見出し画像

ニートこそ、農業

■ニートは農業に適した人種

僕は農業を始めて2年ほど経つわけだが、大した収穫を上げていないどころか、植え付けた作物の7割くらいは枯らしている。そんな僕が農業についての蘊蓄をあれこれ書き殴るなんて、おこがましいと思うかもしれない。しかし、そんな僕だからこそ、書けることもある。

人は成功例を見て憧れを抱く。自分も成功したいと願う。成功するための方法を勉強しようとする。そして成功できないことに苛立ち挫折する。当然である。いきなり成功するには努力とセンスが必要なのだ。

農業も同じだろう。利益を出そうとしたり、自給自足しようとしたり、はたまた「丁寧な暮らし」をインスタでアピールしようとするならば、恐らくとんでもない努力とセンスが必要である。

どんな土地を選ぶべきか? どうすれば見栄えのいい作物ができるのか? 畝立てや種まきの時期は? 水やり、間引き、剪定の手順は?

あれこれ情報収集をして、アブラムシに食い散らかされたキャベツをインスタに載せて醜態を晒すようなことがないように、慎重に慎重に…

そんなふうに綿密な計画を立てているうちに、99パーセントの人は次のように結論づけるだろう。

うん、めんどくさいし、また今度にしよう。

しかし、責任も、収益も、見栄えも、効率も、何も気にすることなく失敗前提で取り組むのであれば、農業は死ぬほど楽しめる。実際のところ、そういう雑にやる姿勢こそが長続きの秘訣だというのは、誰しも思い当たる節があるだろう(仮にあなたが今「フリーランスで稼げるプログラマーになろう!」と考えているとする。1年後に、理想の姿になっていることは99.99パーセントあり得ない。逆に何の下調べもなくノリでゲームを作り始めた人が天才プログラマーになったりもする)。

僕は雑にやって失敗してばかりいる先人であるが、誰よりも農業を楽しんでいる。そんな僕が辿り着いた結論はこうだ。

ニートとは農業を楽しむのに最も適した人種である。

なぜなら、彼は何らかの形ですでに生活の糧を得ているわけだし、わざわざ新たに収益を得る必要も、それだけで自給自足する必要もない。いまさら世間様の目を気にする必要もない。つまり、成功を気にすることなく、好きに失敗できる立場なのだ。

それに、時間も十分にある。農業をするのにはさほど時間は必要ないが、時間の余裕は必要である(規模にもよるが、家庭菜園レベルの畝立てや種まき、収穫といった作業には土日の1~2時間程度があれば十分だし、その他の世話は朝2~30分があれば十分だ。しかし、これっぽっちの時間を捻出することすら、会社員にとってはむずかしい)。

とはいえ、向いているというだけでは、ニートが農業をやる理由にはならない。ここで改めて、ニートが農業をやる理由をいくつか挙げてみようと思う。


■ニートが農業をやる理由

・理由1/ニートにはマイプロジェクトが必要だから

以下の記事にも書いたが、完全な無為徒食は人間にとって苦痛である。

趣味のあるニートはもちろんのこと、一見すると大した趣味のなさそうなニートすら、ネットゲームを極め始めたり、声優の生理周期を把握し出したり、YouTuberの住所を特定したり、何らかのプロジェクトに邁進せずにはいられない。

その中の1つとして農業は極めて優れている。なぜなら、朝から晩まで熱心に取り組むような必要はなく(それはニートが最も不得意とする分野だろう)、ニートの24時間を構成するさまざまなプロジェクトの1つとして気軽に始めることができる。ほどよくトライ&エラーや創意工夫する余地もあり、達成感もある。ここでいう達成感とは収穫に限った話ではない。きれいに畝を立てたときや、雑草を刈り尽くしたとき、等間隔できれいに玉ねぎを植え付けられたときなど、「おれスゲェ」できる瞬間はいくらでもある


・理由2/自信が得られるから

運良く膨大な収穫を得たとき、「あれ、これ俺、資本主義社会の外で生きていけるんじゃね?」という自信を得ることができる。もちろん、それだけの収穫を継続的に得ることはむずかしいわけだが、それでもこの労働社会から逃れられる選択肢を自分が手にしているという感覚は、精神衛生上好ましい。

また、食糧安全保障の話題や、化学肥料、リン鉱石の枯渇、農業資材の高騰、その他の物価高のニュースも、涼しい顔をして眺める余裕が生まれる。ソ連崩壊時、ロシア人はダーチャという農園によって食いつないだと言う話は有名だろう。


・理由3/健康にいいから

単純に体を動かすことや、朝のルーティーンを作ることは、健康に良い。何の負荷もリズムもない生活は苦痛であり、不健康だ。それゆえ、ニートはなんらかのマイルールを設ける傾向にあるわけだが、農業はそれを助けてくれる。


・理由4/人を困惑させられるから

ニートとは怠惰な人物であると想定されている。僕はそれが誤りであるとアンチワーク哲学を通じて指摘し続けているわけだが、世間一般の人は、そのイメージからいまだに逃れてはいない。

