転職サイトが日本をダメにする理由

転職サイトがある世界と、転職サイトがない世界を比較してみると、転職サイトがいかにゴミであるかに気づく。

転職サイトがない世界は、誰もが知り合いのツテや、店頭の張り紙、大学やハローワークの紹介で仕事を見つける。それはかつての日本社会の姿でもある。

転職サイトがある現代と比べて、手に入る圧倒的に情報量は少ない。つまり、もし転職サイトが存在していたらもっと自分に合った仕事を見つけられていたにもかかわらず、転職サイトが存在しないばっかりに不似合いな仕事に甘んじなければならない‥そんな社会だと考えることもできる。

社員を探す企業の方も、転職サイトがあればより多様な人材プールの中から、より自社に合う人材を見つけられるのに‥と考えることが可能だ。

ならば、転職サイトは素晴らしいサービスなのだろうか？

ここで「合う仕事」「合う人材」という考え方を、丁寧に分析してみよう。

「合う仕事」というのは、自分の才能が活かせるとか、自分のライフスタイルに合うとか、給料が上がるとか、要するにトータルで見たときに「自分が幸せになれる仕事」だと考えて間違い無いだろう。

会社から見て「合う社員」とは、定着し、能力を発揮してくれて、ひいては会社を儲けさせる人材のことだろう。

では、転職サイトがある今の社会に生きる日本人は、転職サイトがない時代と比べて才能が活かせていて、よりライフスタイルに合った働き方を実現し、給料が上がり、幸せになっているだろうか？

あるいは、転職サイトが登場するやいなや、日本企業は自社を儲けさせる人材を集めることが可能になり、日本のGDPは倍増しただろうか？

どう見てもそんな事態は起こっていない。むしろ、人々の幸福度は上がらず、定着率は下がり、GDPは停滞するという逆方向の事態が起きている。

つまり、リクルートも、マイナビも、明らかに失敗した。彼らは、仕事を探す人には「あなたに合った仕事を見つけてみせますよ」と言い、企業には「あなたの会社を儲けさせる人材を見つけてみせますよ」と言うが、その約束を果たすことはできなかった。たしかに、個別で儲けた会社や、個別で幸せになった人はいる。だが、トータルで見ればマイナスなのだ（求人広告の市場規模は年々膨れ上がっているというのに、皮肉な話である）。

そのマイナスのために、どれだけの労働がつぎ込まれたことだろうか？ どれだけの人々が電話営業で時間を無駄にし、どれだけの量の文章が書かれたか？ 転職サイトの掲載費用を社員の給料に充てていれば、どれだけ人は幸せになれていただろうか？ 人材業界で働く人たちが介護や農業、建築の仕事をしていれば、人手不足はどれだけマシだっただろうか？

転職サイトを作った人たちは、この数十年間、座って何もせず鼻くそをほじっていた方が、日本は良くなっていたわけだ。

たしかに、求人情報を民主化したという功績もないことはない。これまでは「委細面談」としか書かれていなかった求人情報に「月給いくらで、休みは何日で」という情報を載せたことはリクルートの功績のひとつだ。

だが、これによって人々が幸福になったわけではない以上、手放しに誉められたことではない。それに、情報を民主化した先に起こったことは、みんなが9時5時の事務職や、大手企業の総合職に殺到する事態だ。

クーラーの効いたオフィスでお茶を飲みながら事務仕事をすることが理想的な生き方であるという情報が民主化されたときに、誰が実家のみかん農家を引き継ごうと思うだろうか？

「誰しもが理想の仕事にチャレンジできるのはいいことだ！」という反論には僕も同意する。だが、ホワイトカラーの仕事は原則的にブルシットジョブであり、不労所得を得るための儀式なのだ。誰しもが搾取階級を目指せるようになった社会が本当に理想的と言えるだろうか？

封建領主は、自分の仕事が生産的であるなんて夢にも思っていなかった。奴隷主も同様だ。しかし、今のホワイトカラーは、介護士や保育士、農家よりも自分が生産的であるから、彼らよりも高い給料をもらっていると思い込んでいる。事実上やっていることはピンハネを得るための儀式に過ぎないというのに（実力主義のイデオロギーは「金を稼いでいる＝役に立っている」というフィクションを正当化する）。

僕が言いたいのは、転職サイトで人気のホワイトカラー職は、ほとんど仕事ですらない。それは搾取階級に過ぎない。搾取階級へ至るための情報を民主化した結果、介護士や保育士、農家などの実質的な仕事に就く人はいなくなったわけだ。

転職サイトは、「9時5時のオフィスワークで搾取しよう♪」という情報は発信できても「オフィスワークよりも、農家になろう！」という情報は発信できない。つまり、エッセンシャルワーカーの人手不足を助長することしかできない。

つまり、転職サイトご自慢の「情報の民主化」とやらも、日本社会をダメにする方向にしか働いていないのだ。

もちろん、全てが転職サイトの責任であるわけではないが、それでも転職サイトに一因がある。つまり転職サイトは日本をダメにする。

Q.E.D.