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【連載】わたしの読書記録術 ゲスト:朝宮運河

 こんにちは、怪奇幻想ライターの朝宮運河です。といっても「怪奇幻想ライターとはなんぞや?」と思われる方が多いと思いますが、ホラー小説や怪談など「怪奇幻想文学」と総称されるジャンルを専門にしているライターで、その方面の作家さんにインタビューをしたり、書評や文庫解説を書いたり、ブックガイドやアンソロジーを作ったりというのが主な仕事です。

 そんな仕事なので小説は日常的に読みます。読まないと仕事にならない、といった方がいいでしょうか。ラーメン評論家が日本各地のラーメンを食べ歩くように、怪奇幻想ライターは日々ホラー小説や怪談をチェックしておく必要があるのです。となると直面するのが大量に読んだ本の記録問題。ここではわたしが普段実際にやっている方法から、今では時間がなくてやらなくなった方法まで、怪奇幻想ライターのメモ術を公開いたします。基本、アナログでひねりのない方法ばかりですが、参考にしていただけると幸いです。


わたしの読書記録術 ゲスト:朝宮運河

今回紹介する小説『すみせごの贄』

 今回、読書メモを取るのは澤村伊智さんの『すみせごの贄』(角川ホラー文庫)。澤村さんは言わずと知れたホラー小説の旗手で、映画『来る』の原作者としても知られています。『すみせごの贄』は、比嘉琴子・真琴の霊能者姉妹(映画『来る』では松たか子さんと小松菜奈さんが演じていましたね)が活躍する「比嘉姉妹」シリーズの短編集。わたしは2015年刊行のデビュー作『ぼぎわんが、来る』以来、澤村さんの作品をリアルタイムでずっと追いかけてきましたので、この本も読み逃すわけにはいきません。

 まずは何も考えずに読む、読む、読む。わたしは電子書籍をあまり利用せず、購入するのはほぼ100パーセント紙の本です。自宅の仕事部屋でも読みますが、出先のカフェで読んだり、移動中の電車で読んだり。お風呂に浸かっている間も、わたしにとっては貴重な読書タイムです。

 というわけで、湯船に水没させることもなく、数時間かけて『すみせごの贄』を読み終えました。古典怪談にひねりを加えたゴーストストーリーあり(「火曜夕方の客」)、オタクトークが楽しい特撮ホラーあり(「くろがねのわざ」)、さまざまな着想とテクニックが楽しめる充実の短編集です。満足して本を閉じたところで、さっそくメモ取りに入りましょう。

読書記録を書く準備をしよう

 わたしがずっと使っているのは、どこにでもあるB5サイズ36行のルーズリーフ。いろいろなメモ術を試したこともありますが、結局これが一番長続きするという結論に達しました。ルーズリーフには写真のように定規でラインを引き、縦を5つのブロックに、横を3つのブロックに区切っておきます。ここだけちょっと面倒なので、まとめて何枚かラインを引いておくといいでしょう。

読書記録を書こう

 横並びの3つのブロックには、左から〈著者名・タイトル・刊行年・★5点満点の評価〉〈あらすじ〉〈メモ・名場面〉を記入します。ルーズリーフは無印良品の26穴バインダーで綴じています。もちろんノートでもいいのですが、ルーズリーフは増やしたり並べ替えたりが楽ですし、仮に三日坊主で終わっても「こんなに白いページが残ってる」と悲しくなることがないので安心です。

ルーズリーフにラインを引きます。アナログですね

『すみせごの贄』は6編収録。そのすべてを〈あらすじ〉〈メモ・名場面〉欄に書くことはできないので、個人的に気になったものを中心にメモしていきます。この割り切りがとても大切。今の時代、あらすじはネットを検索すれば出てきますし、自分のための記述でOKです。自分がどこを面白いと感じたかのか、それが後から分かるメモにしましょう。わたしは「戸栗魅姫の仕事」という作品に出てくる迷宮のような巨大ホテルの描写や、「とこよだけ」という作品に見られる海外ホラー小説の影響が気になったので、そのあたりを中心にメモしています。こういうメモが、後々ブックガイドやアンソロジーを作る時に、役に立ったりするわけです。

ほかにもこんな記録術も

メモはあくまで自分のために。率直な感想を書いておきます

 実はこのやり方を始めるまでは、律儀にすべての収録作のあらすじを詳細にパソコン内のファイルにメモしていました。大学時代からつけ始めた〈読書ノート〉というファイルは、読み返してみるとかなりの分量があり(一太郎ファイルで243ページ分)、「昔は真面目だったんだなあ」とちょっと感心してしまいます。当時はライターでもなんでもなかったわけなので、ただの趣味だったのでしょう。しかしこのやり方はどうしても時間がかかります。忙しくなるにつれて、徐々にやらなくなってしまいました。パソコンのファイルだとどうしても「わざわざ開く」という感じになるので(昔はスマホもなかったですし)、どこでも気軽に記入できるルーズリーフ式に移行したわけです。

真面目だった頃の一太郎ファイル。気に入った作品に★マークをつけていました

 手元には「ホラーメモ/国内編」「ホラーメモ/海外編」と分類されたルーズリーフが、何十枚もあります。たまにぱらぱらと見返すと、「へえ、こんな本も読んでいたのか」「この本への評価が意外に辛口だな。今ならもうちょっと高い点をつけるな」といった発見があって面白いですよ。くり返しになりますが、読書記録は自分のためにつけるもの。その時々の感想や批評が刻まれたルーズリーフは、積み重なると宝物になります。

蔵書管理も大切

 さてここで現代のデバイス、スマホがやっと登場! 本を購入したら忘れず蔵書管理アプリに登録もします。わたしが使っているのは蔵書マネージャーというアプリで、バーコードを読み込ませたら即登録完。楽ちんです。情けないことにうっかり同じ本を2冊、3冊と買ってしまうことが日常的にあるので(お宝ゲットだぜ、と喜んで帰ってきて、本棚に同じ本を見つけた時の脱力感よ……)、少しでもダブりを減らそうとアプリを導入したわけ。蔵書をすべて登録し終えるまでには、まだ時間がかかりそうですが、この作業が報われる日がきっと訪れるでしょう。

蔵書管理アプリもいろいろあるので、使いやすいものを

 と、こんな感じで、わたしが実践している読書メモのつけ方をお知らせしました。わたしは決して几帳面なタイプではなく、かつまた非常に忘れっぽい人間でもあるので、少しの手間で読んだ本の感想を記録できるこのルーズリーフ式には助けられています。もちろん人それぞれ合っている方法があると思うので、いろいろ気軽に試して、長く続けられるものを見つけてください。Horror!

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