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【第1話】魔王令嬢と学園の悪魔たち〜イケメンだけどクセつよヴィランを最強の私が指導します〜【創作大賞2024漫画原作部門応募作】



【あらすじ】

魔王令嬢クロエは、悪魔を教育する魔界の学校『ヴィンスガーデン・アカデミー』の生徒指導係として入学する。

『暴食のローラン』・『破壊のギルバード』・『炎帝のオスカー』・『傀儡のレヴィン』と呼ばれる4人の悪魔たちが委員長として生徒たちをまとめているのだが、個性豊かで癖が強い性格ゆえ、風紀は乱れていた。

クロエは、氷魔法の最強チート能力を使い、彼らを「理解させ」ていく。

魔力を常に食べて蓄えるピクシー、ローランには自分の魔力を食べさせることで懐柔し、交戦的で暴力的なフェンリル、ギルバードからは一騎打ちを申し込まれるが、素手で壁を壊せるほどの怪力な彼を余裕で倒してしまう。

凛としたクロエに徐々に心を奪われていく4人が織りなす、ダーク・スクール・ラブコメディ!

【キャラ設定】

クロエ:女  165cm  種族:??

魔界で最も位の高い魔王ヴィンスの一人娘。
父譲りの美しい銀髪と銀の瞳の美少女。種族は魔王と共に秘密。
地獄の業火も凍り尽くす、氷魔法を意のままに操ることができる。
人間たちを滅ぼすために、統率された人型悪魔を教育する「ヴィンスガーデン・アカデミー」に送りこまれ、強いが協調性のない四人のクラス長たちの指導をする。
父ヴィンスを誰より尊敬しており、父の命令は絶対。
クールで冷たい印象だが、凛とした信念を持つまっすぐな少女。恋愛には疎い。

<クラス長の四人の悪魔>

ローラン:男 165cm  種族:ピクシー
『暴食のローラン』
翡翠の髪と翡翠の目を持つ。小柄で可愛らしい顔立ちで、よく女と間違えられる。
妖精であるピクシー族。自分の周りに丸い魔力の玉を常に浮かせている。
無邪気な性格で、すぐに人に懐く。
膨大な量の魔力を持ち、他人の魔力を吸うことを「食事」としている。
敵の魔力を吸い込むことで戦闘不能にさせ倒すが、友人や好きな人の魔力も吸ってしまう困った性格。
「こんなに『甘く』て美味しい味の魔力を持つ子なんて、初めてだよ!」とクロエを好きになり、何かと付きまとう。

ギルバード:男 185cm 種族:フェンリル
『破壊のギルバード』
茶髪のツンツンの髪に、高身長で筋肉質、ガタイが良い。
犬型のフェンリル族で、鋭い牙と爪を持ち、怒ると反獣人化する。
交戦的で、強い=偉いという考えを持っているため、自分のクラスの生徒を毎日訓練して最強軍団を作ろうとしている。
女のクロエに色々と命じられて面白くなく、一対一のタイマンを申し込むが、反獣人化して本気を出しても全く歯が立たなかったため、反発しつつも従うようになる。
「気に食わねぇ。でも……確かに強いから、認めざるをえねぇ」と思いつつ、クロエに肉体労働の雑用を命じられたりして喧嘩が絶えない。
 
オスカー:180cm  種族:レッドドラゴン
『炎帝のオスカー』
金髪で長身、普段は無口で、何を考えているか分らない。
ドラゴン族の中でも一番希少なマテリアドラゴンの種族。
マテリアドラゴンの皮膚や骨は特殊な素材であり、強い剣や防具を作れると人間たちに乱獲されたその生き残りであり、人間に対し人一倍深い憎しみを持つ。
全てのものを溶かす炎を出すことができるため、魔力が込められた特別な黒革の手袋をつけていないと何にも触れない。
心を閉ざし孤立しており、クラス長らしからぬため、クロエが彼の心の闇を聞く。
「私に触れることができたのは、そなたが初めてだ」とクロエに特別な感情を抱く。
 
