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双子の推しに溺愛されるなんて!第1話【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

<あらすじ>

日奈子は平凡な女子高生。
友達に連れて行ってもらった双子のアイドル『ジェミニ』のライブで
初めて彼らを生で見て一目惚れし推し活動に全ての時間とお小遣いを使っている。
ある日、広告会社に勤めている母親が職場で知り合った男性と再婚することとなったが、なんとその人は『ジェミニ』の2人の父親だった。
推しのアイドル、日比谷凛と日比谷蓮がまさか自分の義理の兄になることにーー!?
 
父親から女の子には優しくしなさいと育てられたせいか、2人は一つ年下の日奈子を甘やかし、可愛がり、溺愛してくる。
 
推しは双子のアイドルで、義理の兄!? 甘々ドタバタラブコメディ!


【第一話】
 
■ドームのコンサート会場、ステージ
 
<キラキラと輝く瞳と、無敵の笑顔。そんな彼らに、女子はみんな恋をする>
 
凛「今日はみんな、来てくれてありがとうー!」
 
蓮「新アルバムのライブ、開催できて嬉しいよ。みんな振り付け覚えてきてくれたんだね」
 
ステージの上で手を振る凛と蓮。
大勢のファンが歓声をあげペンライトを振っている。
 
凛「改めて自己紹介します、日比谷凛とーーー!」
 
蓮「日比谷蓮です!」
 
凛・蓮「『ジェミニ』です、よろしくお願いします!」
 
<一度見たら目が離せない。愛される星の元に生まれた、天性のアイドルーー>
 
 
■日奈子の自室
 
ライブの配信動画を嬉しそうに見つめる日奈子。
 
日奈子「ああー、やっぱ今回のライブの千秋楽のドーム公演、最高すぎる…!
セトリもいいし、トークも良い。色違いの衣装も可愛いし似合ってる…!」
 
<2年前、友達の付き合いで初めて行ったアイドルのコンサート>
 
<当時デビューしたての『ジェミニ』は、双子のアイドルということでとても話題になった。ダンスの上手い兄の凛と、抜群に歌声の綺麗な弟の蓮>
 
<彼らの曲やパフォーマンスはとても洗練されていて、すぐに動画の再生回数は100万再生を超え、国民的アイドルになった>
 
<私も、そんな彼らに心を奪われた1人で、友達と『推し活』に励んだ>
 
ジェミニのグッズや、ペンライト、ポスターなどが机に置かれている。
クラスメイトと一緒にスマホを見ながら叫んでいる日奈子。
 
<そう、一ファンには、願っても手が届かない存在のはずなのにーーー>
 

扉の開く音。
 
凛「ただいまー!日奈子、帰ったぞー!」
 
蓮「久しぶりの家だな。日奈子、元気にしてたか?」
 
日奈子「うん。おかえり、凛くん、蓮くん」
 
玄関から入ってくる2人は背景がきらめいている。
思わず目がハートになる日奈子。

 
<そう、まさか愛しの推しと、ひとつ屋根の下で過ごすことになるなんて、一生分の運を使い切っちゃったぐらい幸せ!>
 
 
『双子の推しから溺愛されるなんて!』
 第1話 

 
 
<なんでこんな夢のようなことになったかというとーーー>
 
■日奈子の学校、休み時間の教室
 
友達3人で集まってスマホの画面を見ている。
 
日奈子「はあー新曲のダンスもかっこよすぎ! 最高だよー」
 
友人1「ほんと、ジェミニしか勝たん!」
 
友人2「2人とも好きだよねー」
 
日奈子「当たり前じゃん、こんなビジュ最強の双子なんて他にいないよ!」
 
スマホの待ち受けの凛と蓮を眺めながら、日奈子は目を輝かせている。
 
日奈子「でも最近人気すぎて…ライブ全然当たらないし、握手会も抽選になっちゃってさ…嬉しいけど悲しい…」
 
友人1「ねー、日奈子とは一緒にデビューライブ行ったもんね。今やドームライブ即完だもん」
 
日奈子「うちら最古参ファンじゃん…ああ生で見たいぃぃ…配信じゃ寂しいよぉぉ」
 
机に突っ伏して悲しむ日奈子。
 
友人2「確かに、最近テレビで見ない日ないもんね。大人気だよね」
 
日奈子「そうそう、クイズ番組とかでもさ、凛くんが元気におバカな回答して、蓮くんがそれにボソッと突っ込むの面白いんだよー!しかも蓮くんも意外と天然で!昨日の番組おすすめだから見て!」
 
