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シーソーシークワーサー Ⅱ【69 ひとまわり大きな器 】

【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】

 母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。

 一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。

 絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。

 生前の凡人の母、那月は凡人を守って生き抜くために、様々な選択をする。

 沖縄から遠く離れた本土の片田舎で育った凡人の母、那月。母の重圧に耐えかね、家を出た。家出少女を何も聞かずに受け入れたMasaとその妻、順子。Masaは那月に3ヶ月で売り上げを3倍にすることを条件に、次の日から衣食住の提供と引き換えに那月を自分の古着屋で働かせる。

 その店に決まって現れる女とMasaの関係に気づいた那月。それ以外は満たされた労働環境のはずだった。店を出る決意をした那月は……


Ⅱ【69 ひとまわり大きな器】

 誕生日の朝。朝陽が入らない人工的なカラフルな部屋で、那月は目覚めた。後悔などなかった。1泊の宿のために差し出した体を、数時間前に出会ったばかりの男は喜んだ。たった数分の快楽を味わうために、ナンパ橋を何時間もうろうろしていたのだろう。

 動物だ。人間も動物なのだ。

 横で寝ている男の顔をマジマジと見る。歯も磨かずに、寝てしまった男。何歳だろうか。歳上なのは確かだが、ほどよく日焼けしている顔は、ナンパ橋で立っている時間の長さを想像させた。

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