レヴィン:178cm  種族:エルフとメデューサ
『傀儡のレヴィン』
金髪で眼鏡をつけている。常に優しい笑みを浮かべている模範的な優等生。
弓と魔力の使い手である理性的なエルフで、四人のクラス長の中では一番クロエのいうことを聞くと思いきや、実はメデューサとエルフの血を引くダブルで、メガネを外し裸眼で彼の目を見た者は、彼の命令をなんでも受け入れてしまう。
メデューサだということは誰にも言わず隠しており、何人もの傀儡を学園の中に忍ばせ、自分の都合の良いように情報操作や隠蔽工作をしている陰の支配者だった。
クロエが唯一それに気がつき、「破眼」という魔力を跳ね返す力を使い、彼の能力を跳ね返し、初めて言うことを聞かせる。
以来、「魔王令嬢……いつか僕の『傀儡』になって欲しいものですね」と歪んだ執着心を見せる。
 

【3話以降プロット】


喧嘩っ早く粗暴なフェンリル、ギルバードは女であるクロエに命令されるのが気に食わないと言うことを聞かないが、俺に勝てたら従ってやる、と一対一の対決を申し込む。
怪力のフェンリルのギルバードは善戦するが、クロエの強力な氷魔法の前には歯が立たず敗戦。以降、納得し彼女の命令には従うように。

ドラゴンの血筋のオスカーは、クラス長だというのに誰とも馴染まず、生徒を放置し他を寄せ付けない一匹狼。
人間に滅ぼされたマテリアドラゴンの歴史を聞き、彼の深く暗い心に寄り添うクロエ。
触れた物全てを焼き溶かしてしまうというオスカーは、常に魔力を込めた黒い革の手袋をしているが、氷魔法の使い手のクロエは自らの手に氷のコーティングをし、彼の手を握って優しく語りかける。
他人と初めて触れ合うことができたオスカーはクロエに心を許すように。

知的で理性的なエルフ、レヴィンは唯一クロエに従順だったが、実はこの学園の生徒を牛耳っているメデューサであり、いつかは魔王ヴィンスも悪魔界さえも自分のものにしようと企んでいる野心家だった。
メガネで隠しているが、メガネを外した彼の目を見ると皆彼に従ってしまう。
その能力に気がついたクロエが彼の魔力を跳ね返し、彼に言うことを聞かせる。
しかし、クロエは「より強く、より良い悪魔たちの生活のために、私に手を貸して欲しい」という、命令ではなく願いを言ったため、そのお人よしかつ真面目さに根負けし、レヴィンは従うように。

強力なクラス長たちを従えたクロエが、人間界から押し寄せた人間の軍隊相手に交戦する。
クロエの魔力を大量に吸ったローランは人間たちの魔力を吸い戦闘不能にし、より一層訓練し強くなったギルバードが薙ぎ払い、人間への報復を決意したオスカーの炎で悪魔界へ侵入できないよう炎の壁を作り、レヴィンのメデューサの能力で人間同士の戦いを命じ仲間割れさせ、いつも負けっぱなしであった人間たちに初めて勝利する。魔王令嬢クロエは、勝利の女神と崇められ、学園の指導者として君臨する。

【この作品の売り・面白いと思うポイント】

・通常は敵側である悪魔、ヴィランたちの日常を描くダークファンタジー。

・不動の人気である「俺TUEE系」の派生で、女主人公の「私TUEE」系。
強く凛とした新年のある女主人公は、女性読者からの支持を得ると思います。

・四人のクラス長は、
①ローラン…無邪気ショタ
②ギルバート…シャイなヤンキー
③オスカー…闇深いクール系
④レヴィン…腹黒敬語メガネ
と個性豊かかつ人気な要素を入れ、逆ハーレムにし、乙女ゲームや少女漫画が好きな層に刺さるように。