「怠惰」の逆は「勤勉」である。勤勉とは、おおむね「食っていくための努力を惜しまないこと」を意味していて、そのイメージの根源には「せっせと鍬を振るう農民」がある。

つまり、ここでイメージが衝突するのだ。怠惰の象徴であるニートが、勤勉の象徴である農業に励んでいる。その時に生じるのは、人々がただただ困惑するという事態である。

人々はニートに対し「おい、いい加減まじめに働け」と叱責するわけだが、それに対して農業に勤しむニートは「いや、農業してますが?」と返事をすることになる。相手は「いやぁそれは単なる道楽であって、ちゃんと会社に勤めてだな…」としどろもどろになりながら反論してくるわけだが、もはや相手の議論にはニートを傷つけるほどの切れ味はない

つまり、人々を混乱させてニートに対する攻撃の手をゆるめさせるのに、農業はピッタリなのである。



■農地は借りるのではなく「お手伝い」しよう

では、続いてはどのように農業を始めるのかについて語りたいわけだが、まずは僕がどうやっているのかを紹介しよう。

簡単である。耕作放棄地の管理をボランティアで「お手伝い」するのだ。完全な都心でもない限り、耕作放棄地などどこにでもある。また、引退したくても後継者が見つからずにやめられない農家ならおそらくいくらでもいる。

僕はそういう人たちをネットで探した。というかジモティで募集した。

「土地を貸してください」という募集だと不動産契約とみなされジモティの規定に引っかかる。だから「農作業や農地の管理を手伝わせてください」という募集にした。

そもそもいきなり「貸してください」などと言われても、何処の馬の骨ともわからない人に貸してくれる人は少ないだろう。それに「金を払えよ」と思われても不思議ではない。

だが、「手伝わせてください」なら話は違う。こちらが金を払わないのが当然というだけではなく、向こうが金を払わないことに負い目すら感じるかもしれない。もちろん、そこまで感じさせる必要はないのだが、ある程度、こちらに有利になるようにことを進めるのは悪い話ではない。

もちろん、単なるタダ働きの農業バイトとして使われる可能性もある。だが、それは丁重に断れば良い。「もう引退する(した)から好きに使ってくれ」という話が出てくるまで待てば良いのだ。

実際、「放置して雑草ぼうぼうにしないように管理してくれるだけで良い、だから好きに使ってくれていい」という農家すら珍しくなかった(ちなみに僕は半年ほど募集して4件の問い合わせがあった。受けたのは1件だけなわけだが、それだけニーズはあるのだ)。


■ニートなら自然農

さて、首尾よく土地を手に入れたとして、そこからどのような農業を始めるかだが、僕のおすすめは自然農である。

自然農の細かい定義はよくわからないが、雑に説明すると化学肥料を入れずに、農薬を撒かずに、(できるだけ)草刈りも耕運も行わない農法を指す。他にも、ビニールマルチやネットといった資材も使わない。

これがビニールマルチ、高いし、片付けもめんどくさいのだ。


農家は虫除けにこういうネットを張ったりする。がこれも高いし、めんどくさい。

※「自然農」と「自然農法」は厳密に言うと違うらしいが、よくわからないので「自然農」で統一する。

自然農の提唱者たちやその信者たちは、「化学肥料は自然じゃない! 自然に還れ!」的なスピリチュアル思想を唱えるわけだが、正直細かいことはどうでもいい。何はともあれ「金がかからない」というメリットに注目しよう。自然農がうまく回り始めれば、ガチで金はかからない。ニートに出費はキツいだろう。ならば、金のかからない方法を選ぶべきだ(耕作放棄地を借りると、地主の農家さんに道具を借りられる点もメリットだろう)。

自然農のやり方はYouTubeで調べると色々と出てくるし、本を読んでもいい。

が、繰り返すが、雑にやるという心持ちは忘れない方がいい。

デメリットはあるものの農薬や化学肥料は便利だから広まっているのだ。自然農は難易度が高く、ほぼ間違いなく最初は失敗する。だから、雑に失敗から学んでいく方がいいだろう。

野菜など、とりあえず畝を立てて、タネを蒔いて、水をやっておけば、芽吹くのだ。楽に行こう。


■簡単な作物を作ろう

とはいえ、成功体験がないとなかなか継続しづらいことも事実。そこで、初心者おすすめの作物をいくつか紹介してみよう。


・さつまいもをやっておけば間違いない

圧倒的おすすめ作物はさつまいもである。農業について調べていると頻出する単語のうちの1つに菌根菌というものがある。

雑に説明すると、これは特定の作物の根っこに棲みついている菌で、空気中から窒素を取ってくる役割を果たす。主にマメ科にしか棲みついていない菌なのだが、ヒルガオ科のさつまいもにもなぜか棲みついている。

