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中村倫也「美食探偵」は奇跡の「黒蜥蜴」。小芝風花のコメディエンヌぶりに瞠目! 米光一成&たけだあや

テキスト/米光一成 イラスト/たけだあや

「美食探偵 明智五郎」がめちゃ面白いから観てーって原稿を書こうと、公式ページに飛ぶと、お知らせが出ていて、第7話から放送延期である、と。ガーン、ショックである。

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ショックであるが、24日(日)からは、3週に渡り地上波未放送のオリジナルストーリーを含む“特別編”らしいので、「見逃していた!」って人は、よいタイミングなのではないか。ぜひ、ぜひ、ぜひ、観てーー。

『黒蜥蜴』の世界である

探偵の名が「明智五郎」だってことでわかるが、基本構造は江戸川乱歩的世界。
それも『黒蜥蜴』の世界である。
『黒蜥蜴』は、美貌の女賊黒蜥蜴と名探偵明智小五郎が対決するスリラーだ。
追うものと追われるものの丁々発止の果てに、お互いがお互いのことを考え、思い、理解し合うことによって、もはやこれは敵同士でも、ライバルでもない、完全なる真の恋愛関係なのではないか! という境地まで達しながらも、ふたりは戦うしかない、戦うことによってしかお互いを理解し合えないという実に切ない構造を有している。
三島由紀夫によって戯曲化され、美輪明宏の代表作としても有名だ。

この構造をリファインして、探偵がグルメで、事件が「最後の晩餐」に関わってくるという要素までぶっこんだのが、この『美食探偵 明智五郎』。
ここまでトリッキーでアクロバティックだと、一歩まちがえれば大惨事。観てられないドラマになってしまうのだが、『美食探偵 明智五郎』は奇跡のバランス。いや、奇跡ではない。製作にかかわった人たちのスキルと愛の結晶で、めちゃくちゃバランスのとれた良いドラマになった。

原作が東村アキコ。『東京タラレバ娘』『海月姫』『かくかくしかじか』『偽装不倫』などなど。描く漫画、描く漫画、みな面白い。天才。サーヴィス精神と物語愛に満ち溢れた表現者。
この原作を、見事に脚本化したのが劇団「ロリータ男爵」主宰、『女子高生の無駄づかい』『トクサツガガガ』などの脚本を手掛けた田辺茂範。おしゃれでトリッキーで底抜けに明るく、抜けた底から闇が見えてくるような作品を描く才能が、今作でも炸裂している。

のだめの上野樹里以来の衝撃!

そして、出演陣。
美食家で、クールで、ループタイの探偵明智五郎を中村倫也。
美貌の殺人鬼であり、連続殺人の首謀者でもあるマグダラのマリアを小池栄子。
このふたりは、高次のコミュニケーションを戦わせるふたりとして、あくまでもオフビートに、シリアスに、劇的に、演じ続ける。
そこにコミカルにぶっこまれるのが、助手となる小林苺。演ずるは小芝風花。すっごいコメディエンヌである。ドラマ『のだめカンタービレ』で上野樹里が野田恵を演じたとき、マンガ以上にマンガのキャラクターが実写で出てきたと驚いたが、それに匹敵する衝撃。
明智五郎とマリアのシーンで、ダークでありえない世界観が形成されたときに、それをぶっ壊す勢いで、小林苺が飛び込んできて、ぱっと世界を明るくする。この切り替わりが、このドラマの醍醐味のひとつ。「小林苺」ってテロップで示されないと「誰?」ってなるほどの大胆な変装も見どころ。
友達の桃子を演じる富田望生、警察サイドの北村有起哉、佐藤寛太、バチッとハマり、殺人ファミリーの武田真治、志田未来も、ピッタリ。
しかも話数が進むにつれて、わき役だと思っていたキャラクターに、めちゃくちゃかっこいい見せ場が用意されていて、盛り上がる盛り上がる。
すべてのキャスティングがここまでぴったりハマっているからこそ、トリッキーな設定が活きてくる。スキルと愛で調理すれば、食材がアクロバティックであればあるほど、食べたこともない絶品の料理になるのだ。
いや、マジで、面白いので観て。Huluで観れるから観て。

「これ、逆に良いよ!」になるはず

今日放送の第6話、未収録のシーンがあったらしい。しかも、明智五郎に小林苺が思いを伝える重要なシーン。このシーンをコロナウイルスの対策をしたうえで撮影したので、黒バックの抽象的な世界に転調する、と!

この苦肉の策は、肉を切らせて骨を斬るパタンで、逆に名場面になる予感だ。
ドラマがそもそも、ありえないほど高次の丁々発止を描いて、虚構度が高い。マリアと五郎が対話するシーンは、そもそもビデオチャットでソーシャルディスタンスはバッチリだった。
そういったドラマだから、黒バックに転調するのも、うまくやれば、江戸川乱歩フレーバーで「これ、逆に良いよ!」になるはず。そして『美食探偵』製作陣なら、この苦境を乗り越えられるはず。
第6話、ドキドキワクワクしながら観ます。

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「美食探偵」レビューは、「朝日新聞テリング」でも、毎週日曜連載中ですテキスト/さわだ イラスト/たけだあや

さわださんのレビューの魅力は、とにかく読みやすい! 自然体で観察し、物語の構造を美味しい弁当をつまんでいくがごとく、最良のバランスの味わい方を教えてくれる。
絶妙なスパイスとして、嫌味のない諧謔、さりげないツッコミが添えられるのもGOOD。
わたしは、レビュー界の「井之頭五郎」だと思ってます。
あと、文章のリズムがいい! 
お笑い芸人として客前にたってた経験が大きいのだと思うのですが、ときに書き言葉の整合性を超えて感情に訴えてくる。うまいこと書いてやろうという欲、衒いより「笑い」「愛嬌」が勝ってて、まさに「レビュー」(批評じゃないんだよ)の良さが全面にでている。
どのレビューも面白いから、「さわだ」「沢野奈津夫」(前のペンネーム)で検索してぜひ!

たけだあやさんは、さわださんに紹介してもらったイラストレーター。「テリング」連載と、この「ドラマ大学」向けの描きおろしを観ただけでもわかるけど、まず描き分けが巧い。これは人間臭く耽美に描こう、これは人間関係をぎゅーっと凝縮して楽しさを伝わるように描こう、といったコンセプトがまず入ってくる。頭がいいイラスト。
たけださんもお笑い出身で、よくみると、イラストのなかに「そこ!?」って笑いが入り込んでたりして、油断もすきもない。ずーっとみていられる。
無理なお願いにこころよく応えてくれて、素敵なイラストありがとう。「美食探偵」の登場人物の特性、関係、ドラマの雰囲気が魅力的に解釈されてて、いっぺんに伝わってきます!

テキストレビューも書けるひとなので、次回はそっちもセットでお願いしたい!

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