・学園、悪魔、魔法、戦闘などの要素は、コミカライズした際に漫画映えする。

【想定読者層】
ツイステッドワンダーランド等の悪役+乙女ゲーム的要素が好きな10代~30代の女性。


【第1話ストーリー】

満月の夜。
荘厳なる闇の城の玉座に座った男は、低い声で呟いた。

天井ではコウモリが赤い目を光らせ、羽音を立てて飛び回っている。
静寂の中、玉座に頬杖をついていた男が目の前の暗闇に声をかけた。

「クロエ、こちらへ来なさい」

浅黒い肌の屈強な体、神秘的な銀髪を靡かせた男がそう名前を呼ぶと、音もなく玉座の前に少女が姿を現した。

「お呼びでしょうか、お父様」

上品なレースのドレスの裾を摘み、頭を下げ少女は礼をした。
蝋燭の光のみで照らされた薄闇の中、病的なまでに白い肌がいっそう不気味である。

父と呼んだ玉座の男と同じ銀色で、腰まである長い髪がゆっくりと揺れる。

「可愛い娘よ、父の願いを聞いてくれないか」

  肩肘をつきながら、ため息混じりに目の前の少女に声をかける男。

「偉大なる闇の魔王、ヴィンスお父様の願いなら、何なりと」

  少女は胸に手を当て、尊敬と畏怖の念を込めて父の二つ名を呼んだ。

「……最近、学園の風紀が乱れているようだ」

  ヴィンスはそう告げ、手元にある水晶玉を撫でた。
  そこには大きな建物の中に、若い悪魔たちが各々過ごしている様が映し出されている。

「憎き人間たちを屠り、悪魔だけの世界を作るために、日々魔力や体術の訓練、戦略の勉強をする目的の学園だというのに。最近は力の強い生徒が、各々の派閥を作り争い合っているらしい」

「まあ……」

  数百年前から敵対する人間を滅ぼし、悪魔だけの闇の世界を作るために、魔王ヴィンスは自らの部下となる強力な悪魔を養成するための学園を創立したのだ。
 すでに数百人もの生徒が魔王の側近を目指し通っているのだが、秩序や規律を乱す者が増えているらしい。

 クロエは父の言葉に口元を手で押さえ、嘆かわしい、と声を漏らした。

「私が直接指導に行きたいところだが、次々と襲いかかってくる人間たちの相手が忙しくて、なかなか時間が取れん」

 眉根を寄せ真紅の瞳を忌々しそうに細めるヴィンス。

 毎日のように、魔法を使う者や剣を振るう者、様々な方法や力を用いて、この闇の城に人間が訪れる。
 しかしーーー魔王を倒せた者は、いまだに一人もいないのだ。

「お父様に敵うわけがないのに……人間というのも愚かなものですね」

  クロエが首を傾げながら哀れだと呟くと、ヴィンスは微かに口角を上げた。

「そこでだ。クロエ、お前が学園に通う悪魔たちの指導をしてくれ」

  魔王である父の提案に、クロエは驚き目を丸くする。

「私が……ですか?」

  思いもよらない言葉に戸惑う娘を、ヴィンスは自らの銀髪を掻き上げまっすぐに見つめる。

「人間たちをひれ伏させ、悪魔の生きる世の中にするためには、お前の力が必要だ」

  手元の水晶玉の光を消し、たくましい手をクロエの方へと向けた。

「お前の全てを凍らす氷の魔法は、唯一無二の力だからな」

  古城の中に冷えた風が吹き抜け、蝋燭の火が揺らめく。
  父親からの信頼に応えるため、少し思案した後、

「かしこまりました。偉大なる闇の魔王、ヴィンスお父様。わたくし、クロエが必ずやお父様の願いを叶えてみせます」

  気高く優雅に、スカートの裾を摘み玉座に向かい深く礼をした。
  魔王は真紅の瞳を見開き、満足げに頷く。

「良い返事だ。存分に励んでくれ」

  二人だけの密約は、誰にも聞かれぬまま真夜中に交わされた。
 
*  *  *
 
「ねえ、今日から新入生が来るみたいだよ」

制服のネクタイを締めながら、明るい声で少年が告げた。
翡翠色の髪と、同じ色の大きな瞳を輝かせている。
しかし不器用なのか、首にかけたネクタイがうまく巻けず、悪戦苦闘しているようだ。

