どこでも住めるからここにいる
私の子供の頃の住まいは、古い公営住宅群の2Kの狭い部屋だった。
マンションや住宅のチラシの間取りを見ては、
「ここは自分の部屋で、ベットやカーテンは何色で……」
なんて妄想するほど、広い家と自分の部屋に憧れがあった。
18歳で家を飛び出し、紆余曲折して初めて借りたアパートには、一人暮らししたら絶対欲しかったロフト。
友達と2人暮らししたマンションは新築だった。
県外に出たときは、広い部屋に1人で住んだ。
それから夢の家は、畑と縁側のある日本家屋となった。
のんびり猫を撫でて、ゆっくり暮らしたい。
ほっとした瞬間に青い空を眺め、自然と共に生きる。
まだ夢の家には住めていない。
とはいえ、今の家も素敵な家だ。
子供の頃に思い描いたカウンターキッチン、吹き抜けに光を注ぐ大きな窓、床暖房に広いベランダ。
IHだって付いているし、ビルトインの食洗機だってある。
とはいえ、探せば不便なところも山ほどある。
家族が増えて部屋が足りないとか、思うように片付かないとか、割とうるさい環境とか、学校が遠いとか。
住んでる地域だって、なかなか中途半端な田舎だ。
もっと都会の便利なところに、とか、自然あふれる田舎に、とか、思うこともある。
その昔に思い描いた夢の家や街に住みたくなることも。
でも、どこでも住めるよって言われたら、やっぱりこの街のこの家を選ぶ気がする。
昼間は人口より猫が多くて、夜は酔っ払いの声がコダマする。
学校は遠いし、町一番の工場が近いから、窓から見える景色は多数の煙突が主役。
人によっちゃ、こんなとこ住みたくないっていうかもしれない。
でも、この街に来て、私は定職について天職をみつけ、温かい家族と友達に出会えた。
今の家は、義父が遺してくれた宝物だ。
だから私は、どこでも住めるとしたら、やっぱりこの街のこの家に住む。
そして、好きな人達に囲まれ、好きな仕事をして生きていくと思うんだ。
きっとそうだ。
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