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マーダーミステリー『ブルークロスの純愛』制作秘話


【ネタバレ無し】作品に込めた想いと、願いを書き殴りました。

1.遊びの核を決めろ

時は2021年春。

マーダーミステリー『ブルークロスの純愛』のひとつ前に制作した、新クトゥルフ神話TRPG『慟哭の山』の完成から2年経ち、私は次に何を作ろうかと思考を巡らせていた。

私は制作を、遊びの核。何を楽しんで欲しいのかのテーマを決めるところから始める。

例えば『慟哭の山』では、新クトゥルフ神話TRPG(7版)になって変わったルールと、銃器を使った戦略的な戦闘を楽しんでもらう事を主軸に置いた。

遊びの核を先に決めて、それに適した舞台やシチュエーションを考え、シナリオとして肉付けしていく。これが私のスタイルだ。

何故この作り方なのかといえば、自分が作りたいコンテンツが小説でも映画でもなく、ゲームだからだ。ゲームはどんなにストーリーが良くても、遊びの要素が劣っていればクソゲーになる。だから、遊びから先に設計する。それを土台であり幹にしてしまえば、後から何をくっつけてもブレないからだ。

もう一つ理由がある。自分が過去に遊び、大きな影響を受けてきた神ゲーはもれなく、世界観やストーリーがゲームシステムと密接に絡み合い、お互いを補完しあっていた。そのシナジーが、他のコンテンツには出せない没入感を生み出していた。

自分でもそんな作品を作りたいと考えた時、シナリオを先行させると、どうしても、見せたいキャラクターやセリフ、シーンを優先してしまいがちで、長いムービーの合間にミニゲームがあるような……そんな作品になってしまう。だからやはり、とにもかくにもゲーム性。遊びの核を構築する事を何よりも優先するのだ。

私はゲームという枠組みが持つ力を信じている。

さて、遠回りな話をしてしまったが、『ブルークロスの純愛』は何がテーマだったのかというと、オンラインに特化したマーダーミステリーの作成だ。

制作当時、(私の把握している範囲では)マダミスは店舗型等のオフラインでこそ最も輝くコンテンツであり、オンラインでのプレイも悪くはないが、オフラインには劣るという風潮があった。

被害妄想はなはだしいのだが、私はその話を聞いた時、なぜだか自分を否定された気分になったのだ。

これはきっと、私がマダミスやTRPGのほとんどをオンライン環境で遊び、日々、モニター越しに感情をぶつけて一喜一憂し、涙する生活を送っていたからだ。一緒に遊ぶ仲間はいつも画面越し。仲が良くても顔を知らない友人は多い。それでも確かに、平たい板と電気の流れる糸を通して生まれるドラマにはたくさんの感情が詰まっていて、その全部が本物で、決してオフラインの遊びに劣らないと。そう確信していたからなのだと思う。

だから、ひとことで言えば腹が立ったのだ。

そして同時に考えた。何故、マダミスでそのような評価が生まれたのだろうかと。単純にミステリーやゲームとしての質が低いだけ?あるいは、別の課題があるのだろうか?その疑問を胸に、既存のオンライン作品を勉強させてもらった結果として私が当時たどり着いたのは、

既存のオンラインマダミス作品は、オフライン用に設計された枠組みやシナリオを、オンラインに移植しただけのものが極めて多い

という結論だった。

であれば、私がやるべき事はひとつ。至極単純だ。
作ってやろうじゃないか。オンラインに特化した、オンラインだからこその体験ができるマダミスを!
そう思い立ったのが、『ブルークロスの純愛』製作のきっかけだった。



2.ネオエゾシマ誕生

『ブルークロスの純愛』の商品ページやトレーラー画像では、内容を「サイバーパンク×怪盗×マーダーミステリー」と銘打って宣伝している。

トレーラー画像

これがどう決まったのかといえば、好きなものを詰め込んだらこうなった。以上。

嘘です。嘘ではないが、それだけではない。
確かな打算があって、私は電脳大都市ネオエゾシマにたどり着いた。

かえる3号というゲームクリエーターは本当に弱小で、能力も低く、バズらせるようなSNS運用術も持っていない。卑下しているのではなく、事実としてそう分析している。

だからこそ、作品の顔となるビジュアルやテキストはキャッチーである事にこだわる。
こだわって、こだわって、こだわり抜いて決めている。
そうしなければ遊んでもらえる土俵。勝負の場にすら立たせてもらえないのだから。

かの有名な白犬は「配られたカードで勝負するしかない」と言ったそうだが、そもそもカードが無いのだ。だから、内臓に手を突っ込んで、激痛と共にひねり出した血まみれのカードを必死に握りしめて勝負を仕掛ける。私に出来るのはそれだけなのだ。

