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哲学的中間層とピエロ

まさか本当に、無職祝い金を貰いに来る無職がいるなんて思ってもみなかった。

しかし、世の中にはいろんな人がいるものである。岡山から大阪まで下道で7時間、米津玄師とKing Gnuを流しながら、僕に会いに来てくれた人がいた。

※無職祝い金についてはこちら↓

とりあえず、僕の仕事が終わってから飯を食いに行った。色々と話を聞いていると、彼(仮にKとしよう)は少し前から僕のファンで、無職募集の記事を見て「いくっきゃねぇ」と奮い立って来たらしい。

「自分のファンに会う」という体験は、生まれて初めてだ。「1年前くらいに書いていたあの記事なんですけど〜」と、僕すら忘れているような記事のことを掘り出してきて語ってくれる。「ネーモさん」と呼ばれるのも、不思議な感覚である。なんせ、僕はネットを介して人に会ったのは初めてなのだから。まるで自分が自分ではない人物を演じているような、そんな気持ちだ。

岡山からわざわざ来たKは、週2でアルバイトをしているので厳密に言うと無職ではないのだけれど、今回は祝い金を名目として遠路はるばるきていただいたので、きっちりとお渡しした。

無職祝い金を渡す、歴史的瞬間。金額は悩んだが3000円にしておいた。高すぎず、安すぎず、程よい「祝い感」を出せただろうか。
ついでに反アマゾン運動の最中のためにまだ買えていなかったらしいので、僕の著書をプレゼントしておいた。反アマゾンとか言っているあたりから、Kのややこしい人物像が滲み出ている。

行動力をみるに、Kは社会から爪弾きにされるダウナー系無職ではなく、人当たりがよく活発なアッパー系無職であることは想像がついていた。だが、想像していた以上にアッパー系であり、一発キメてきたのではないか?というテンションで飲み屋のアルバイトや隣の客に絡みに行っていた。もしも何も知らずに立ち飲み屋で出会っていたなら、Kは単なるピエロであるという結論は避け難い。

だが、そんな人物が僕のイカ臭い文章をフォローしてくれているのである。やはりと言うべきか、単なるピエロではなく、Kは悲しみと哲学を抱いたピエロだった。内田樹とかエーリッヒ・フロムとかカフカとかを持ち出しながら「金が稼げるようになって、これじゃねぇなと思ったんですよね。でも、その感情の正体がわからない」とかなんとか話してくれる。

Kの話で印象的だったのは、哲学的中間層に対する仮説である。つまり、思いっきり哲学的な話題に没頭する職業哲学者…にまでは至らない隠れアマチュア哲学者(これはつまりKのような人物である)が、社会にはひしめいているのではないかという仮説だ。彼らは日常生活の中では天気や野球中継の話でお茶を濁しているものの、実のところ心の奥底に秘めた想いを、どこにも発散できずにいるのではないか?と。そして、ホモ・ネーモのフォロワーというのは、まさしく哲学的中間層なのではないか?と、Kは考えているらしい。

哲学的中間層。これはマグマだまりのようなものなのかもしれない、と僕は思った。なんせ内側にエネルギーをひたすら溜め込んでいるのだ。なんらかのきっかけがあれば、爆発して大きなインパクトを与える運動になるのだろうか? どうなのだろうか?

Kの話を理解できたような気もするし、できなかったような気もする。僕たちは3軒目に差し掛かった頃にはもう支離滅裂になって、次の日にはほとんど覚えていなかった。次の日にはKは岡山へ帰って行った。この会合は、「なんかわからんが楽しかった」という行きずりの合コンみたいな結末を迎えてしまうのだろうか?

そうはしたくない、というのが僕の本音である。僕の1フォロワーであるKが、僕が日々書き連ねている文章から何かを感じ取って、ここまでやってきた。その事実が何を意味するのかはいまだに判断がつかないものの、どうにも重要な意味を帯びているような気がしている。

僕は斜に構えて社会をニヒルに見下す皮肉屋ではなく、割と真面目に社会に大きなインパクトを残したいと思っている人間である。労働なき世界やBIを実現するための、なんらかのきっかけになりたいと思っているからこそ、本を書いたりしているのだ。

岡山からやってきたKも、そのビジョンには共感してくれているようだった。彼は少し特殊な人物だろうが、300人(死にアカウントもいるだろうけれど…)いる僕のフォロワーがそれに近い熱量を持ってくれていたならどうだろう? 300人でうまくやれば、小さい城くらいなら落とせるはずだ。別に城を落としたいわけではないけれど、1つの城を落とすだけで国が落ちたりするのだから、この人数は意外と侮れない。Kの仮説によれば、彼らは何らかのざらついた感覚を抱えた哲学的中間層なのである。彼らが一斉にマグマを噴き出すようなことがあったら、何か大きなことができるような気もする。

もちろん、全員が全員、わざわざ僕に会いにきてくれるほどの熱量を持っているとは限らない。大して読まずにフォローしてくれている人もいるだろう。だが、ちょっと調子に乗ってオフ会でもやってみたいなぁと思っている。

では、どんなオフ会をやろうか? これは僕にとって反省点であり、永遠の課題ではあるのだけれど、「酒を飲む関係」っていうのはそれ以上の関係に発展しないのだ。人と人の距離が最も近くなるのは、なにか共同プロジェクトを成し遂げた時だ。消費者としてお金を払って酒を飲むという共同プロジェクトは、共同プロジェクトとしてかなり弱い。例えばBBQをする方が、お互いを知りチームワークを育むことにつながるのだ。そして何より楽しい。「BBQするくらいやったら、焼肉屋行けばいいやん」と言う皮肉屋が見逃しているのはこの点である。

ビジネス芸人のオンラインサロンみたいな発想に近いてきた気がするが、まぁ別に構わないだろう。酒を飲むだけではない、なんらかのオフ会をしてみたい。3~4人くらいで、なんだろう。なにがいいだろうか。ちょっと色々と考えてみようと思う。

ちなみに無職祝い金を配る活動は継続しているので、大阪まで来れる無職の方はいつでも声をかけてほしい。

※応募多数の場合、抽選となる可能性がございます。あらかじめご了承ください。

中途半端な結論に辿り着いてしまったが、僕のインターネットと現実世界をクロスオーバーした旅路はまだまだ続くということで、これは途中報告である、ということで、今日はこれくらいにしておこう。

何はともあれ、きっかけをくれたのはKである。ありがとうK。また会おうK。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!