ジェミニのことになると話が止まらない日奈子。
 
友人1「じゃあ今日帰りカフェ行ってそれ見る? スタバの新作出るらしいよ」
 
日奈子「あ…ごめん。今日は早く帰らなきゃいけないんだ。家族で夕飯行くの」
 
友人2「忙しいお母さんが? 珍しいね」
 
<母子家庭の我が家は、母が広告代理店に勤務しており、毎日遅くまで仕事を頑張っている。でも今日は特別で…>
 
日奈子「えへへ、今日はお母さんが、彼氏を紹介してくれるんだって」
 
友人1「えーやるじゃん日奈子ママ!」
 
友人2「楽しみだね!」
 
日奈子「うん、だから先に帰るね」
 
友人2人に手を振り、カバンを背負い下校する日奈子。
 

■おしゃれなレストランの個室
 
ワンピースを着た日奈子が、スーツ姿の母親に近寄る。
 
日奈子「ママ!」
 
母「日奈子、学校帰りにわざわざ着替えてきてくれて、ありがとね」
 
日奈子「ううん。にしても凄いおしゃれなレストランだね…た、高そう…」
 
重厚な扉を開き、個室に入る日奈子。母親と一緒に席に座る。
 
日比谷父「初めまして、日奈子ちゃん」
 
扉を開けて入ってきたのは、清潔感のあるスーツ姿の男性。
 
日奈子「は、初めまして…」

日比谷父「日比谷雄二と申します。お母さんの美奈子さんとお付き合いさせて頂いてます。お会いしたかったです」
 
日奈子「こ、こちらこそ…」
 
礼をして席に座る。母親に小声で話しかける。
 
日奈子「ママ、めっちゃカッコいい人だね、やるじゃん」
 
母「うふふ、ありがとう」
 
日比谷父「食事を始めようか、美味しいお肉料理にしたんだ。喜んでもらえるといいな」
 
日奈子「は、はい!」
 
和やかに3人での食事が始まる。
 
母「で、先日雄二さんに、家族にならないかってお話をいただいたの」
 
日奈子「え、それってプロポーズ!?」
 
ハンバーグを食べていた日奈子は、驚いてナイフとフォークを置く。
 
日比谷父「僕は美奈子さんのことをとても大切に思っている。日奈子ちゃんのこともこれからよく知りたいんだ。…でも、年頃の娘さんだから、嫌じゃないか心配でね」
 
優しい雄二の言葉に、首を横に振る日奈子。
 
日奈子「嫌なんてことないです。お母さんの選んだ人なら大丈夫だと思います。ずっと親子2人で寂しかったし…嬉しいです!」
 
日奈子の言葉に、母と雄二が顔を見合わせて喜ぶ。
 
日比谷父「良かった。これからよろしくね」
 
日奈子「はい!」
 
日比谷父「実は、私には子供がいるんだ。歳も近いし、仲良くしてくれると助かるんだけど…。今日この食事の席にも呼んでるから、話してみてほしい」
 
<え、子供がいるってことは…私に兄弟か姉妹ができるってこと?>
 
驚いている日奈子の前で、失礼、と謝りスマホで電話をかける雄二。
 
日比谷父「もしもし、近くにいる? 個室に通されると思うから」
 
電話を切る雄二。
 
日比谷父「もうすぐ息子が来ると思うよ」
 
<息子…男の人なんだ。緊張するな…>
 

ガチャ、と扉が開き、凛と蓮が入ってくる。
 
凛「お、父さんいた。初めまして、よろしくお願いします!」
 
蓮「父がいつもお世話になっております」
 
母に向かって、凛と蓮が丁寧に御辞儀をする。
 
2人の姿を見て、椅子から立ち上がり、叫ぶ日奈子。
 
日奈子「えええええーーーー!!」
 
母「ひ、日奈子、静かにしなさい」
 
日奈子「だ、だ、だって…!」
 
<見間違えるわけがない。薄い栗色の柔らかい髪に、大きな瞳の凛くん。
 つやつやの黒髪に、透けるような白い肌の蓮くん…。
間違いなく、それは私の最推しの愛しの2人だった>
 
