レッド

セックス・暴力・革命 連合赤軍事件で15人はなぜ殺されたのか? 『レッド 1969~1972』


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いじめってどうやったら無くなるのだろうか。逃げる気力さえ奪ってしまう地獄のような同調圧力はどのように生み出されるのだろうか。そんな疑問をもったことはないだろうか。

高砂市教委:6中学の机・いす入札、「いじめ」理由に応札拒否 「同じでないと」

兵庫県高砂市立中学6校の学用机などの入札で、市教委が「同じものでないと、いじめにつながる」として、納入実績のある1メーカー以外の製品を扱う販社の応札を認めなかったことが分かった。

毎日jp(毎日新聞)

正しいかどうかは別として、やった人間の気持ちは理解できる。そんなニュースではないだろうか。悲しいことだが、集団でのいじめがリンチになり、殺人や自殺の原因になることは日本社会では珍しいこととは言えない。ではその同調圧力はどのようにして生まれるのだろうか。そんな疑問にヒントを与えてくれるのが山本直樹の『レッド』だ。山本七平の『空気の研究』とともに、日本社会の同調圧力について考えようとしたときには欠かせないマンガになるだろう。

山本直樹はなぜ連合赤軍の物語『レッド』を描いたのか

山本は「40周年 連合赤軍殉難者追悼の会」で、『レッド』を描き始めるきっかけを語っている。

すごい物語だと思いました。これを漫画で読みたい、僕が読みたいというのが描き始めた最大のモチベーションで、だから僕が読みたいと思ったすごい物語だから、何とか漫画にすれば、ほかの人も面白がってくれるかなということで描き続けています。

とかく難しく考えられ、時代に深い影響を与えた重大な事件として描かれる連合赤軍事件が、ある意味で普遍的な若者たちの青春群像劇になる。『レッド』第一巻のアマゾンのカスタマーレビューに「これは実話なんでしょうか?」と書かれているものがある。連合赤軍事件を知らない世代の感想だと思うが、そういう人が読んでもリアルに感じられる細かいエピソードがたくさん詰まっている。

例えば、シナモンのないドーナツ、味噌が足りない味噌汁にいれた醤油や塩、淹れたてのコーヒーを残して出て行く活動家と残された人間の感情など、ありとあらゆる書籍や関係者の発言に当たった上でこの物語が描かれていることがわかる。不思議なことに、連合赤軍事件を論ずるときに、今まではまったく重視されなかったこうしたディティールによって、この事件の本当の姿が現れてくる。

なぜ連合赤軍事件はわかりにくいのか

連合赤軍事件とは1972年に起きた、山岳アジトでの12人のリンチ殺人事件とあさま山荘に連合赤軍の5名が立てこもり、人質をとって籠城・銃撃戦をして2名の警察官と1名の民間人が殺害された事件の双方をさしている。

あさま山荘事件の犯人が逮捕されてすぐ、連合赤軍がリンチや処刑などで、山に入る前に2名、山に入った後に12名もの仲間を殺したことが分かってきた。団塊の世代は、青春をかけた全共闘運動や安保闘争が、単なる仲間殺しという結末を迎えたことに大きな衝撃をうけた。そして、当時の評論家・作家などが、この事件に重要な意味を与えようとして躍起となる。

全共闘や安保闘争にシンパシーを寄せていた世代にとって、この事件が単なる仲間殺しであっていいわけがない。そうして連合赤軍事件は何かしら深遠な意味をもつ事件として奉られることになった。

それに加えて、事件に関わった登場人物が多く、事件の関係者たちが書いた本には仮名が多く使われ、裁判が続いている中で書かれた本や、判決が確定した後で書かれた本が、一つの事象に多くの解釈を与えるため、全体像をつかむことを非常に難しくしている。

例えば、8巻で薬師(小嶋和子)が殴られている場面の描写だが、永田洋子の『十六の墓標』で、谷川(坂口)と志賀(坂東)が薬師(小嶋和子)を殴っているのを止める場面はこう描かれている。なお、人名が「谷川(坂口)」のように書かれている部分は「劇中でのキャラクター名(そのモデルになった実在の人物名)」となっている。

二人(坂口と坂東)が思いっきり殴ったのを見て驚いてしまった私(永田)は、彼らが四~五回ずつ殴った時、小嶋さんと坂口氏らの間に割って入り、「もういい、もういい」といって坂口氏らに殴るのをやめさせ、金子さんと伊藤さんに殴るように指示した。

一方、兄の加藤能敬を殺された加藤倫教が書いた『連合赤軍少年A』にはこう書かれている。

このとき、小嶋も坂口や坂東に殴られていた。小嶋が悲鳴を上げると、永田は急いで小嶋の方に行き、「小嶋は男に殴られると喜ぶから、女性が殴らなければだめだ」と言って、小嶋の周りにいた女性の同志たちに小嶋を殴るよう指示した。

