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読んだ:オタク成金

ブックオフザッピングにて発見。
こういうのネット書店だとまず見つけられないし手に取れないので、やっぱりまだまだおもしろ発掘はリアル書店には敵わない。

こちらかつてオタク界隈を一斉に風靡した「あかほりさとる」の自伝です。
形としては「オタクのことわからない一般女性がオタクへの偏見ましましに接するけども「やだ……このヒトちょっとかっこいい❤️」みたいな接待モノローグを交えながらインタビューする」という、2023年から見るとうわキツという立て付けです。
まあここ五年くらいで爆裂にジェンダー感というかそのへんアプデしてるししゃあなし。2009年発行です。14年前? そりゃしゃあない。

この女性編集者のキャラデフォルメは完全にスルーして「歴史書」「創作論」として読むと楽しいです。むしろ古すぎて80年代のドラマの喫煙シーンみたいに「この時代はそうだったんだろうね」で流せる。

歴史書としての魅力

本書は「なろう系小説」バブルの前夜に発行されています。
本書の中では「もうオタク文化は終わるだろう」「ラノベはもう売れないだろう」みたいな、終末を語っています。
たしかわたしの記憶では「ログ・ホライズン」を桝田省治が四六判で発行し(目的は学級文庫に置かせるためであり、だから文庫版では難易度が高いと踏んだ)、それが大ヒットしたことでラノベ、ラノベ的なものもみんなこのサイズになって「小説家になろう」黄金時代が始まってたような……と思ってたんですが、いま改めて見るとログホライズンの連載開始が2010年、書籍発行が2011年で、体感的にも一致します。
でもって「オタク成金」で語られるラノベの終末期っぷりが本当に、本当に、ええ。
とはいえ今が終わってないのかといえばそうでもない。
最近こういうのがバズって流れてきたので読みました、わかりやすいしこちらも体感的に一致してる。


さて上記の記事で「いわゆる読書少女をラノベが捨てたことにより少女がみんな児童小説(つばさ文庫とか)に流れた」みたいなことが書かれており、たしかに私の世代でもコバルト文庫が揺籃であり、そこからライトノベルや文芸にスライドしていった印象があります。

そしてその中で「言われてみればあかほり作品、当時のオタク友達の女子もみんな読んでたな」と思い至る。

でもってここで「オタク成金」の話にようやく戻るんですが、さすがにあかほり、そのへんがちゃんと見えてたようで「女に売れないとヒットにはならない」「女性読者がどういうものを求めているのか」もすごい高い解像度でさらっと語っています。
そうそう、あかほり作品の主人公、女性読者から見てもちゃんと魅力的だったんですよね。この「魅力的」っていうのは「最終的にはヒロインを大事にしてくれる感」とも言える。冴羽獠とか諸星あたるとか横島くんとかにも流れる血。

オタク文化とは、みたいな新書を最近いくつか読んではみたんですが、あまり納得できるものに出会えずにいました。その点、2000年代前後を語るあかほりさとるはさすがの一言で、当時トップクリエイターだった作家の回顧録からの本書は、懐かしさもあり「あのころ実はね」という今だからすなおに聞ける裏話とか、そういうのに満ちています。

作品を「商材として語る」創作論としての魅力

本書の魅力のもう一つがこれです。
飲食店で必ず失敗するパターンというのがあって、それは「経営者が料理人であり、自分の味に自信がある人」の場合だそうです。
味がよければ集客できるしリピーターもつくと思い込んで、そして失敗する。
飲食業は職人ではなくサービス業であり、料理の提供ではなく体験の提供をしなければならない、のだとか。

作家にもたぶん同じことがいえて、「俺がかんがえた最高におもしろいものがそのままかければ大ヒットする」が、たぶん、あんまりよくない結果になるパターンです。
本書を読んでいくと、あかほりさとるは作家でも職人でもアーティストでもなくて「商材を自分で作れるタイプの営業」です。
営業職って「商材」が大好きなんですよ、あいつらにとっての「商材」ってTCGにおける強いカードと同じだから。このつえーカードでばりばり売り込んだるって思ってるんですよ。
あかほりさとるは、自分の書いたものを、物語とか愛着のある世界とか作品とか思ってなくて、「楽しい営業をするための商材」として考えてる節があるんですね。
だからテレビの脚本でもドラマCDでも企画でもやるし、良い意味で作品へのこだわりがないからばんばん出せるしそれでいて自信も持ってる。

漫画編集者が原作者にスライドして売れるようになるパターンもたぶんこの傾向があるからかもなのですね、いい意味で「でっかいフローの一部分でしかない」と思えるというか。

あと「営業」なので分析もうまい、男性作家が厭いがちな女性読者の存在もちゃんと見えてて(たぶん購買者のデータちゃんと見てたんだろうなあ)、そりゃ売れますわ……ってなりました。あと男女間のヘイトコントロールとキャラクターのバランスがうますぎる。

ところでそんな彼のオタク原体験がエロゲどっぷりなのがおもしろいところです。
これもうっすらした印象ですけど、アニメにおいろけとかギャル要素とか増えてきたのってあかほり、およびそのへんの時代以降で、それ以前は本当にアニメは「児童向け作品」だったはず。
で、あかほり世代がアニメに持ち込んだそれらは「全年齢向けにしたエロゲのノリ」なんですよね。
今のラノベ、というかウェブ小説界隈がRPG全盛期のコンシューマーゲームのノリを小説で再構築してるのと合わせて考えると面白い話です。

あと「ぐっとくる設定の作り方」みたいなのもめちゃ参考になりました、素人ですけど。

あかほりさとる、最近はホラー漫画の原作と転生勇者ものの原作やってるみたいで「ちゃんと時代と流行りについてってる!!」ってなってます。
新作ちょっと読みたくなってきた。

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