日奈子「ジェ、ジェミニの凛くんと蓮くん…ですよね?」
 
凛「おお、知ってくれてるんだ、嬉しいな! そう、日比谷凛です。よろしく!」
 
近づき、日奈子の手を握り挨拶をする凛。
 
<ひええええーー!!握手会よりも近い…!スタッフさんに剥がされもしないし、手があったかい…い、いい匂いする…!>
 
顔を真っ赤にして固まっている日奈子を見て、不思議そうに首を傾げる凛。
 
蓮「凛、驚いちゃってるだろ。すみません、日奈子さん…でいいんだよね。
日比谷蓮です。初めまして」
 
背の高い蓮は少しかがみ、日奈子と目線を合わせて微笑む蓮。
 
<うわああああーーーー!!顔近いしファンサえぐすぎ!!まつ毛長い…鼻高い…。まじビジュアル神なんだが!!>
 
日奈子は2人のキラキラしたオーラに圧倒され、頭から湯気が出て床にへたりこむ。
 
凛「お、おい、大丈夫!?」
 
蓮「平気?」
 
肩を支えた凛と、腕を掴んだ蓮と至近距離で目が合う。
 
<ああ、なんて…なんて夢みたいな状況…!>
 
日奈子「吉野…日奈子と言います。2人の、大ファン、で…」
 
たどたどしい挨拶に、2人が吹き出す。
 
蓮「あはは、ありがとう」

凛「俺たちも、ずっと男3人家族だったからさ。妹が出来て嬉しいぜ!」
 
<………というのが数ヶ月前の出来事。
双子の推しが自分の義理の兄になるという、夢の出来事が現実で起こった。
まだ夢は覚めそうにないーーーーー>
 
 
■自宅、リビング
 
<それ以降、母と雄二さんは籍を入れ、私は「日比谷 日奈子」になった。
2人の事務所の近い目黒の大きな一軒家に引っ越すことになる>
 
全国ツアーが終わり、家へと帰ってきた蓮と凛。
 
日奈子「お帰りなさい。お疲れ様、2人とも。配信チケット買って、家でライブの様子は見てたよ」
 
凛「わざわざありがとな!日奈子が学校の試験期間じゃなければ、関係者席に招待したのにさー」
 
蓮「残念だったよね。次のツアーは必ず連れてってあげるからね」
 
ぽんぽん、と日奈子の頭を撫でる蓮。
 
<ぎゃーーーー!蓮様の頭ぽんぽん!試験頑張ったご褒美すぎるーーー!>
 
内心叫びながら、日奈子は真っ赤な顔を隠すようにうつむき、
 
日奈子「楽しみにしてるね」
 
と微笑む。
凛が手に持っていた大量の袋をテーブルの上に置き、中身を並べていく。

凛「じゃーん、日奈子のために、全国のライブの場所でご当地お土産を買ってきたぞ!」
 
日奈子「え、嬉しい!」
 
凛「だろー?北海道の苺ホワイトチョコ、仙台のずんだ餅、名古屋のあずきトースト味ワッフル、大阪のチーズケーキ、広島のお好み焼きソース味スナック、福岡の博多明太せんべい、沖縄の紅芋タルト、あとねー」
 
