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富士フイルム X-H2S インプレッション:被写体認識AFはZ9より好印象 <家電批評/豊田慶記>

本日(5月31日)富士フイルムがミラーレス一眼「Xシリーズ」の最新モデル「X-H2S」を発表しました。2012年に登場した初号機「X-Pro1」から数えて今年で丁度10年という節目のタイミングに登場したX-H2Sで「Xシリーズ」は第5世代へと進化することになります。製品版手前のベータ機で短期間撮影できたので、そのインプレッションを速報としてお届けします。

検証・テキスト・写真:豊田慶 大手メーカーでカメラ開発に携わった経験をもつ写真家。現在はWebやカメラ誌などで活動中。車とカメラ好き。Twitter:@PhotoYoshik 一部の製品写真:編集部

X-H2Sの外観(撮影:豊田慶記)
もちろん縦位置グリップも用意されています(撮影:編集部)

【概要】イメージセンサーも画像処理エンジンも新開発! 40コマ連写にトレンドの被写体認識AF搭載

X-H2Sの技術的な特徴は新開発の「X-Trans CMOS 5 HS」センサーの搭載と、現行機種に採用されているX-Processor 4比で約2倍の処理性能を実現した画像処理エンジン「X-Processor 5」の採用がハイライト。

イメージセンサーは画素数こそ「X-T4」などの従来機種と同等の約2616万画素を踏襲していますが、メモリ積層構造へと進化したことで読み出し速度は約4倍の高速化を達成しています。
この高速読み出しと高速処理の組み合わせによって最高で40コマ/秒のブラックアウトフリー(連写中に表示がブラックアウトしない)高速連写が可能となった他、40コマ/秒の連写中でもAE/AF追従が可能となり、よりシビアな撮影に対応できるようになっています。

富士フイルム初の被写体検出AFのメニュー画面。従来の瞳認識とは別のメニューになる(撮影:編集部)

その他、被写体検出AFによって、動物・鳥・車・バイク&自転車・飛行機・電車の被写体検出が可能となり、狙った被写体をより簡単かつ正確に追従することができるようになりました。こうした被写体認識AFは他社ではソニー「α1」、キヤノン「EOS R3」、ニコン「Z9」、OMDS「OM-1」などのハイエンドモデルに搭載されていますが、同様のAF機能をXシリーズでも味わう事ができるようになります(OM-1の記事は以下からどうぞ)。

(X-H2/XF16-55mmF2.8 R LM WR/ISO320/F3.2/1/1600秒  撮影:豊田慶記)

6.2Kで10bitの映像も撮影できるなど動画性能も大きく進化

また、動画性能の充実も見逃せないポイントです。6.2K/30pや4K/120pで4:2:2 10bit記録が可能になりました。動画記録時の読み出し速度も1/180秒まで高速化していますので、ローリングシャッター歪みはかなり抑制されています。こうした動画記録性能の向上に対応すべく記録メディアはCFexpress TypeBとSD UHS-IIのデュアルスロットになっています。

長時間の動画撮影でオーナーヒートを防ぐ「FAN-001」を外付け可能(撮影;編集部)
22年4月に発売されたばかりのSIGMAレンズとの組み合わせで(X-H2/SIGMA 56mm F1.4 DC DN | Contemporary/ISO160/F1.6/1250秒  撮影:豊田慶記)
(X-H2/SIGMA 56mm F1.4 DC DN | Contemporary/ISO320/F1.8/1/5400秒  撮影:豊田慶記)

アナログダイヤルの廃止など従来モデル「X-H1」(2018年発売)とは全く違うデザイン

本機は機種名からも分かる通り、X-H1の後継モデルです。しかし、X-H1からの変更点は多岐に渡ります。外観で分かるところでは……

  • 液晶モニター:3軸チルト液晶から動画撮影と相性の良いバリアングル液晶に

  • 右肩のシャッター速度ダイヤル:シャッター速度のアナログダイヤルは廃止され、撮影情報を表示するモノクロ液晶に

  • 左肩のISO感度ダイヤル:一般的なモードダイヤルに変更

パッと見ではわかりにくいですが、前後の電子ダイヤルからは押し込み操作が撤廃されていますし、IBIS(ボディ内手ブレ補正機構)は従来機の最大5.5段の手ブレ補正効果から最大7.0段の補正効果へと大きく進化しています。