打算は2つ。

1つ目の打算は、既存の作品との差別化されて目を引きやすいこと。
競合となる当時のオンライン作品を調べた結果、人気作品はやはり、ミステリー感のある、静的な印象を受ける作品が多いと分析した。しかし残念ながら、私には同じ土俵で戦うだけの力はない。だから、狙うのはその真逆。王道に対する邪道。動的でハイテンション。ひたすらクールでカッコいい。そんな作品こそが目指すべき道だと結論付けた。だから、ミステリーの主人公である探偵の好敵手。怪盗を主役に据える事を決めたのだ。
デジタルゲームのパッケージをイメージしたキャッチーで明度の高いメインビジュアルは、数年経った今でもしかりと光を放っているのではないだろうか?

2つ目の打算はミステリーが作りやすいこと。
私にとってミステリー作りは初めての体験であり、大きなハードルだった。加えて、一本筋のミステリーならまだしも、複数人の行動が複雑に絡み合うマダミスで現実世界を舞台にした場合、ミステリーの理屈付け。リアリティを持たせるのに大苦戦する事が簡単に予想出来た。
一方、科学技術の発達したサイバーパンク世界であれば、トンデモ科学のガジェットや技術を持ち出しても違和感が無いし、ミステリーの理屈を作りやすかった。だから、サイバーパンクなのだ。

余談だが、私はこの考え方を、かの有名な法廷バトルアドベンチャーゲーム『逆転裁判』シリーズから得た。現代を舞台にした推理モノにも関わらず、霊媒要素が絡んでくるというふざけた設定なのだが、霊媒でも魔法でも、そこに明確なルールさえあればミステリーになる。そう教えられた。やはりゲームはいつも私にたくさんの事を教えてくれるのだ。



3.信じて、研ぎ続ける

遊びの核を決め、キャッチーかつ合理的なコンセプトを決め、本格的に制作を始めたわけだが、そもそも、ミステリー未経験の私がマダミスを作れると判断したのには経緯があった。それは、オンラインマーダーミステリーの金字塔となった名作『狂気山脈 陰謀の分水嶺』のオフラインパッケージ版で、ルールブックのDTPを担当させて頂いた経験によるものだ。

DTPにあたって厳密なページ数の制約があったため、何を何ページに配置するかという割付から作業を開始したのだが、初期のルールブックは短期間で作成された影響もあり、情報がとっ散らかっていて、非常に難解だった。(ゴメンねダバさん)
それを紐解き、再構成して、ページ順に読み進めて行けば進行出来るよう修正する中で、作品の構造を理解する事が出来た。そして、マダミスの心理に近づいたような……今思い返しても恥ずかしいのだが、万能感にも似たスーパー慢心タイムに至ったから……至ってしまったからこそ、自分でもマダミスを作れると判断するに至ったのだった。

スーパー慢心タイムに入った私は、そこから超スピードでテストプレイ可能な段階まで制作を進た。そして、『マダミス狂気山脈』作者の一人であるダバさんにも参加頂き、テストプレイに臨んだのだった。

「どうです?凄いの作ったんですよ!へへっ。こりゃあ天下とっちゃいますかね!」
テストプレイ開始前、こんな浮ついた事を考えながらニチャついていたのをよく覚えている。直後にその自信が、完膚なきまでにぶちのめされたからだ。苦い思い出ほど記憶に残る。

おかしい……いったい何が起きている?時間経過と共にシナリオが進行しても、推理や議論が全く前に進んでいかない!フワフワとした推測だけが積み重なってゆく……。シナリオ全体を把握している自分にはすぐに分かった。あぁ、これは大失敗だと。

大切な時間を頂戴している以上、テストプレイであっても楽しんでもらう事は絶対条件。そう考えている私は、気持ちがバレないよういつも以上に自信たっぷりにふるまい、穴だらけの推理構造をアフタートークとして語り、なんとかその場を乗り切りきった。

こんな酷い有様では、参加してくれたメンバーも何から突っ込めば良いのか分からないだろう。一人で今後どうするのか整理しよう……そう思っていたのだが、テストプレイ終了後、ダバさんは親切にも声をかけてくれた。そして忙しい中、改めて時間をとって、私に多くのフィードバックを与えてくれた。

「やりたい事はわかるし、魅力的だけれど、これはミステリーになっていない」

ダバさんの助言は的確かつ、分かりやすく言語化されていた。

一言一句が針のように突き刺さった。
喉が異様に乾いた。
泣き出す寸前のように体が熱くなった。
でも、優しさにあふれていた。
私は与えられた助言と、優しさを、ひと欠片もこぼすまいと必死にメモを取り、それを消えかけの灯火にくべた。