次々と袋の中から取り出す凛。テーブルが埋まってしまう。
 
日奈子「す、すっごい量…」
 
凛「うん、全部日奈子にあげるからな! お菓子好きだろ?」
 
ニコニコと笑いながらお菓子を差し出す凛。
 
<あー底抜けに明るい凛くんの笑顔最高…ご飯3杯いけるわ!>
 
蓮「そんなに買っても食べきれないだろって、俺は止めたんだけどね…」
 
凛「なんだよ。お前には一個もやんねーからな!」
 
呆れる蓮に、凛が頬を膨らます。
 
蓮「俺からのお土産はこれ」
 
蓮は懐から数枚のポストカードを取り出す。
 
日奈子「ポストカード…?」
 
蓮「うん。綺麗な景色が写っているポストカードを買ったんだ。
俺の観た景色を、日奈子にも感じて欲しくて。今度一緒に見に行こうな」
 
優しく微笑む蓮。
 
<穏やかな蓮くんの優しさ…!そして次は一緒にという約束付き…!え…天使か…?>
 
日奈子「2人ともありがとう、忙しいライブの合間にお土産買ってくれるなんて…」
 
凛「可愛い妹のためなら当たり前だろ!」
 
蓮「寂しい思いをさせたかなと思ってね」
 
<ああ…見た目だけじゃなくて、心も綺麗な双子…神様同じ時代に生まれて幸せです>
 
心の中で涙を流し神に感謝する日奈子。
 
日奈子「2人とも疲れてると思うからお風呂入ってね。沸かしといたから」
 
凛「おう、サンキュー」
 
蓮「久々の家だし、リラックスさせてもらうよ」
 
2人が自分の部屋に向かったのを見て、よろよろとソファに座り込む日奈子。
 
<ああ、毎度毎度、心臓が持たない…!>
 
今あったことを繰り返し思い出し、にやける日奈子。
 
 
■自宅・ダイニング
 
蓮「ふう…」
 
少し疲れた様子で、蓮が部屋着とメガネ姿で本を読んでいる。
ホットココアの入ったマグカップを飲む。
 
近くのソファに座っている日奈子が、横目でその姿を見ている。
 
<蓮くんのパーカーにメガネのオフ感!これはファンではなかなか見えない姿…!コーヒーが飲めないからホットココア飲んでるのも可愛い…ギャップ!>
 
凛「あーさっぱりしたー」
 
上半身裸の短パン姿で風呂場から出てくる凛。
その姿を見て顔を隠す日奈子。
 
日奈子「きゃ!」
 
蓮「おいおい…服ぐらいちゃんと着てこいよ…」
 
凛「暑いんだから良いだろ別にー」
 
<ああ…引き締まった体…ギリシャの彫刻みたい…!
そして濡れた髪…水も滴る良い男すぎる…!>
 
顔を隠してはいるが、指の隙間から見ており目がハートになっている日奈子。
 
服を着て、フライパンを取り出す凛。
 
凛「なんか小腹減ったし、軽く飯作るわ」
 
キッチンに立って料理を始める凛。
慌てて駆け寄る日奈子。
 
日奈子「あ、遅いから夕飯食べてきたかと思ったの。私が作るよ…!」
 
凛「いーのいーの。食べたけど移動中に適当に軽食だったからさ。
日奈子は座ってて」
 
微笑む凛に促され、キッチンのカウンター席に座る日奈子。
手際良く料理を作って行く凛。
 
日奈子「凛くんて、ほんとお料理上手だよね」

凛「まあなー。ほらうち父子家庭だったじゃん?父さんあんま家いなくて、料理作るのは昔から俺の仕事だったから。逆に俺は掃除できないから蓮が担当」
 
蓮「そう。未だに靴下逆さまに脱ぐのと、ペットボトル床置きするのが直らない」
 
凛「あーそれはごめんなー!」
 
ため息をつく蓮に、すまんと笑って謝る凛。
 
<大変な家庭環境の中で、培った双子の絆…!お、推せる…!>
 
日奈子はキラキラとして2人を眺める。
 
凛「ほら、できた! 特製オムライス!」
 
ふわふわの卵に包まれたチキンライスのオムライス、付け合わせのサラダも美味しそう。
 
凛「日奈子、夜食にちょっと食べるだろ?こっちの少ない方、一緒に食べようぜ」
 
日奈子「え…確かにちょっと小腹空いてたかも…いいの?」
 
凛「もちろん! 蓮は…」
 
