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化粧箱入り息子~蠍座のきみの恋するpetit story~

きみの星座別 恋するpetit story
【化粧箱入り息子】

 柿の農繁期だからと、あの子の誘いを断ったら、「夜、少しだけ会えない?」と返事が来た。そこまで言ってくれるのなら……念のため、父に確認してみた。
「遊びに行くんか?」
「うん、ちょっと……」
「彼女、できたんか?」
「うーん、どうだろ……」
「そうか、行ってきたらええ」
 サイズごとに分けたコンテナの富有柿を拭き、艶を出してから、化粧箱に詰める。昼間、同じだけ畑に出ていた父に、予約分のその作業を任せてしまうことになった。黙っていると、父は続けた。
「昔、ワシも同じように遊びに行きたかったからな、気持ちが分かるんや。『ワシらが苦労した分だけの、同じ苦労をしてみい』っていう人もいるけどな、押しつけがましいのも嫌なんや。彼女は、待たせるな。ワシもまだ若いんやさけ。飲むんやったら泊まってこいよ」
 普段は無口な父が、僕に自分の考えを語るのは初めてだった。そう言われると、余計に申し訳なくも思ったが、有難く受け取ることにした。
 僕は、父のようになれるだろうか。
 今夜のチャンスは、逃すまい。

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