「新入生……? 新学期でもないこんな時期にですか?」

隣に立っていた黒髪の生徒は、眼鏡を押し上げて訝しげに聞き直した。
シャツには皺一つなく、髪の毛一本乱れがない。
身だしなみから、彼の几帳面な性格が現れている。

「うん、後輩たちが校門の前で見たって言ってたから間違いないよ、レヴィン」

翡翠の髪の少年の周りには、淡い光の玉がふわふわと何個も浮いている。

まるで意志のある生き物のように、身支度にもたついている少年を囲んで浮いている。

「へえ。ではこれから行う朝礼で紹介があるかもしれませんね」

  レヴィンと呼ばれた眼鏡の青年は、痺れを切らせ翡翠の髪の少年のネクタイを素早く直す。

  ありがとう、と礼を言う少年。

「そいつ、男か? 強そうだったか?」

  翡翠色の少年から頭一つ背の高い男は、話に興味を持ったのか尋ねてくる。

「いいや、女の子だって、ギルバート」

「はっ、つまんねぇな。男なら俺が根性つけてやってもよかったのに」

  新入生が女だと聞いて一気に興味を失ったのか、ギルバートと呼ばれた男は屈強な腕を回しながら伸びをした。

「入学早々、ギルバートに目をつけられなくて新入生も安心ですね」

「なんか言ったか?」

「いえ」

苦笑しながらチクリと嫌味を言うレヴィンに、ギルバートは睨みを効かせた。

「でもすっごく可愛い子だったって! 楽しみだねぇ」

  自分の周囲に飛ぶ光の玉を撫でる少年に、

「可愛い子なのは結構ですけど、またすぐに『食べちゃ』ダメですよ、ローレン」

  レヴィンが眼鏡を押し上げながら注意する。
  ローレンと呼ばれた少年は舌を出しながら、照れたように頭を掻く。

「気をつけるよ。ねね、オスカーも気になるでしょ?」

  今までずっと無言であった金髪の青年に、ローレンは無邪気に話しかける。

「……私には関係ない」

 オスカーは少しだけローレンに目配せをしただけで一言告げると、すぐにまた目を伏せてしまった。
  濃紺の制服だけでなく、黒い皮の手袋を両手につけたオスカーは、憮然とした表情だ。

「さ、噂話はこのくらいにして、広場に向かいましょう。委員長の我々が遅刻するわけにはいかないですからね」

 レヴィンがそう声をかけ、他三人の生徒たちは各々返事をして寮の入り口の部屋を開けた。

 学園の門をくぐると、同じく濃紺の服に身を包んだ男女様々な生徒が彼らを迎える。
 頭から角が生えた者、背中に羽を生やしている者、牙が生えている者。

 様々な異形の悪魔は、しかし皆尊敬の意を込め、門から入ってきた四人に頭を下げる。
 個性豊かだが、四人とも整った顔立ちと絶大なる魔力を持っているせいで、どうしても目を引く存在である。

 「暴食のローレン」、「破壊のギルバート」、「黒炎のオスカー」、「傀儡のレヴィン」。
 この四人が、悪魔たちが通う学園、「ヴィンスガーデン・アカデミー」の委員長なのだから。
 

*  *  *

 
週の初めの朝、学園では1週間の予定を全校生徒で確認する朝礼が行われる。
制服を着た悪魔たちが、広間に一堂に集まる図はなかなか圧巻である。

時間は朝とはいえ、悪魔たちの住む『闇の世界』(ダークフィールド)は常に厚い雲に覆われており、人間たちの住む世界とは違い明るい陽の光は差し込まない。

薄暗い中、整列させられた生徒たちは各々私語をしている。

ピイィィィィ……!