また、デバイス性能的には2世代の違いがありますので、特に動画性能やAF性能については比較にならないほどの性能差がありますが、その一方でスチル撮影で楽しむという観点では同じシーンで撮影した写真を見比べて「明らかに違う・・・!」となるシーンはほぼ無いという現実もあります。それだけX-H1の時点でスチル性能は十分に成熟していた、ということでもあります。

Xシリーズといえばアナログダイヤルを多用した操作系だったがX-H2Sではモードダイヤル主体のいわばふつうの操作系になった(撮影:豊田慶記)

【実写インプレ】画質もAFも好印象! 何よりEVFと液晶モニターの品質アップが嬉しい

早速ではありますが、X-H2Sを試用することができました。ただし、今回テストした個体は製品版やそれに準ずる仕上がりのバージョンではなく、今回はベータ機(開発中のボディ)となりますので、製品版とは印象や画質性能などが異なる場合がありますので、あくまでも参考程度、と捉えてください

気分が良くなるEVFや液晶モニター

筆者はX-H1ユーザーですので、使用感の違いは気になるところでした。実際にX-H2Sに触れてみて最も関心したのは、より高精細かつ高クオリティの表示となったEVFと液晶モニターです。

表示系というのはユーザーエクスペリエンスに大きな影響を与えます。キレイな表示を見ていると撮影時にはよりよいレンズを使っているような気持ちになりますし、液晶モニターで撮影画像を眺めていると写真が上手くなったような気持ちにもなります。つまり使っていて気分が良いです。

iPhoneで撮影したEVF内の表示。iPhoneで撮影したため歪んでいますが実際は歪んでいません(撮影:編集部)

またX-H1に限らずXシリーズはEVFの表示と液晶モニターの表示と実際の画像をPCでチェックした際の乖離が大きいという嬉しくない特徴がありましたが、その乖離が随分と小さくなったように感じました。

懸案の3軸チルト液晶とバリアングル液晶の違いについては、筆者はバリアングルがあまり好きではないので関心しませんでした。バリアングル液晶が好みではない理由として、開いた状態では微妙なフレーミングが一気に難しくなるからです。この点でX-H1などに採用されている3軸チルトタイプは快適です。とは言え慣れの問題もあり我慢できないほどではありません。

ローアングルなどモニターを展開する場面ではX-H1ユーザーは慣れが必要そう(X-H2/SIGMA 56mm F1.4 DC DN | Contemporary/ISO320/F4.5/1/500秒  撮影:豊田慶記)

Z9より快適では?と感じるほどの被写体認識AF

AF性能は2世代の違いがありますので、控え目に言って別モノでした。まだベータ版のファームとは言え、被写体認識性能は中々のレベルにあり、筆者がテストした限りにおいてはニコンのZ9よりも誤検出が少なく追従性も悪くないように感じました。また唐突に何もないところへAFがスッ飛んでしまうなどのキマグレも簡単なチェック撮影では見かけませんでした。しっかりとテストした場合に印象が変わる可能性はありますが、現時点でポテンシャルは高そうだという印象です。

スナップシーンでもより細かい被写体への検出力が改善していますので、使いこなしのコツのようなものも必要ないように思います。総じてこのレベルのAFであればレースなどの動体撮影でも大きなストレスなく撮影に望めそうです。

鳩の解像感を拡大してチェックしてみてほしい(X-H2/XF16-55mmF2.8 R LM WR/ISO320/F7.1/1/1600秒  撮影:豊田慶記)

