シーソーシークワーサー Ⅱ【63 待機の女】
【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】
母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。
一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。
絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。
生前の凡人の母、那月は凡人を守って生き抜くために、ある決断をしていたのだが……
Ⅱ【63 待機の女】
那月は心の中で、たくさんの呼称を客につけていた。もちろん、本人の前で口にするわけではない、一瞬でも客の特徴を把握した上で、店ごとのファンになってもらうことがMasaとの約束だった。
事実、入って1ヶ月で売上は右肩上がりになった。オーナーのMasaは帳簿を見返さない。それでもええんやと言っては、毎週水曜日はどこかに出掛けて行った。那月に課した課題と、Masaが口にする優しい言葉は相反するものがあった。
相反するもの。Masaは家に帰れば順子さんとうまくやっている。あの日の朝に見せた不穏な空気もまるで無かったように振る舞い続けている。
「明日はお帰りは遅いの?」
ここから先は
1,632字
/
1画像
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?