城戸が綾乃(仮)のツイートに女性蔑視的な引用リツイートをして炎上させた。
城戸はそのことを忘れているが、綾乃(仮)は覚えていて、彼と相互フォローになって復讐の機会を窺っていた。そして、その時がついに訪れた。
城戸が過激なツイートで炎上した夜、綾乃(仮)は彼をオイスターバーに誘き寄せる。
その店の名は「オイスター・ウォーズ」。
これは、ソーシャルグッドをめざすビジネスパーソン二人が本気で戦う一夜の物語。もちろん食べた牡蠣の数をも競う。

よし、設定はだいたいできたんじゃないか?
このあたりでオイスターバーの取材にいきたいところだ。なぜなら真牡蠣が美味しいのは3月までだから。この時点で、3月末は目の前だった。
ゴー!オイスターバーへ!

12個しか食べなかったのに

体を張って取材しなければならないこともある

取材後、私は牡蠣に当たった。
ノロウィルスにやられたのだ。背中を破壊するような痛みが数日つづき、五日くらいろくに仕事ができなかった。「牡蠣はね、ほんとうにひどいときは救急車ですよ」と医師は言った。ノロウィルスで死ぬことはないせいか、完全に自業自得のせいか、「救急車ですよ」と言ったときの医師の顔はやたらおかしそうだった。
牡蠣は悪くない。体調が万全ではないのに食べにいった私が悪いのである。それに当たるシーンを書こうと思っていたのだから、当たってむしろ幸運と言えるのではないだろうか。私は自分にそう言い聞かせた。

だが、当たるシーンを書くことは結局なかった。
プロットとは違うラストへむかって、主人公たちは走り始めたのである。

続く。

次の記事ではさらにネタバレが進行するので、今のうちに読んでおこう!という方はぜひお買い求めくださいー!