万引き家族 - また希林さんが好きになった
まあホント今更ながら今更『万引き家族』を鑑賞。あちこちに馴染みのある風景が映る映画でそれだけで家族のアレコレが滲んでくる作品ではあったのだけれど是枝監督の視点と演者の力量の噛み合いが凄まじくてそちらに気を取られてしまうところもあり。そういう意味で『誰も知らない』や『歩いても 歩いても』、それから(引き合いに出すのが適切かはわからんけど)河瀬監督作品の方が好みではあるのだけどまあそんな事はどうでもいい、ただ映像作品としてなんの文句もないというかブッ飛ばされました。すんごいかったです。
社会派作品としての側面はありつつも家族というものが如何に刹那的で曖昧なものであるか、それは構成員本人にすら捉えられないものであるのに断続的に繋がる一瞬一瞬は受け止め切れないほどに重く苦しい、でも渇望するほどに求めずにいられない…そんな自分も知らない心の奥底の靄の中に引き摺り込まれるような思いを掻き立てられるところが是枝作品だなあと改めて感服いたしました。えっと意味のあるようなないような言葉でケムに巻きたい訳じゃないんですけどこういうの文字で書くの本当に難しいですね。堪忍です。
嘗ては血縁上の、あるいは広範な意味での共同体の強化や再生産という意味あいが強かった家族という生活単位は豊かになるにつれて(行政単位としての意味は別として)知らぬ間に各自再定義しなくてはならないほどその意義は薄くなり捉えづらいものになっていて、それだけに今幸せな家庭を営んでいるもそうでない人も、その他諸々境遇に限らずどこかに突き刺さる部分があるという怖さがあったと思います。
是枝監督の視線には毎度毎度キッツい気持ちにさせられるのはそうなんですけど、かと言って難解なところはなくて非常に平易で既視感のある表現としてちょっとしたさりげない仕草や眼差しがひりつくタイミングで当たり前のように差し込まれてくるのがおっかない。何というかオッサンぽく野球で例えるとカウント3-2でストライクゾーンをギリで外れる辺りに涼しい顔で投げ込んでくる老練さがすごいなあと毎回やられてしまうわけです。だからまあ要するに普通の人が普通にしてるだけなんで演者の力量はあるに越した事はないんだろうけどちょっとノイズというか要らんとこに目を持っていかれるような気持ちも些か感じてしまいました。その点初見の外国人視聴者には新鮮でよかったんだろなと思うけど。かねてから狂おしいほど愛してる松岡茉優神なんかもうホラーですよ。いや、ホントこれは文句じゃないんですよ、許してね。
そこへいくと樹木希林御大は流石ね…すごいんだけどすごくない見せ方がすごかった。あの老獪さは巧さだけではなくて演技も人生も積み重ねてきた上での軽さがあったなあと感服しました。どこか狂気を孕んだところがあるんだろなとか如何にも月並みで素人っぽい想像をしてしまった次第です。
僕はこれが趣味ですと語れるほどではないにしても割と骨董とか好きで色々見て回ってるんですけど希林御大もお好きな方だったようでいろんなとこにそんな紹介がされてました。NHKなんかでも結構番組があって毎度楽しみに拝見してたんですがその中で映ったご自宅もかっちょいい骨董で彩られててすごく素敵なんですよね。まあ大女優だし?流石よね〜なんて見てると実は(全部かどうかは知らないけど)イミテーションばかりで高価なものは無いんだと仰ってました。
別に欲しい人が持ってればいいというような感覚に、元々購入する資産も無い僕としては勝手に共感を抱いていたのですけど今思うとやっぱりそれって変わってるなあと思います。骨董って見れば見るほど嫌でも審美眼って備わってくるものだし希林御大はその知識もいい加減なものではなかったから当然ご自宅にあるものだって価値あるものではない事は(知っていることとは別に)肌で感じてしまっておられたと思うんですね。骨董は次の持ち主や世代のために持てる人が持って大切にしておくっていうある種ノブレスオブリージュ的な側面もあるし例え高価なものでなくても手元には大切なものを置いておくってのが普通だと思ってたんです。そりゃあホントはどういう感覚でそうされていたのかなんて僕にはわかる筈もないし例えイミテーションでもウン十万するようなものだったのかもしれないですけど、並外れた演技をされる方としての彼女を思うとやっぱり色々考えちゃいますね。こういう言い方が適切か迷いますけど訓練された身軽さというか淡白さというか…その積み重ねの質量にビビってしまいながらも樹木希林さんやっぱり大好きだなあとしみじみ噛み締めてしまいました。
終盤に池脇さんや高良くんが良心を持った人として出てくるんだけどこの辺りもなんか絶望的な断絶があって、それを受けた信代さんの静かな泣き方もただごとではない凄みがあって見入ってしまいました。細部までホント抜かりないです。
重たい映画なんでまたすぐに再視聴とはいかないと思うけどいつかは必ず観てしまうと思います。いやはやすごい映画でした。
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