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価値観っていつどのように作られるの?【看護師の職場選びに役に立つ情報】

こんにちは、原です。前回は平山さんの「看護師向けのメンタルヘルスサービスを考えて、結局やめてしまった話」をお伝えしました。私も後からチームに加わったメンバーの1人ですが、看護師さんが生き生きと働くにはどうしたらいいのかと、チーム一丸となって日々奮闘しています。まだ前回の記事を読んでいない方は、私たちの活動の根源ともなる記事ですので、ぜひ読んでみてください。


価値観ってなに?(前回の復習)

今回の記事は、価値観についての解説シリーズに戻ります。「価値観ってなに?私たちの行動の基準となるもの」の記事では、価値観がそもそもどのようなものかについて、以下のようにまとめていました。

つまり価値観は、「信念から構成され、持続的な性質を持つ概念」であるため、人の中で価値観が作られるとなかなか変えられないものです。また、「態度や行動の動機づけとなる基準となるもの」なので、人が無意識にとっている態度や行動は、その人が重視している価値観の表れでもあるのです。そして、「個人の中で優先順位があるもの」なので、人によってどんな価値観を重視しているかが違います。

第2回記事より

価値観のまとめの中で「人の中で価値観が作られるとなかなか変えられない」と書きましたが、今回の記事では、まず、価値観がいつどのように人の中で作られていくのかについて解説していきたいと思います。

価値観が作られるまで

自分自身の価値観がどのように作られていて、今後変化するかどうかについて知ることで、職場選びを行う時に、自分の価値観を知り、その価値観を大切にして職場選びを行うことが必要だ、と感じてもらえたらいいなと思い、今回の記事を書いています。

価値観はいつ、どのように作られるの?

価値観の構造とその優先順位は、子供が大人になる社会化のプロセスとして、国の文化や学校教育など、様々な環境からの影響を受けますが、特に両親からの影響(Maccoby 1992)を強く受けながら形成されることが分かっています(Schönpflug 2008)。また、近年では「遺伝的要素」も価値観の形成に影響を及ぼすことが明らかにされてきました(Knafo & Spinath、2011 ; Uzefovsky、Döring、&Knafo、2015)。

そして、小学生の間に価値観の構造がおおむね形成されることが明らかになっています。例えば、7歳から11歳の子供を対象とした追跡研究(Cieciuch et al.2016)では、10種類の価値観における低次の次元では一部構造が形成されていなかったものの、高次の4次元のレベルではすでに大人と同じくらい安定した価値観構造が形成されていることを明らかにしました。

価値観の優先順位

しかし、価値観の優先順位はまだ安定しておらず、7歳から11歳にかけて価値観の優先順位は入れ替わるようです。高校生や大学生を対象とした調査(Bardi et al,2009)では、すでに成人と同程度まで優先順位の安定性が高まっていることを明らかにされています。

6歳以下の子供と、日本における中学生にあたる年齢の子供を対象にした研究は見当たりませんが、これらの研究から、小学校の間にはすでに大人とおおむね同様の価値観の大枠が形成されており、その優先順位は、環境(特に両親)と遺伝的要素から影響を受け、優先順位を入れ替えながら徐々に安定化に向かい、高校生ころには成人とおおむね同程度まで価値観の優先順位が安定すると言えます。

価値観の構造~10種類の価値観~

ここで「10種類の価値観」「低次の次元」「高次の4次元」と出てきたので、研究に明らかになっている価値観の構造についても触れておきたいと思います。
以下が、Schwartz(1992,1994)における10種類の価値観の種類と定義です。