耳をつんざく甲高い鳴き声が響き渡る。
最前列に並んでいたレヴィンは耳を塞ぎ、ギルバートは顔をしかめて舌打ちをする。

「何回聞いても慣れませんね……」

レヴィンが耳から指を離してため息をつく。
広場の一番前、壇上の上には、いつの間にか黒い影が立っている。

「静かになるノに、5分かカった。次からハもっと早く静まるよウに」

  人間と同じほどの背丈で、真っ黒な羽根で全身覆われ、顔には大きなくちばしがついている。

 「不気味な鴉」(イリークロウ)と呼ばれるそいつは、カタコトの言葉で生徒たちに注意した。

 魔王の使い魔である彼は伝達役として、毎回朝礼の際に壇上に立つ。

 うるさくて朝礼を始められない場合、超音波を発して強制的に黙らせるのである。

 魔力を持たない人間などが不意打ちで喰らった場合、鼓膜が破け平衡感覚を失い倒れるほどの威力だ。
 学園に通う悪魔たちからすれば、頭に響いてカンに触る音、ぐらいだが。

「全員、挨拶せヨ」

 不気味な鴉が命じると、生徒たちは皆左手を右胸に当て、頭を下げる。

「偉大なる闇の魔王、ヴィンス様の名の下に」

 数百人もの生徒が、尊敬と畏怖の念を込めて、学園の創設者である魔王ヴィンスに敬礼をするのだ。

高い声、低い声、大きい声、小さい声。
様々な声が混じり合い、薄闇の空に響き渡る。

悪魔は人間とは違い、体の右側に心臓を持つ。
その心臓を押さえ敬礼することで、強大なる魔力を持ち、長い歴史の中で初めて人間に勝利し、不可侵の古城を建てた、伝説の魔王に命を捧げることを示している。