蓮「俺はココア飲んだから大丈夫」
 
凛「そう言うと思った。フルーツだけつまみなよ」
 
蓮「そうする」
 
テーブルにオムライスとサラダ、フルーツを並べる凛。
 
凛「うーんうまそうな匂い! いただきまー……と、SNSにあげる写真撮るか」
 
凛が食べようとした手を止めてスマホを取り出す。
 
蓮「冷めるから後でいいだろ?」

凛「ツアーが終わったあとだから、SNSの更新待ってるファンも多いんだよ。蓮もやりなよ」
 
蓮「俺はSNS苦手…。そのかわり配信のための曲作ってるから」
 
凛がオムライスを写真に撮り、スプーンを持つ。
 
凛「よし、いただきまーす!」
 
日奈子「いただきます。…美味しい!」
 
凛「うん、自信作だな」
 
笑顔で食卓を囲む3人。
 
<推し2人との生活。たわいの無い食卓のシーンが、夢のような時間だ>
 
<でも、彼らが国民的アイドルということを、思い知らされることになるーーー>
 
■SNSを見た世間の声
 
凛のあげたSNSのオムライスの写真をスマホやタブレットで見ている全国のファン。
 
ファン1「凛くん!ドームツアーお疲れ様!」
 
ファン2「オムライス美味しそう、私も食べたい♪」
 
ファン3「待って、グラスに人影が映ってない…?」
 
写真を拡大し、グラスに写っている女性の影をピックアップするファン。
 
ファン4「えなにこれ。女?」
 
ファン5「彼女?ツアー後に家に女連れ込んでる!」
 
ファン6「最悪、誰よこれ!マネージャは男のはず」
 
写真の相手を特定するためのアンチコメントが延々と書き込まれていく。
リツイートといいね数がどんどん増えていく。
 
そんなことも気がつかず、和やかに食事しながら笑い合う3人。
 

 ◆次の日、日奈子の家

日奈子「ただいまー!」
 
(あれ、知らない靴がある……誰か来ている?)
 
玄関に男性用の革靴が置いてあるのに気がつく。
静かにリビングの扉を開ける日奈子。
 
マネージャー「かなりファンの間で広まってしまっている。早めに対処しないと」
 
凛・蓮「………」
 
(マネージャーさんが来てる。なんか不穏な空気だけど大丈夫かな……?)
 
カタン……(ドアの開く音)
 
蓮「日奈子ちゃん、おかえり」
 
額に手を当て落ち込んだ様子の凛、いつも通りの蓮。
 
マネージャー「あの子で間違い無いのか」
 
凛「もちろん。彼女いないし、実家に女の子連れ込んだりなんしてねーよ…」
 
蓮「昨日この場に僕もいました。凛は嘘ついてません」
 
ソファに座っているスーツ姿の男性マネージャーに問い詰められ、意気消沈している凛と、毅然と答える蓮。
 
日奈子「二人とも、どうしたの……? これからインスタライブじゃ」

マネージャー「あなたが義妹の日奈子さんですね。よかったら説明しますので、こちらへ」
 
ソファに座ると、SNSをプリントした紙が置かれている。
 
マネージャー「昨日、凛があげた写真にあなたが写り込んでいたようで、ネットで騒がれています」
 
日奈子「ええ…!?」
 
マネージャーがSNSを印刷した紙をて日奈子に渡す。
 
『凛くんのあげたオムライスの写真、女が写ってる!』
という題名とともに、凛が自撮りで昨晩作ったオムライスと撮っている写真。
 
次のページでは、銀のスプーンを拡大しまくり、髪の長い女の姿が反射しているところに丸印がついている。
顔までは詳しく判別できないが、姿形は若い女性に見える。
 
日奈子「これ、昨日のオムライス食べた時の……!」
 
日奈子が驚きながら、もう一枚の紙に目を落とすと、炎上しているコメント欄のコピー。
 
『彼女の手作りオムライス?』
『ライブの後に女連れ込んでるとかありえない』
『まじ無理無理、もうファンやめる……』
『私は蓮くん派だからセーフ、凛邪魔。早く蓮くんソロでやってほしい』
『グッズ捨てた。金と時間返してほしい』
『凛ブス専乙w w w』
 