井の中から大海に飛び出したカエルは、波ひとつで浜辺に打ち上げられ、現実を思い知らされた。そして同時に、人に救われ、温かさを知った。

この出来事が無ければ、『ブルークロスの純愛』は世に出る事すらなかっただろう。
ダバさんにはこの場を借りて、改めて感謝申し上げたい。

何が失敗の主要因だったのかといえば、達成しようと決めたハードルがあまりにも高かったことだろう。
初期からのテーマである「オンラインの利点を活かした新たなマダミスであること」を達成しつつ、「従来のマダミスプレイヤーが受け入れやすい比較的オーソドックスな型のように見えること」さらに、「マダミス経験が少ない(特にTRPGを良く遊んでいる)プレイヤーでも楽しめること」

この全てを一度に達成しようとした結果、全てが中途半端になり、空中分解していたのだ。

だから、解決策は至極単純だった。欲張らず、どれか1つをそぎ落とせばいいのだ。そうすれば、制作は楽になるし、作品自体もシンプルになって、遊びやすくなる。明確で、とても合理的な解決策を私は知っていた。

だが、本作をプレイしてくれた方ならわかるだろう。
私はその道を選ばなかった。

選べなかった。

私は作品ごとに決めるテーマとは別に、信念を持っている。
それは、「様々なプレイスタイルが許容され、かつ、プレイを通じて新たな楽しさに気づける」作品に仕上げるというものだ。

特に今作では、マーダーミステリーとTRPG。私が大好きな2つのコンテンツそれぞれが持っている楽しさを知ってもらいたいと、情熱を注いでいた。界隈がクロスして、より発展して欲しいと願っていた。

だから、引けなかった。
どんなにハードルが高くても、全部を盛り込みたかった。

問題と課題を見つけ、解決策を探し、修正する。
刀を研ぎ続けるように、それを約半年間。一心不乱に続けた。

全ては自分が信じた楽しさと信念が、遊び手の心へ届くように。

凡庸だと分析している自分にもし優れた点があるのだとすれば、醜悪なほどに諦めが悪く、出口の見えない暗闇を盲目的に走り続ける事が出来る精神性なのだろう。

そんな、重たい想い。石のように固い意志を貫いて生み出した作品だからこそ、
「ロールプレイ多くて大変だったけどたくさん笑った!」
「マダミス初めてで推理上手くできなかったけど面白かった!」
こういう感想をいただけると、本当に嬉しい気持ちになる。

新たな楽しさに気づいてもらうこと。
界隈をクロスして、またマダミスやTRPGを遊びたいと思ってもらえること。

それこそが、私が真に目指したかった事だから。

この作品と出会ってくれてありがとう。
愛してくれてありがとう。



4.オワリとハジマリ

汚い殴り書きの長文をここまで読んでくれた皆さん。
本当にありがとうございます。

作品に込めた想いなんてものは、プレイ通して感じてもらうものであって、直接語るのはなんか、こう、ダサいし重いな。

そう思っていたので、本来制作秘話は書く予定がありませんでした。ですが、なぜこのタイミングでこれを書いたかといえば、発表から2年以上経った今でも定期的に寄せられる感想ポスト等から、本当に、たくさんの方が『ブルークロスの純愛』を好きでいてくれているんだな。というのを感じて、ダサかろうが重かろうが、何かファンに向けて気持ちを届けたいと思ったからです。

そして、もう一つ。

2024/6/7に新作を発表する予定を立てたからです。

今回の制作には『ブルークロスの純愛』もかすむほど時間と費用をかけました。本当に、一個人が趣味で作る作品としては馬鹿としか言いようがありません。

それはまぁ、自己満足の世界なので良いのですが、今回の制作は、今まで以上にたくさんの方の力を借りました。
本当に、たくさんの方に支えられ、刺激され、ようやく発表に行き着いたんです。

だから、協力してくれた全員が、関わって良かったと思ってもらえるプロジェクトにしたいと強く思いました。そのために、なりふり構わないと決めました。やれることは全部やろうと決めました。

これを読んで、もし、かえる3号というゲームクリエーターの事が好きになったのであれば……次の作品も期待していいかな。と思えたのであれば、

GMやPLとして新作を遊ぶ時間と情熱を投資してください。
人生の貴重な時間を、少しだけ私にください。

きっと、また、新しい楽しさを届けられると思うので。


THE END
And... Let's Start New Game.

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