委員長である四人も、壇上の近く、最前列で右胸に手を当て頭を下げた。

「頭を上ゲよ。今日ハ、新入生を紹介スる」

  カタコトの声で、鋭利なくちばしを動かしながら不気味な鴉が語る。

  ほら、先程の会話が間違っていなかっただろう、とローレンが周りに立つ他の三人に目配せをする。

「こちラへ」

  壇上の不気味な鴉が、羽根を揺らしている。手招きをしているつもりなのだろう。
  すると、音もなく長い髪の少女が幕間から壇上に現れる。

  華奢な少女は、しゃんと背筋を伸ばし、凛とした瞳で壇上の中央へと立った。
  濃紺のブレザーとスカートを着た姿は、人間で言う女子高生にしか見えないのだが。

「やっぱり、すごい可愛いじゃん!」

  ローレンが頬を赤らめながら、壇上に立つ少女を見上げて手を叩く。

「銀髪……?」
 ここまで終始無言だったオスカーが、黒い皮の手袋をつけた指で顎を撫でながら、訝しげに声を漏らした。

「本当だ。銀髪なんて珍しい。まるで……」

 少女の圧倒的なオーラに、レヴィンが驚きながら眼鏡を押し上げ、言葉を濁した。

「まるで魔王様みたいじゃねぇか。まさか、血族でもないだろーに」

 ギルバートが自身の茶色の髪を掻きながら、そんなまさかな、と呟く。
  様々な髪の色を持って生まれる悪魔たちだが、銀髪は一番珍しい。

  月の光を受け輝くその銀髪は、彼らが信仰する魔王の象徴でもあるからだ。
しかし、不気味な鴉は大勢の悪魔たちの前でその「まさか」を宣言した。
 
「この方は、我ラが魔王様の一人娘であラれる」
 
  その言葉に生徒たちは皆驚愕し、静かだった広間は皆の話し声に包まれた。
  静粛にセよ! と不気味な鴉が注意しても、その衝撃に悪魔たちの声は止まない。

  魔王に子供がいたこと、そしてその娘は銀髪を持ち、この学園に新入生として入学すること。

  全てがすぐには理解できず、皆驚き声を上げる。
そんな中、銀髪の少女は長い髪をなびかせ、一歩前へと進み出た。

  その動作だけで、広間一帯は静寂に包まれる。
  静まり返った壇上から、少女は自身の右胸に左手を添える。

「クロエと申します。以後、お見知り置きを」

  後に『氷の魔女』と呼ばれるその少女は、薄桃色の唇をかすかに上げ、そっと微笑んだ。
 
 魔王に娘がいたという、センセーショナルな話題に全生徒がざわついている。

 不気味な鴉が再び羽根を広げ、静かにするようにと注意しても、驚いた生徒たちは話を聞く様子もない。
 クロエは咳払いをして、広く通る声を放った。

「一つよろしいですか」

 注意を聞かなかった生徒たちはクロエの声に一斉に口を閉じる。

「入学早々恐縮ですが、クラス委員長の四人とお話がしたいので、この朝礼が終わりましたら生徒指導室へと来てくださいませ」

それだけ告げ、ぺこりと頭を下げてクロエは壇上を横切り幕間へと去っていった。

全校生徒の視線が、最前列の委員長たちに注がれる。

「魔王令嬢直々のご指名、ということでしょうか……」

 突然のことに、いつも冷静沈着なレヴィンも頬に汗をかいている。

「なんだろ、ワクワクするね!」

 無邪気なローレンは目を輝かせながら心躍らせているようだ。

 その後、不気味な鴉からの1週間の行事予定や課題などの連絡事項を並べていくが、委員長四人の頭には銀髪の少女の姿が焼き付き、一切入ってこなかった。

 
*    *    *
 
生徒指導室の椅子に座り、クロエはふうとため息をついた。

父親である魔王の願いとはいえ、大勢の前で脚光を浴びることに慣れていないため、少々疲れてしまった。

(それにしても、様々な種族が通っているのね……)

  ヴィンスガーデン・アカデミーに通うには、基準がある。

  知性があり他人と意思疎通ができ、二足歩行が可能な人型であること。

  オークやゴブリンのように異形で力は強いが、力任せでしか戦えない者は入学不可。

  また、動物の見た目で二足歩行ができず、人型でないものも入学はできない。

  魔王であるヴィンスは以前、クロエにこう言った。

『絶大なる魔力を持つ悪魔が、長らく人間に勝てなかったのはなぜか、わかるか』

  闇の城の玉座に座り、浅黒い肌に真紅の瞳のヴィンスは尋ねる。
  すぐには思い付かず、クロエが首を傾げていると、

『奴らは知恵を使う。一度負けても、一人でも生き延びればその戦いを反芻し、作戦を立て、自分たちに有利な状況を作り、再び戦いを挑んでくるのだ』

 ため息をつきながら、人間の特性を語る。

『脆弱で、寿命も短く、魔力の最大値も少ない愚かな人間どもだが、奴らは人数を集め、経験をもとに規律を以って、的確に我々の弱点を付いてくる』

 眉間に皺を寄せ、過去の壮絶な戦いを思い出しながら、魔王ヴィンスは言葉を紡ぐ。

『我々悪魔は自我が強く、単独行動の者が多いからな』

「でもお父様は、そんな人間たちに勝ったではないですか」

『ああ。だが我らが住む闇の世界に安易に攻め込まれぬようになっただけで、人間界を制圧するには私だけの力では足りない』

 強大な闇魔法を駆使し、たった一人で人間の軍勢を打ち破った、伝説の魔王。

 しかし、やはりどんなに強くても、一人では手数が足りない。

『知性のある人型の悪魔たちで統制した軍隊をつくり、攻め込むのだ。……学園は、その秩序と規律を学ばせる場所である』

 悪魔は皆、自尊心が高く単独行動をする。種族によって特性や長所・短所も異なるため、集団生活をさせ、規律を教え込もうという魔王の発した名案だった。

『なのに、指導者となる委員長の四人が、一番秩序を乱しているのだと言うから、頭が痛いものよ』

 指導しやすいよう、妖精・獣人・牙角種・人型と、悪魔を便宜上四つに分け、そのクラスの中で一番強く理性的な者を委員長として置いたのだが、どうやら最近うまく機能していないようだ。