悪口で荒れた書き込みに、日奈子が胸を痛める。
 
日奈子「ご、ごめんなさい。私のせいで……」
 
蓮「日奈子ちゃんが謝る必要はないよ。俺だって止めなかったし、そもそも、写真拡大してまで調べるファンが異常だ」
 
凛「ごめんな。俺が軽率だった。ライブ後で疲れて気が抜けてたかも……事務所に確認してもらってから上げればよかった」
 
日奈子をフォローする二人。
マネージャーはため息をつき、腕を組む。
 
マネージャー「とにかく、ファンに説明しなくちゃダメだ。早くも事務所には問い合わせが殺到してるし、ファンクラブの退会者もどんどん出ているらしい」
 
凛「……俺のアカウントにも、批判のDMめっちゃ来る…はあ……」
 
蓮「過激なファンのせいでここまで炎上するとはね。まだ全国ツアーのライブも残ってるのに」
 
マネージャー「初期対応が肝心だ。アイドルに陰湿なアンチがつくのは、スポンサーも嫌がるしな」
 
蓮とマネージャーの相談に、日奈子が考え込む。
 
(『過激なファン』、『陰湿なアンチ』か……)
 
毎日録画した番組を見て、生配信に張り付いて、女子アナとの距離が近いとギャーギャー騒いでいた自分を思い出す。
 
日奈子「確かに少し悪質だけど……ファンの方たちを、悪く言わないでほしい…です」
 
凛、蓮、マネージャーが驚いて日奈子の顔を見る。
 
日奈子「彼女たちもきっと、ジェミニの二人から毎日元気をもらって、二人を推すことで学校や仕事や家事を頑張れているんだと思います。
だからこそ、真剣に落ち込むし、悔しいし、裏切られた気分になっちゃうの」
 
(私も同じ立場だったら、ジェミニロスとかいって、学校に行く気も起きないだろうな……)
 
蓮「……そうかもね。俺たちをいつも支えてくれる、大切なファンだ」
 
凛「ああ。でも、どうすればいいんだ」
 
日奈子「二人の口から、真実を聞きたいって思う。そしてそれを受け止めたいって思う」
 
日奈子の言葉に、凛と蓮がハッとして頷く。
 
凛「マネージャー、今から生配信してもいい? 素直に伝えたい」
 
マネージャー「……わかった、発言には気をつけろよ。君も、それでいいのかい」
 
日奈子「はい、大丈夫です!」
 
 
◆リビングからの生配信の画面
 
カフェで女子高生たちがスマホを眺めながらジェミニの生配信を見ている。
赤ちゃんを抱っこした主婦や、会社帰りの電車の中のOL、自室のデスクトップパソコンから見ている大学生。
 