シャッターのフィーリングについては、好みの差もありますが筆者はX-H1のフェザータッチシャッターを好ましく感じる一方で、レリーズボタン回りの質感がX-H2Sでは大きく向上していました。

ちゃんと公称値通りの効果を感じる手ブレ補正
効果が高くなったIBIS(ボディ内手ブレ補正・in-body image stabilization )についても体感出来ました。X-H1でもかなり強力な補正効果を持っていると贔屓目なく思っていますが、それと比べても明確に安定感が増しています。パッとフレーミングした際の安定感が良く構図を決めるのが簡単なので、やはり写真が上手くなったように感じられました。

メーカーによっては手ブレ補正の公称値から期待する効果を得られないということもありますが、本機は公称値通りの効果があるように感じました。最強格であるキヤノン「EOS R3」や「R5/6」やOMDS「OM-1」と比べると流石に劣るシーンはあるように思いますが、あちらの効果が異常なだけでX-H2SのIBISは十分以上に強力で見劣りのしないものです。

画素数は同じなのに解像感やクリアさが向上した印象

撮影した写真を見ていますと、従来機よりもわずかに解像感が高く、微妙にクリアな印象になったような気がします。画像設計の思想的には変わっていないようですが、センサーとエンジンが刷新されているので、同じ名称のフイルムシミュレーションであってもデバイスの違いによる表情の微妙な違いがどうしても発生してしまいます。こうしたことは世代が変わる毎にありますので、例えば「初代のフイルムシミュレーション:Velviaが好きだった」のような事があり、同じメーカーの製品の場合 “最新カメラが必ずしも自身にとって最良のカメラである” とは行かないのがデジタル世代の面白いところかも知れません。

(X-H2/XF16-55mmF2.8 R LM WR/ISO320/F2.8/1/800秒  撮影:豊田慶記)
(X-H2/XF16-55mmF2.8 R LM WR/ISO320/F4.5/1/480秒  撮影:豊田慶記)

【まとめ】すこぶる良い! でもスナップ派には高すぎるかな

総じてX-H2Sには良い印象しかなく、AF性能や高速性以外にも、撮影した写真を眺めていて「X-H1と比べて表現力が増したのでは?」と感じるシーンもあり、正直なところ買い替え、もしくは買い増ししたいという気持ちが支配的です。しかもGFXシリーズ(センサーサイズが44 x 33 mmフォーマット)にしか採用されていなかったフイルムシミュレーション「ノスタルジックネガ」をXシリーズとしては初めて楽しむことができます。

しかし筆者にとって最大の障壁となるのが価格です。国内価格は未発表ですがボディだけで2499ドルなので約32万円とご立派なプライスタグとなっています。無論、内容を考えれば妥当などころか、動画性能の充実などを考慮するとかなりリーズナブルだと評価することが出来ますが、個人的にはココまでの性能を必要とはしていません。

例えば職業柄、ニコンZ9やキヤノンEOS R3などの最新機種に触れる機会もそれなりにありますが、それでもなおX-H1に満足しているという現実があります。

もちろん動画性能を重視するユーザーであれば例えばX-T4からX-H2Sへの買い替えは有意義なものになりそうですが、スチル派の筆者がX-H1からX-H2Sに乗り換えることは必ずしも有意義では無さそうです。

ノスタルジックネガの例(撮影:豊田慶記)
同じ写真をプロビアで出力した例(撮影:豊田慶記)
(X-H2/SIGMA 56mm F1.4 DC DN | Contemporary/ISO320/F3.2/1/900秒  撮影:豊田慶記)