この場面はレッドではこう描かれている。

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山本直樹『レッド 1969~1972』8巻

山本はどちらが正しく、どちらが間違っているというスタンスでなく、両論がそれほど矛盾なく一つのストーリーになるように状況を組み立てている。これは絵とセリフで状況を表現できるマンガだからこそできることで、これが連合赤軍事件を知るのにまずは『レッド』を読むべきだという理由の一つである。

青春群像劇としての連合赤軍事件

山本直樹はこのように錯綜した情報を、必要なものだけを残して、ていねいにそぎ落とし、事実だけをストーリーの軸にしようとしている。しかもそこからさらに、感情や個人の出自などの情報が削ぎ落とされているせいで、逆に当時の若者がいた「世間」がリアルに伝わってくる。私も連合赤軍事件の書籍をいろいろ読んでいるうちに、共産主義用語が頻出する部分は読み飛ばすようにしていたが、このマンガであれば、そんな面倒くさいことは必要ない。一気に1968年から

「40周年 連合赤軍殉難者追悼の会」では、この「物語」(山本は「事実」ではなく「物語」という言葉を使っている)の「謎」についても語っている。要はなぜあれほどたくさんの人間が死ぬことになったのかという、連合赤軍事件を論じるときに必ず持ち出される「謎」だ。

僕はあえてひねくれて、連合赤軍事件に謎はないという言い方をあえてしたことがあるんですけれども、人間はそういうものだから、という身も蓋もない考え方もどこかにあるんです。だから、こういう人たちがこういうことを起こしてしまったのは、人間というのはそういうものだからという、だから、僕がこれを漫画でそのまま描いていくと、人間の問題、人間と言葉の問題もうまくいけば提示できるんじゃないか。

難しく考えずに、若者たちの希望・情熱・嫉妬・恐怖・猜疑心など、同じ人間として、できるだけシンプルにこの事件を描きたいという意欲が伝わってくる。山本直樹が『レッド』の連載を終えるときには、連合赤軍事件の若者の心の動きを知るために読む本というのは、この『レッド』になるだろう。連合赤軍事件では、調書のような書籍が多くて、なかなかドラマが見えてこなかったが、セリフと表情で表現されるマンガならではの青春群像劇になっている。

『レッド』をもっと面白く読むために知っておいてもらいたいこと

この物語は体裁としては「フィクション」ということになっている。しかし各キャラクターには、明確にモデルになっている実在の人物が存在している。それなので、逆に当時の事件をよく知っている人ほど、「これ誰だっけ?」と気になってサクサク読み進められなくなる。僕もそんな一人だったので、キャラクターごとにモデルになっている人をあげることにする。繰り返すが、あくまで「フィクション」という前提で参考にして欲しい。

亡くなられた方々

赤石 柴野春彦(革命左派)
空木 早岐やす子(革命左派)
五竜 向山茂徳(革命左派)
伊吹 尾崎充男(革命左派)
高千穂 進藤隆三郎(赤軍派)
薬師 小嶋和子(革命左派)
黒部一郎 加藤能敬(革命左派)
天城 遠山美枝子(赤軍派)
磐梯 行方正時(赤軍派)
安達 寺岡恒一(革命左派)
神山 山崎順(赤軍派)
苗場 山本順一(革命左派)
白根 大槻節子(革命左派)
宮浦 金子みちよ(革命左派)
霧島 山田孝(赤軍派)

革命者連盟 (革命左派)

赤城 永田洋子 
谷川 坂口弘
吾妻 吉野雅邦 
筑波 川島豪
岩湧 河北三男 
筑波八重子 川島蓉子
大山 渡辺正則
六甲 若林(石井)功子
和歌山 中島衡平
火打 尾崎康夫
栗駒 瀬木政児
恵那 雪野建作  
荒島 前澤虎義
穂高 京谷健司
仙丈 岩田平治
白山 牧田明三
高妻 杉崎ミサ子
平  中村愛子
唐松 伊藤和子
黒部次郎 加藤倫教
明星 松本志信

赤色軍(赤軍派)

北  森恒夫
志賀 坂東國男
岩木 植垣康博
九重 持原好子
普賢 高田英世
鳥海 青砥幹夫
月山 玉振佐代子
荒船 梅内恒夫
十勝 重信房子
石鎚 塩見孝也

4巻の巻末に「レッドカード」として、実名をメモできる人物カードが付いているので、そこにモデルとなった人物名を書きこんで読むと、いらいらせずに読み進められる。山本直樹の世界に没入するためにも、実名が気になってしまう人は「レッドカード」を利用することをオススメする。(上に実名を挙げた方々は、連合赤軍関連の著作があったり、現在も絶版でない書籍に実名が上がっている方に限った。)