①権勢(Power)
自分の社会的権力,名声,他者やリソースを支配することの重視
②達成(Achievement)
向上心や,自分の能力を示すことによる個人的な成功の重視
③快楽(Hedonism)
自分自身の喜び,快楽,満足の重視
④刺激(Stimulation)
刺激的な体験,新しさ,挑戦の重視
⑤自主独往(Self-direction)
自由,好奇心,自分自身の独立した思考や行動の重視
⑥普遍(Universalism)
全ての人間の幸福,平和な世界,自然に対する理解,感謝,保護の重視
⑦慈悲(Benevolence)
自分と関係する人間の幸福,誠実,責任感の重視
⑧伝統(Tradition)
伝統的な文化,風習,宗教が示す考え方を尊重すること
⑨調和(Conformity)
礼儀正しさ,従順を重視し,他者を傷つける行為や社会の規範を犯す行動の抑制
⑩安全(Security)
社会秩序,他者との関係,自己の安全,安定の重視

訳は「柏木. リーダーの成長と価値観に関する定性的研究-価値観の止揚的融合-. 経営行動科学第22巻第1号, 2009, 35-46.」を参考にしています

これら10個の価値観は環状構造を持つことが明らかになっています。
下の図は、価値観の構造です。

Leijen I, van Herk H. Health and Culture: The Association between Healthcare Preferences for Non-Acute Conditions, Human Values and Social Norms. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021; 18(23):12808. https://doi.org/10.3390/ijerph182312808 より転載(cc by 4.0)

10個の価値観がこの図のように環状構造になっており、さらに2~3の価値観をまとめた、4つの高次の次元があるとされています。ちなみに、Openness to changeは変化への開放性、Self-transcendenceは自己超越、Conservationは保存、Self-enhancementは自己増進と訳されています。

ちょっと難しい言葉が並んでいますが、簡単に表現すると、変化への開放性は、「恐れずに新しいことに挑戦する」という価値観を示しています。
自己超越は「人々や社会に貢献することを大事にする」価値観を示しています。保存は「安全、伝統、ルールを大事にする」価値観を示しています。最後に自己増進は「権力や他の人への影響力」の価値観を示しています。
価値観にもいろんな側面があり、本当に興味深いです。

価値観の作られ方 まとめ

今回の記事では、この価値観の構造と優先順位が、いつどのように形作られるのかについて紹介しました。
簡単にまとめると、小学生の間には4つの高次の次元から形作られ、高校生くらいまでには低次の10個の価値観も形成されて優先順位が安定します。価値観は様々な要因から影響を受けますが、特に両親の影響と遺伝による影響が大きいとされています。

皆さんはどのような価値観を重視していますか? 
価値観の優先順位は、国の文化や性別などによって傾向があるとされていますので、こちらもいつかご紹介したいと思います。看護師さんも様々な価値観を持っている方がいらっしゃいます。皆さんが生まれ育ってきた中で形作られてきた価値観を、それぞれ尊重しながら、皆で楽しく働けるようになったらいいなと、私たちは願っています。

最後までお読みいただきありがとうございました!
次回は、価値観が形作られた後、どのように変化するのかについて解説したいと思います。

引用文献 掲載順
1.Maccoby, E. E. (1992). The Role of Parents in the Socialization of Children. Developmental Psychology, 28(6), 1006–1017.
2.Schönpflug, U. (Ed.). (2008). Cultural Transmission: Psychological, Developmental, Social, and Methodological Aspects (Culture and Psychology). Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/CBO9780511804670
3.Knafo, A. & Spinath, F. M. (2011). Genetic and Environmental Influences on Girls' and Boys' Gender-Typed and Gender-Neutral Values. Developmental Psychology, 47(3), 726–731. doi: 10.1037/a0021910.
4.Uzefovsky, F. , Döring, A. K. and Knafo‐Noam, A. (2016), Values in Middle Childhood: Social and Genetic Contributions. Soc. Dev., 25: 482-502. doi:10.1111/sode.12155
5.Cieciuch, J. , Davidov, E. and Algesheimer, R. (2016), The Stability and Change of Value Structure and Priorities in Childhood: A Longitudinal Study. Soc. Dev., 25: 503-527. doi:10.1111/sode.12147
6.Bardi, A. , Lee, J. A. , Hofmann-Towfigh, N. & Soutar, G. (2009). The Structure of Intraindividual Value Change. Journal of Personality and Social Psychology, 97(5), 913–929.

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