窒素は作物が成長するにあたって必須の元素であり、不足しがちな元素でもある。化学肥料とは、主に窒素を土にぶち込むために使用されるわけだが、さつまいもはこれを自前で調達できる。

要するに痩せた土地でも、肥料がなくても、簡単に育てられるのだ。

苗をホームセンターで買ってきて、6月ごろに植え付けておけば、後は放置。勝手にツルが伸びて勝手に大地を覆い尽くし、10月ごろにはもうさつまいもが大量にできている。大きい芋を育てようと思えばビニールマルチをして、剪定した方がいいらしいが、細かいことは気にする必要はない。


・葉物野菜より根菜

個人的にキャベツや白菜、レタスといった葉物野菜が成功した試しはない。虫に食べられて終了というケースが多い上に、水やりも頻繁に必要となる。

一方で、さつまいもにも言えることだが、根菜系は放置しても問題ないケースが多い。個人的に大根とにんじんは比較的簡単に感じる。やったことはないが里芋も簡単らしい。

あとは、ニンニクや生姜なども放置できる。どれも根っこを育てるタイプである。だが、ジャガイモはやめておけ。土が痩せる。


・夏野菜はスモールスタートで

トマトやナス、ピーマン、きゅうり、オクラといった夏野菜は、やったことはあるものの、結構管理がめんどくさい。夏場はこまめな水やりが必要だし、収穫時期を逃すとダメになったりもする。

あまり欲張ると失敗した時のダメージがでかい。それにうまくいけば1つの苗からでもぽんぽん収穫できて、逆に消費が追いつかないくらいだ(僕はナスやきゅうりを消費するために糠漬けをはじめたし、ピクルスも作った)。なので、夏野菜は小さく始めることをお勧めする。というか、夏は何もかもやる気がなくなるので、あまり気負わない方がいい。農業は春と秋が勝負だ。


・困ったらハーブ系とニラ

あと簡単に増えるのは、大葉、バジル、ニラあたりだろうか。ニラは増えすぎて雑草よりも根絶するのが難しくなるレベルである。ただし、大葉は使い道がなく、無駄にしてしまうことの方が多かった。バジルはバジルソースにでもすればいい。ニラは一生ニラたまか餃子でも作っておけばいい。

ちなみに、この手の植物は害虫避けにもいいらしい。あまり効果を感じたことはないが。


・つる系はやめておけ

主にマメ類である。支柱を立てたりするのはめんどくさいし、難しい。そもそも、そら豆もえんどう豆も別に食いたくないのである。

こういうやつ。マジでめんどくさい。

ただし、枝豆は支柱も何もいらないし、比較的簡単なのでお勧めだ。問題があるとすれば収穫時期を逃せば枝豆ではなく大豆になってしまうことくらいだが、大豆になったらなったで味噌でも作ればいい。



■肥料は雑草と落ち葉と米ぬか

自然農は化学肥料を使わないとはいえ、あまりにも痩せた土地では何も育たないことは事実。だから無料で調達できるもので土地をこやそう。

まず雑にやるのは草マルチである。刈った雑草を適当に畝にばら撒くだけでも、それなりに栄養になるはずだ。

だがこれは即効性に欠ける。おすすめのやり方はまず米ぬかを入手すること。これは近所のコイン精米所でただで手に入る。そして、畑に生えていた雑草を刈って1週間くらい放置すればカラカラに枯れるので、米糠と一緒に土に混ぜ込むのだ。落ち葉なんかもあれば適当に。また、火を起こしても怒られないなら、乾燥した雑草は燃やして草木灰にするのもいい(とりあえずアルカリ性にしておけ!という風潮は間違いないと思っている)。

土に混ぜ込んで数週間もすれば、いい感じの堆肥になっているはずだ。

調べてみれば意外とどこにでもある。コイン精米所。


■とりあえず草被せとけ

自然農は難しいが要するに「とりあえず草被せておけ」という思想である。土を裸のまま放置していると土が乾燥するし、菌が死んでいくし、土が風で飛んでいくし、種が鳥に突かれるし、いいことはないのである。とりあえず被せておけば、霜が降りて水やりの必要がなくなったり、栄養がじっくり入っていったり、何かといいことがある。

とりあえず背の高い雑草は刈っておいて、被せておけばいい。

こういう感じである。


■まとめ:とりあえずやってみる

なんだかんだと言ったが、繰り返そう。調べすぎるのはよくない。成功しなければならないという心理的なプレッシャーになるからだ。

失敗前提でやってみて、ダメなら次の季節へ。それくらいでいいのである。さつまいもを失敗すれば、再チャレンジできるのは1年後だ。

農業には、雄大な時の流れを楽しむ心のゆとりが必要だが、ニートならきっとできる。

いつか実家を追い出されても、生計を失っても、農業の経験があれば山奥の廃屋に引っ込んで生きていくことはできるはずだ(調べればタダ同然の古民家など掃いて捨てるほどある)。家族がいれば難易度は高いが、身一つならどうとでもなるだろう。

色んな意味でオススメである。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!