また、「亡くなられた方々」のグループに、山本は1から15のナンバーをふっている。これは、殺された順番を示すものだ。どのコマでも、必ず死亡するキャラクターにはこの番号がふられている。そして、各話の終わりには必ず、「どこで、あと何日後に死亡」というナレーションが入る。この番号があることで、それぞれの人物のその後の運命の理不尽さについて深く考えざるを得ず、日常生活の細かいエピソードが、全て悲劇の序章に変換されてしまう。マンガにおける、一種のイノベーションといえるのではないだろうか。

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山本直樹『レッド 1969~1972』1巻

なぜ処刑・リンチ殺人がおこなわれたか

北(森)と赤城(永田)が会議を行い、北(森)が脱走者やスパイ容疑者は処刑するべきという提案をする場面がある。

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山本直樹『レッド 1969~1972』4巻

実は、赤色軍(赤軍派)も革命者連盟(革命左派)も、この会議の前までは仲間を殺したことはなかった。「武装闘争」を標榜する組織同士が合併を計画する中で、「自分たちこそより戦闘的だ」というアピール合戦が外部ではなく、内部に向かった結果が大量リンチ殺人につながったのではないか。実は、北(森)は自分で処刑を提案しておきながら、赤色軍(赤軍派)では仲間を処刑するつもりは全くなかった。革命者連盟(革命左派)が2名の仲間を殺したことを報告されたときの北(森)の反応がこうなっている。

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山本直樹『レッド 1969~1972』5巻

お互いがより暴力的であろうとして、仲間殺しという負の連鎖を引き起こした。仲間はずれにされたくない子供がいじめをエスカレートさせる姿そのものではないか。ここから「自分のほうがより暴力的」とアピールするため、北(森)と赤城(永田)が極左のポジションを争いながら、それを見せつけるために仲間を殺し続けたのがリンチ殺人の一番大きな要因だったのではないだろうか。これが第一の負のスパイラルだ。

それに加えてもう一つの要因は「武装闘争」をやる組織にもかかわらず、北(森)と赤城(永田)が逃げきりたいと強く思っていたフシがあることだ。自分が逃げきるために、組織から脱走して権力の手に落ちるのではないかと、北(森)と赤城(永田)が疑った仲間たちを次々に殺していく。

『レッド』の荒島のモデルになった前沢虎義の証言

永田は(川島と)違っていた。彼女は組織を残そうとした。彼女は、トップになってから、なんとしてもパクられまいとしていた。

『レッド』の黒部二郎のモデルになった加藤倫教の証言

「逃げるんではないか」と問い詰めている人間(森と永田)じたいが「逃げたい」と思っていた可能性があるということですよね。いわゆる肉弾戦や武装闘争の経験が自分にはないもんだから、当然みんなも恐がっていると思った。

『レッド』の岩木のモデルになった植垣康博の証言

一回逃げた人間(森恒夫)が指導部についたら、ダメなんだよね。疑心暗鬼で人を見てしまうんだろうね。たしかに逃げようと思っただろうと、しつこく追求していったからね

以上全て朝山実『アフター・ザ・レッド』より引用

自分が助かりたいから、相手も逃げて助かろうとしているのではないかと疑心暗鬼になる。ここでも負のスパイラルが強く働いた可能性は高い。

山本直樹自身はリンチ殺人の原因についてこう語っている。

戦争末期の日本軍もオウムもそうだったと思うんですが、あれは「共産主義化」という誰も理解しきれていない言葉が独り歩きし、肉体という実感をなくすから、人が人を殺すことになったんじゃないか

朝山実『アフター・ザ・レッド』より引用

ストーリー中でリンチ殺人が開始され、次第に山本のこうした仮説が作品のなかで姿を現しつつある。日本社会においては、未だに学校や会社などの組織において、「精神的な殺人」が行われることは珍しくない。

この『レッド』は、人の命と自分の命を天秤にかけるような、究極状況での同調圧力を疑似体験するには最適のマンガである。「なぜいじめがおこるのか」「組織に経営理念を浸透させるには」など「組織と言葉と人」について考えるためのいろいろなヒントが詰まっている。日本の組織に属している人、全てにおすすめしたいマンガだ。

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小熊英二『1968』(上)(下)

1968年からはじまる、団塊の世代による新左翼運動、学生運動を社会学的視点で、当時に書かれた文章だけを参照しながら書いた圧巻の現代史ノンフィクション。

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坂口弘『続 あさま山荘』

死刑確定後に書かれ、自己弁護的な記述は少なく、もっとも事実を客観的に語っている印象。(上)(下)(続)とあるが山岳ベースでのリンチ殺人についてはこの(続)に。

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加藤倫教『連合赤軍 少年A』

こちらは兄の加藤能敬をリンチ殺人で失った弟の加藤倫教の著書。自身も未成年でありながらあさま山荘の銃撃戦まで参加し逮捕された。こちらも客観的な情報が多く最初に読むことをオススメする。

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レッドシリーズ第二弾、山岳アジトでのリンチが苛烈化する『レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ』のレビュー「12人がリンチで殺される原因「総括」という言葉はどうやって暴走したか?」はこちらです。

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