リビングのソファに座った凛と蓮が映り生配信が始まる。
 
蓮「今日の生配信は、みんなに伝えたいことがあります」
 
凛「俺のSNSを見て、驚いたり、嫌な気持ちになった人も多いと思う。本当に、すみませんでした」
 
凛と蓮が頭を下げる。
 
コメント
『凛くん悪くないよ!謝らないで……』
『黙ってて凛ファン、早く理由教えて』
 
凛「オムライスを食べている俺のスプーンに、女性の姿が映ってたって話、これは本当なんだ」
 
コメントは『どう言うこと?彼女!?』と荒れている。
 
凛「写っていたのは、新しくできた俺たちの妹なんだ」
 
スマホ画面で生配信を見ているファンたちの驚いた顔。
 
凛「俺たちが、父子家庭で育ったことは、みんな知ってるよな」
 
蓮「父さんは、僕たちを育てるために忙しく働いていた。そんな父さんを楽させたくて、アイドルで独り立ちすることを決めたんだ」
 
凛「ああ、そしたら、この前父さんが結婚したい女性ができたって紹介してくれてさ! 写真に写っていたのは、最近できた俺たちの妹だよ」
 
凛が合図をすると、日奈子が歩いてソファの前に来て、二人の間に座る。
 
日奈子「は、初めまして。ジェミニの二人の義理の妹となりました、日奈子と言います。ファンの皆さん、不安にしてすみませんでした」
 
緊張しきっている日奈子。
 
コメント
『妹!?』
『確かに写真のこと似てる』
『連れ子ってこと?そんなうまい話ある?』
 
日奈子「……凛くんも蓮くんも、テレビやステージの時と全然変わらない、裏表のないまっすぐな人です。彼らを、陰ながらサポートしたいと思っています!」
 
日奈子の言葉に、驚く凛と蓮。
 
日奈子「これからも、自慢の兄たちを応援よろしくお願いします!」
 
凛「……そういうこと! 驚かせてごめん。でも、ファンのみんななら俺たちだけじゃなく、俺たちの家族も応援してくれるよな?」
 
蓮「新しい妹も、お母さんも大切な家族だから、どうか傷つけるようなことを言ったり、したりしないで欲しい。俺と凛からのお願いです」
 
日奈子を両端で挟みながら、画面に向かって満面の笑みでピースする凛、穏やかな笑顔で礼する蓮。
 
コメント
『素敵な妹さんだね』
『めっちゃ羨ましいーーー!! 私も妹になりたい!』
『素直に言ってくれてよかった、安心した』
『妹ちゃんも推せる!』
 
温かいコメントが流れてくる。
 
ファンから応援されて、生配信が終了する。
 
マネージャー「お疲れ様。コメント見てたけど、おおむね肯定的な意見が多そうだな」
 
凛「そっか、よかった」
 
蓮「日奈子ちゃんが出てくれたのがよかったのかもね。勇気を出してくれて、ありがとう」
 
凛「本当に! 俺泣きそうになったよ」
 
日奈子「あはは、力になれてよかった」
 
マネージャー「でも大変だぞ。きっとすぐに通っている学校も特定されるし、嫌がらせをされるかもしれない。未成年だし、親御さんに許可をとってからにするべきだったな……」
 
凛「大丈夫、日奈子のことは俺が守る!」
 
蓮「炎上させた本人が言うなよ」
 
凛「ううっ! ……ごめん」
 
蓮「でも俺も同じ気持ち。日奈子は大事な妹だから、なんかあったらすぐに言うんだよ」
 
日奈子「うん、ありがとう。凛くん、蓮くん!」
 
日奈子の笑顔を見て安心した二人。
蓮は前から日奈子の頭をポンポンし、凛は日奈子の肩に額をつけてハグをする。
 
(ぎゃーーー!! 最高のファンサです!! 一番の強火痛ファンが私なんですけど!!)
 
日奈子が心の中で叫びながら赤面する。
 
 
◆朝、日奈子の高校教室
 
友人1「ねえ!昨日の生配信観たよ! まじでジェミニの妹になったの!?」
 
日奈子「う、うん……黙っててごめんね」
 
廊下には、日奈子目当ての同級生が教室を除いて騒いでいる。
 
他クラス女子「ねえ、二人のサインもらってきて!」
他クラス男子「俺も俺も! 同じ事務所の女子アイドルのサイン欲しい!」
 
日奈子「あはは……お願いしておくね」
 
(秘密にしていたことが公表されて、これから大変になりそうだな……!)
 
すると、廊下から急に女子生徒の叫び声が聞こえる。
なんと校門から、凛と蓮が芸能人オーラを出しながら手を振っている。
 
日奈子「ちょ、ちょっとなんで二人とも!?」
 
凛「おーい、日奈子! なんかあったら俺たちに言うんだぞー!」
 
蓮「凛、声大きすぎ……迷惑だよ」
 
女子1「やば! 生ジェミニかっこ良すぎるんだけど!!」
 
女子2「こっち見た!目ぇ合った!」
 
凛「クラスメイトの皆さん、妹のことをよろしくなー!」
 
女子たち「きゃーーーー!」
 
蓮「はあ……今からレコーディングだから、帰る時間わかったら連絡するね」
 
日奈子「う、うん!」
 
マネージャーの車に乗り込みむ二人。
窓から手を振る凛、呆れたように会釈する蓮。
 
友人1「日奈子がいると、二人が父兄として来るってこと?最高じゃん!」
 
友人2「あんたと友達でよかったー!」
 
日奈子「あはは、これからも仲良くしてね」
 
(そうして、ジェミニと私が兄妹になったと言うことは、全世界に広まってしまったのだった)
 
 【第1話 完】


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