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一時保護所での活動「ポル」を振り返る


「早く家に帰りたいなぁ…」

 カコタムが行う一時保護所での学習支援「ポル」。そこで関わる子どもからは、時にこんな言葉が聞かれます。いつ家に帰るのか、帰るかどうか自体も分からない不安定な状況にいる子どもと学習するということを振り返って考えます。

「ポル」とは

 カコタムの職員ちーちゃんです。職員として働き始め、毎日参加している活動が一時保護所での学習支援「ポル」です。
 伺っているのは、社会福祉法人扶桑苑が運営している一時保護所です。一軒家で、子ども最大6人に対して2〜3名の職員さんが関わっており、職員さんと子どもが一緒にご飯を食べたりゲームをしたり暖かい環境がつくられています。施設にいる子どもは小学生から高校生までの男子で、一時保護期間の数日〜数か月をここで過ごします。春から子どもが1人もいなかったことはなく、空きがあるとすぐに新たな子どもが入所しています。カコタムでは、日々入れ替わる子どもそれぞれと関係を築き、一時保護中であっても学習の機会が失われないことを目指して活動しています。

 施設での学習時間は1日90分。カコタムメンバーが基本的に子どもと1対1で学習をします。その子の進度に合わせて教材を用意し、時間や学習する教科も子どもの希望を聞きながら進めます。
 1対1での関わりを大切にしているのは、子どもが安心して学習に取り組める環境を作るためです。一時保護以前から不登校、授業についていけない状況にあった子も多く、他の子どもに答えを間違っている姿を見られることをとても嫌がる場合があります。また子どもが、自分の気持ちや好きなことを思いっきり話せる場を作るためにも、個別での関わりが重要だと考えています。実際、他の子から離れて1対1で子どもと向き合う時には、子どもから自分のこと、家族のこと、気持ちが語られる場面もあり、子どもが安心して過ごす場を作る上で欠かせないと感じています。
 子どもの中には、先が見えない不安定さから気持ちが落ち着かなかったり、学習への意欲が持てなかったりする様子も見られます。さらに一時保護所で学習する時間は、長くて数か月ととても短期間です。この短い期間の学習を、どうしたら子どもにとって意味のある時間にできるかとても難しさを感じます。試行錯誤の中ですが、ポルでの学習を通して「変化」を見せてくれた子どももいました。

「ここに来て初めて英語できた」

 中学生のA君は、中学入学後ほどなくして学校に行かなくなり、ポルで出会った当初はYou の意味が分からない状態でした。ワークを一から解き進め、理解度が低い範囲は繰り返し学習しました。本人の学習意欲自体は高くなく、いつもだるそうに学習していました。またすぐに「分からん!」と投げ出す場面も多く、学習への自信のなさがうかがえました。一方で「自分は中学に行ってなかったから、ここで中学の勉強をしたい」と話すこともあり、学習の遅れへの焦りも感じられました。
 そんなA君とポルで学習し始めて2か月ほどのころ、これまで学習したプリントの束を見ながらポツリと「おれ、ここに来て初めて英語できるようになったな〜」とつぶやきました。

 ポルで関わる子に共通するのは、学習経験の乏しさです。家庭の事情、本人の特性などの理由で学校に行けていない、行っていても授業が理解できない。また家庭で十分に学習に取り組める環境になかった様子もうかがえます。これまで学校に行っておらず英語は無理だと語っていたA君にとっても、毎日ポルで学習を続け、理解できる単語や文法が増えたことが、「初めてできた」という小さな成功体験につながったように感じました。
 A君は一時保護後も、「カコタムの人と勉強したい」と学習利用を希望してくれています。

ポルができることは何だろう

 ポルでの関りはあくまで一時的です。どれだけ関係構築に努めても、子どもの退所によって関わりは突然に終了します。ポルの役割は、学習を子どもにとって少しでもポジティブな経験とし、一時保護のその後につなげることだと考えています。
 4月からこれまで関わっていた子の中でも、児童養護施設や自立援助ホームに入所した子の学習利用が少しずつ始まっています。団体として新たに行っている活動につながるケースもあり、団体全体として活動が充実することが一時保護後の子どもにとっても利用しやすさにつながると感じています。

 活動名「ポル」の由来はPOL=Perch of Learning:学びの止まり木。
「一時的な期間ではあるけど、次のステップへとつながる(飛んでいける)学びとなるように」と名づけられています。
 過酷な経験を経て、久々の家庭や学校で、場合によっては全く新しい環境で踏ん張っていかなければいけない子どもが、少しでも自信をもって次のステップに進めるように。これからも子ども一人一人に寄り添った関わりを模索していきます。


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