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時間が経つと過去の意味は変わる。これが私が「感情の記憶」を嫌っている理由の一つだ。

演技理論「サンフォード・マイズナー・オン・アクティング」の概念のひとつで、画像に映っている単行本『こんな雨の日に』の引用の中でも、特にこころに引っかかったフレーズです。
マイズナーが嫌う「感情の記憶」による「メッソド演技法」に関して是枝監督は、

― 記憶とは、固定化された化石のようなものではなくもっと動的なものだと思う。  “リメンバリング”という行為によって動的にそのつど立ち上がって来るものが記憶である。メソッドという方法は過去を静的に捉え過ぎていると僕も思う。―

メソッド演技法はリー・ストラスバーグによる。役者自身の経験、感情を意識的に活用する演技法とでも言えばいいのか...

この本はジュリエット・ビノシュと是枝監督の交流の中で企画された映画「真実」のオールフランス撮影の制作日誌、画コンテ、是枝監督撮影の写真など、うれしい限りの構成で, ~映画「真実」をめぐるいくつかのこと~ という副題が添えられています。

最初に白状しておきます。                            いまだに映画を観ることができていません。ぼくが観たのはBSのドキュメンタリー。是枝監督の撮影奮闘記というか、大女優に振り回され、そのことを楽しんだりしながら、徐々にお互いを理解し、役者、スタッフ、みんなが映画の完成へと向かっていく映像、つまり本書の映像版で、~映画「真実」をめぐるいくつかのこと~ なのです。

白状しておいて、えらそうに記しますが、映画「真実」はカトリーヌ・ドヌーブ演じる大物女優、ファビエンヌ・ダジュヴィル、まあドヌーブのような女優ですね、その女優の自叙伝出版を記念して集まるひとびと、死んだことになっている元夫や、まったく記述のない秘書、そしてジュリエット・ビノシュが演じる疎遠になっていた娘たちが、「私は女優だから本当のことは言わない」と嘯くファビエンヌの確信犯的自叙伝に憤慨させられたり、悲しんだりした挙句、お互いにとっての“真実”「感情の記憶」の奥底から掘り出そうとするお話です。

本書に出てくるフランス人プロデューサー、撮影スタッフ、まあ、ひと癖、ふた癖どころではありませんが、裏返してみれば自分の仕事に絶対的な自信と矜持を持っていて、ぼくはとても好ましく感じました。

そして、カトリーヌ・ドヌーブ
彼女こそ、プロフェッショナルな俳優、映画人の最たるひと。
カトリーヌ・ドヌーブは、いつの時代もカトリーヌ・ドヌーブであり続けているようです。

小さくて、ほとんど波風のたたないサークルの中のお話、映画「真実」。
是枝監督は、試写を樹木希林さんに観せたかったようですが、ついにかなわず仕舞い。

DVDや配信ではなく、映画館でじっくり観たいのですが、いまのところぼくに打つ手なし。

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