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今日、雨じゃなければ。



 あなたのことを考えると、僕は息が苦しくて溺れてしまいそうだ。

 強く身を打つ雨の中でもなお、鼓動の音がうるさい。

びしょ濡れになった制服のスカートを絞りながら、お姉さんぶって微笑むあなたから目を逸した。

 あなたはいつか、僕の恋人になってくれるの?

 いつになっても言えない言葉を、奥歯で噛み砕いた。

 そんな気も知らずに、またあなたは無邪気に僕の手を握る。

 風に吹かれて冷えていく僕の手に、はぁと暖かい息がかかる。

 「やめてよ。子供じゃないんだから」

 気恥ずかしさに手をひけば、彼女はそれを気にも留めていない様子で笑った。

「ごめんごめん」

 まだ雨は降り止む気配がない。

 背を向けた後ろで、彼女が座りこんだ。

「君も座れば? まだ止みそうにないよ」

 僕は聞こえない振りをして、彼女の隣に立っていた。

 しばらくして、彼女があっ、と声を上げた。

「ごめん、私行くね。君も気をつけて」

 そう僕に微笑みかけて、鞄を傘代わりに頭の上に掲げて走っていく彼女の前には、空色の車が止まっていた。

 彼女が乗り込んだ時に見えた運転席の彼は、きっと気の合う人なんだろう。

 半年くらい前だろうか。年上の彼氏と付き合ったって噂は、やっぱり本当だったんだ。

 雨は一層強く降り続くばかりだった。

 水をたっぷり吸ったローファーと鞄はやけに重たい。

 僕のため息は雨音の中でかき消されて、誰にも届くことはなかった。


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