雨に降られば、
東京は、雨に降られないと思っていた。
そんなことは無かった。
むしろ、地下鉄から出るとすぐに雨に遭ってしまう。
先日、雨の予報は出ていたのに、傘を置いて上京した。すこしくらい雨にあたっても大丈夫だろうと気軽に構えていた。
霧雨くらいなら、小雨くらいなら、と勝手に小降りをイメージしていた私は、徒歩20分間に当たる雨の量など、濡れるまではいかないだろうと思っていた。
電車を乗り継いで飛行機に乗って、降りて、また電車に乗るだけなら、雨に降られるのは最小限で済む。けれど、そこから、宿に移動したり、訪ね先にいく時は、雨天の場合は当たり前だけれど、傘が必要だった。
ちょっと歩けば地下鉄で、数分おきに電車が来るという東京という環境を、私は、ちょっとでも雨にかからない場所、だと勘違いしてしまっていた。
その「ちょっと」というのは、私の感覚で徒歩20分圏内だし、徒歩5分以内だって大粒の雨や風を伴うような横殴りの雨が降っていれば、傘ですら避けられない。私は一体どこで何を勘違いしていたのだ。
考えてみれば、地方の方が雨に降られないのかもしれない。
車まで徒歩10秒だし、その車で最寄りまで乗り付けては、傘を置いたままスーパーに行くことだって多いし、雨の時に映画に行くなら、屋内駐車場をグルグルと周り、駐車スペースが運よく開くのを待ってみたりする。
車と共にありぬ、という常に屋根に守られた生活が、私から傘を遠ざけている。
どうやら私は、傘をさすのが下手なようだ。
傘をさすのに、上手も下手もないよ!と思われるかもしれないが、本当に上手な人もいる。スタイリッシュに傘をさし、人とすれ違うタイミングに傘を傾げ、屋内に入る時の傘を閉じるタイミングも最適で、水滴払いゾーンで無駄なく雨を落とし、傘フィルムカバーを丁寧にかけられるビジネスマンを見ると、きっと仕事ができるんだろうなと、惚れ惚れしてしまう。
傘という荷物がひとつ増えると、不器用な私は、「ちょっと待って待って」と、持っていた荷物をあわや地面に置いてしまいそうになる。そうして、優先順位を後回しにした傘を、決まってどこかに傘を忘れてくる。ああ、その頃にはもう晴れているんだけど、ちょっとくらい濡れてもいいやと傘を置いて出かけた時のツケがまわって、後々、風邪を引いたりするのだ。
どこにいても、濡れてもいいわけがない。
どこにいても、傘は自分で自分にささなきゃね。
2024.0501 雨に降られば、(初稿)
※メンシプ記事ですが全文公開としています。
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