オススメユーザー

  • Xシリーズ(APS-Cミラーレス機)で本格的な動体撮影を楽しみたいユーザ

  • 動画性能を重視するユーザー

  • ブラックアウトフリー連写と被写体認識AFに興味のあるユーザー

見送った方がよさそうなユーザー

  • スチルメインのユーザー

  • X-T30などのコンパクトなボディが好きなユーザー

同時発表の「 XF18-120mmF4 LM PZ WR」。電動ズームを採用した動画向けのレンズ

ライバルかつ断然安いキヤノンの新製品「EOS R7」の存在

この他にも気になるのがキヤノン「EOS R7」の存在です。X-H2Sと比べて約10万円リーズナブルでありながら4K60pの動画記録やメカシャッターで15コマ/秒、電子シャッターで最高30コマ/秒という高速性を持っていますし、EOS R3/R5/R6と同等の最大約8段という非常に強力なボディ内手ブレ補正機構を備えています。
たしかにX-H2Sのように超高速連写やブラックアウトフリーの超高速連写や4K60p以上の動画記録への対応といった最先端の性能はR7は持っていませんが、必要にして十分以上の申し分ない素晴らしい撮影性能であることには間違いありません。

30コマ秒の連写ができるEOS R7 実売価格は19万7780円(ボディ)

両者をシステムで考えた際、レンズラインナップが潤沢なのはXシリーズです。APS-C専用設計なので比較的安価でコンパクトに収まるという利点もあります。一方のR7の場合、現状で専用レンズは2本しか無く、それ以外はフルサイズ用のレンズを利用することになりますので、APS-C機で十分だと考えている人にとっては無駄な出費でより大きなレンズを購入することになります。とは言え、フルサイズ機のサブとしてR7を選ぶのであれば、レンズ問題はそれほど大きな懸念とはなりません。これから写真を始める人にとっては少し価格とサイズのハードルが高い、という意味です。

X-H2Sと同時発表された超望遠ズーム「XF150-600mm F5.6-8 R LM OIS WR」(撮影:編集部)
XF150-600mm F5.6-8 R LM OIS WRは1.6kg(三脚座なし状態)。フルサイズ用の150-600mmと比べて軽量に感じます(撮影:編集部)

撮影性能でどちらかを選ぶ場合は4K60p以上の動画記録の必要性とブラックアウトフリーの高速連写の必要性の2点。その他では富士フイルムの絵作りであるフイルムシミュレーションを楽しみたい人であればXシリーズを検討するのが良いでしょう。また撮影可能になるまでのコストという点ではEOS R7がリーズナブルなので、同じ予算であればR7にアドバンテージがありますが、上述の通り、レンズシステムを構築する場合にはコスト問題は一転してX-H2Sにアドバンテージが生まれます。

何となく高性能なカメラが欲しい場合はスペックやYoutubeなどのインプレを眺めるのではなく実際に触れてみてピンと来たほうを選ぶのが得策です。スペックには現れないカメラそのものの作りの違いというものがあり、こればかりは触れてみないことには分からないからです。また経験上、キヤノンのカメラは簡単キレイの性能が突出していますので、誰でも簡単に高度な撮影を楽しめるのはR7だと推測されます。Xシリーズは若干クセがあり、経験者向けのカメラという評価をしています。

画素数の多いR7の方が画質が良い?と思うかも知れませんが、画素数だけで画質を語ることは出来ません。同じ面積で画素数が多いということは1画素辺りの面積は小さくなりますので、それだけ1画素が受け取る光の量は少なくなり、高感度設定時等では特にノイズ性能的に不利に働きます。実際にそれぞれ同等スペックの現行機種であるEOS M6 Mark II(32.5MP)とX-T4(26MP)を比べた場合ではX-T4の方が高感度画質では明確に優れています。

EOS R7が合っているユーザー

  • キヤノンの色味が好きなユーザー

  • 将来的にフルサイズ機が欲しいユーザー

  • 簡単キレイを重視するユーザー

X-H2Sが合っているユーザー

  • ハイクオリティな動画記録を重視するユーザー

  • ブラックアウトフリーの高速連写が必須のユーザー

  • フジの絵作りが好きなユーザー

(X-H2/SIGMA 56mm F1.4 DC DN | Contemporary/ISO200/F1.4/1/1600秒  撮影:豊田慶記)





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