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デビュー作『マタタビ潔子の猫魂』、再文庫化

第4回ダ・ヴィンチ文学賞にこの小説の原稿を投稿した11年前、私はまだ会社員で人生で二度目の雇用不安の中にいました。

時は2008年、このやり方ではもはや成長できないとわかっていながら、昭和の「質より量」の成功体験を引きずっていた時代でした。そこにほんのわずかな期間、好景気が起きたことで「質より量」精神が最後の燃え上がりを見せ、勤め先の職場に超ブラックな労働環境が発生しました。

心身を限界まで追いこんだ末に「この会社にいても未来はない」と退職願を出したのが2008年の夏の終わりのことですが、経済史を知っておられる方なら、「それを出すのは今じゃない!」と叫んでしまうことと思います。

その数日後にリーマン・ショックが起き、私は再び超就職氷河期の底に投げこまれました。転職エージェントに「中途採用募集は数ヶ月前の三分の二から三分の一に減っています」と言われたのを覚えています。そんな真っ暗な時期に書いたのが『マタタビ潔子の猫魂』です。

『マタタビ潔子の猫魂』(KADOKAWAのサイトから試し読みできます)

主人公の田万川潔子は28歳の派遣社員。
派遣切りという言葉が新聞にデカデカと出た時代、潔子は常に雇用不安に怯えており、職場の嫌な人間関係を断ち切ることができません。しかし、そんな彼女に限界が訪れた時、彼女に仕える憑き物・猫魂が発動して世にも恐ろしい復讐を行います。そんなルサンチマンにあふれる作品ですが、できうる限りふざけて書いたのが良かったのか、第4回ダ・ヴィンチ文学賞の大賞を受賞しました。

再文庫化にあたっては、蒼月海里さんに解説を、単行本の時にもお世話になったボラーレの関さんに装幀を、漫画家のイシデ電さんに挿画をお願いしました。

当時はこの小説、「妖魔もの」として宣伝されていました。でも今読むとガチガチの会社ものなんですよね。けれど、そのことに私も気づきました。会社員でいることが当たり前すぎたんでしょう。そのバックボーンこそが強みなのではないか、と気づいたのはだいぶ後のこと。『わたし、定時で帰ります。』で再び普通の会社で働く女性を書くことに戻るまでに、デビューから8年を要しました。

今読むと『マタタビ』と『わた定』はとてもよく似ています。この2作品がどうつながっているのか、巻末の作者あとがきに書きました。
ご興味のある方はぜひお読みください。