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ちょっとニコッて戻ってみよう

 あ、サロンのおねぇさんだ!

 その瞬間、にわかに私の歩幅が狭くなるのがわかりました。

 遠くに見えた、サロンの綺麗なおねぇさんがこっちに近づいてきて、もう間もなくすれ違いそうだと言う時のことです。声を掛けようかどうしよう~って、もう、足から迷っちゃってるんです。

 えっ? そんなことで? 今までそんなこと無かったのに。

 そんなことだけど、すこーし知り合いなのか、ちょっとだけ仲が良いのかでも違ってきます。わたしは親しみを持っているけど、「おねぇさんは、今、きっとオフだからなぁ」と、変に気を回してしまう。はたまた、自粛とか、ソーシャルディスタンスを気にしている時は、さらに気に気をかけて、もう、わけわかんない状態でした。声を掛けるのが相手にとってベストなのかどうかも気になったりして。

 この日は、やっと外に出た日でした。真面目すぎるほど過剰に外出を自粛して、2週間、ほぼ誰とも会っていなくて、やっと、イオンモールに出かけて映画を観た日です。

 わたしは気づいてる。おねぇさんは気づいていない。

 わたしは気づいてる。おねぇさんは、まだ、気づいていない。

 そうしている間にも、一歩一歩、距離が縮まるわけで……。

「こんにちは~」

 やっと出たその言葉に、マスクの中で口角が上がるのを感じました。

 ちょっと「ニコッ」てしただけです。

 でも、ちょっと「ニコッ」って、出来たんだって感覚。

 フツーに「あっ、こんにちは!」と、ニコッて挨拶を交わしてくれたことに、いつもより嬉しさを感じたり。「気づかないフリをする」って、わたしの選択肢はないんだって自覚したり。

 今まで通り、そこはフツーに。

 もしも、これから、同じようにバクバクして、今までと同じ感覚に戻れなくて、それでいて、少し寂しく感じることがあったら、「置かれた場所で咲きなさい」(著:渡辺和子)の中のあの言葉を思い出そう。


――私のほほえみは、”神様のポケット”に入ったのだ。

 ちょっと「ニコッ」て、戻ってみよう。


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