 魔王の心労は、日に日に増しているという。

「お父様を困らせるなど、愚か者ですわね……」

 クロエは、最愛の父親の気持ちを慮り、胸を痛めた。

「ならば、わたくしはそんなお父様の悩みを取り除くために尽力致します」

 形の良い唇を上げ、玉座の魔王の黒い瞳を真っ直ぐに見つめ、誓うクロエ。

『頼んだぞ、可愛い私のクロエ』

「はい。偉大なる闇の魔王、ヴィンスお父様の名の下に」
 
 
 
*  *  *
 
  コンコン、と扉が叩かれるノックの音で、父親との対話を思い出していたクロエの意識は現実に引き戻された。

「失礼いたします」

 礼儀正しく挨拶をし、扉を開けて入ってきたのは、眼鏡をかけたレヴィンだった。
 朝礼で、委員長は早急に生徒指導室に来るようクロエに言われたため、四人で訪れたらしい。

愛想笑いを浮かべて様子を伺っているレヴィン、ワクワクして目を輝かせているローラン、呼び出されたことにイラついているギルバート、始終無表情なオスカー。

四者四様な青年四人が、椅子から立ち上がったクロエの前に等間隔で並ぶ。

「改めまして、初めまして。
 わたくしはクロエと申します。本日から、このヴィンスガーデンアカデミーで、生徒指導をさせていただきます」

 クロエは両手の指先でスカートの裾を持ち、優雅に礼をする。
 ローランとレヴィンは頭を下げたが、オスカーは少し目を細め、ギルバードは不機嫌そうに首を傾げただけだった。

「生徒指導ってなんだよ。今日から来たアンタが、あーしろこーしろ俺たちに指図するってのか?」

 ギルバードの物怖じしない態度に、

「はい。わたくしの言葉は、ヴィンスお父様からの言葉だと思い、今後心してお聞きくださいませ」

 と、クロエが凛と返事をする。

 クロエの背後、生徒指導室の最奥の壁には、大きな肖像画がかけられている。
 それは魔王かつ、この学園の創始者ヴィンスの姿だ。

 その肖像画に描かれた魔王の銀髪と、クロエの流れるような銀髪は、二人が親子だという血筋を感じ、一層クロエの発言に説得力を持たせていた。

「クラス長の4人には、この学園の秩序を守り、生徒たちの成長と強化を促す役割がございます。
 しかし、それがどうやら破綻しているご様子。人間たちを滅ぼすというこの学園の大義名分のため、わたくしの指導を受けていただきます」

クロエがそう言うと、クラス長の4人は言葉を失っていた。
凛とした少女の、不敵とも言える宣言と圧倒的なオーラに、反応できなかったのだ。

そこに一人、沈黙を破った者がいた。

「……貴様に、人間たちを滅ぼす気が本当にあるのか」

ぽつり、と言葉を放ったのは、オスカーだった。
寡黙な彼の低い声が、生徒指導室の部屋に響く。

クロエの言葉が気に食わなかったのか、彼は赤い瞳を見開いてクロエを睨みつけていた。

開いた唇の中に、凶暴な牙が見える。美しく整った顔立ちゆえに、より一層恐ろしい。

「もちろんですわ。そのために私が来ましたから」

クロエが真っ直ぐにオスカーの目を見ながら答えると、彼は一歩前へと足を踏み出した。

背の高いオスカーが、クロエを見下ろし、憎しみのこもった声で囁く。

「……秩序だの、ルールだの、ぬるいことを言って一向に人間を襲いに行かない奴らを束ねることに、心底うんざりしているからだ」

紅い目を見開き、凶暴な笑みを浮かべるオスカー。
彼のドラゴンとしての炎の能力ゆえか、怒りのせいか、室温が上がり彼の周りは蜃気楼でゆらめいていた。

背後に立っていた他のクラス長たちは、眉根を寄せたり俯いたりしながら、オスカーとクロエの対峙の行方を見守っていた。

「来たる時は迫っております。
 偉大なる闇の王、ヴィンスお父様も、それを察してわたくしをこの学園に送り込みましたのよ」

クロエは熱気を一番近くで浴びているというのに、汗ひとつかかず言い返す。
数秒間、二人は睨み合っていたが、オスカーは目を瞑ると踵を返した。

「どちらへ」

「くだらん。失礼する」

金髪をなびかせ、靴音を響かせて生徒指導室の扉を開けて出て行ってしまった。

バタン、と乱暴にドアが閉まる音が響く。

焦げ臭い匂いが部屋に充満していると思ったら、今しがたオスカーが握ったドアノブが、彼の指の形に焦げて黒く燃えていた。

はぁぁぁ、とギルバートのため息が響く。

「オスカーの地雷踏んだな、魔王の娘さんよぉ」

気まずそうに髪の毛を掻いている。

「僕は可愛い子なら大歓迎だよ!」

ローランは少しでも場を盛り上げるためか、笑顔で言った。
その時、一限が始まるチャイムの音がした。
 
「教室に戻りましょう。学生の本分を忘れて遅刻しては元も子もありませんものね」

クロエがそう言うと、三人も頷いてそぞろに歩き出した。

「ああ、そうだ、レヴィンさん」

呼び止めると、眼鏡をかけたレヴィンがゆっくりと振り返った。

「なんですか?」

「もしよかったら、学園の案内をしてくださらないかしら。あなたは優しく穏やかで、後輩への指導も一番上手だと聞きまして」

驚いたように目を丸くしていたが、褒められて悪い気はしなかったようだ。

「それは光栄です、僕でよければぜひ。魔王令嬢さま」

照れたようにはにかんだレヴィンは、それでは昼休みに教室前に集合しよう、とクロエと約束を取り付けて教室へと戻っていった。
 

*     *    *

 
チャイムの音は聞こえていたが、オスカーは校舎裏を歩いていた。

金髪を風になびかせ、眉間に皺を寄せ、普段のクールな彼からは想像できない形相だ。

「くだらん、くだらん、くだらん……!」

急に現れた魔王の娘だという銀髪の少女の言葉に、胸元を掴みながら吐き捨てる。

そうして地面を強く蹴ると、ドラゴン族の彼はいとも簡単に高く遠い青空へと飛び立った。
 

*    *   *
 

クロエは教室の最前列に座り、一限の『魔法薬学』の授業を受けながら、頭の中では父親との会話を思い返していた。
 
『クロエ。クラス長の4人の中でも、特にこの2人には気をつけろ』

 父、ヴィンスは気だるげに玉座に座りながら、人差し指を立てる。

『マテリアドラゴンの末裔、オスカーは強大な力を持っている。敵に回すとそなたでも危険だ』

誰よりも強い力を持っている父がそう言うのだから、きっと間違いない。

怒った彼と対峙した時の灼熱の温度と、焦げたドアノブの跡を思い出す。

オスカーが本気を出せば、この学園などすぐに燃え尽き、塵と化すのが想像できた。
 
『もう一人は誰ですの?』

クロエの問いに、ヴィンスは顔を少しだけ曇らせた。

『……レヴィンだ』

ヴィンスは黒髪で穏やかなエルフの名前を挙げたのだ。

『穏やかで理性的なエルフに見えるが、あの瞳の奥は底知れぬ。深入りするなよ』
 
クロエは、実際に会ってみて彼からは何も不穏なものを感じなかった。

しかし、父が言うのだから信じてみようと、監視のために彼に学園の案内を依頼したのであった。
 
*    *   *
 
窓側の一番後ろの席で、レヴィンは講義を受けていた。

ノートを開き、教師の言う薬学の基礎をノートにメモしながら、頭では違うことを考えている。

魔王の娘が自らこの学園に来るなんて、面白い。
飛んで火に入る夏の虫とはよく言ったものだ、と。

穏便で人畜無害な、人型のエルフ。そして優等生のクラス長の自分が、どんなことを考えているのか彼女は知っているのだろうか?

「……ふふ」

顔を上げ、黒板を見るそぶりをしながら、最前列に座る銀髪の少女の後ろ姿をそっと見つめる。

レヴィンのメガネの奥の瞳が、きらりと欲望に歪んでいた。
 
 

【第2話以降のリンク】


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