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【年刊連載】短編小説 土管のヒューム 第一話(再)

俺は土管。

土木の専門家たちはヒューム管と呼ぶ。

だからヒュームが俺の名前さ。


俺たちが地球に生まれ落ちたのは、もう50年以上昔。

俺たちというのは、俺と兄さんと姉さんだ。

3人で郊外の空き地の片隅にね。


上に乗ってるのが幼き日の俺、ヒューム。

左下が兄さんで、右下が姉さんだ。

3人とも若いよなあ。



この頃の俺には、これといった夢などなかったさ。

空き地で遊ぶ子供たちを見てるだけで幸せだった。

カツオ君たちはよく野球をしに来ていたなあ。

ジャイアン君にはリサイタルのステージにされた。

ハハッ。もちろん土足でだよ。

兄さんや姉さんは、小さな子供たちの通り道になってたっけ。

どれもこれも懐かしい思い出だ。


でも、そんな幸せな日々も長くは続かなかった。

当時はトイレ水洗化の下水道工事まっさかり。

兄さんと姉さんはいち早く行き先が見つかって、空き地を去って行った。

やがて空き地には鉄線が張られ、子供たちも遊びにこなくなった。

大人たちが言うには、危険なんだそうだ。

俺はたった1人になった。



寂しかったかって?

そりゃ、少しはね。

でもしばらくすると、子供たちの代わりに小鳥や埴輪が遊びに来てくれたよ。

犬や猫が雨宿りしてくれることもあった。

寂しさを紛らわせるには十分だったさ。



ある日、そんな俺にもいよいよ出番が回ってきた。

うれしかったなあ。

これからは世のため人のためになれるんだって。

住宅街の地中に埋められてからは、そりゃ一生懸命働いたよ。

365日。きれい、汚いなんて言ってられない。

ゲリラ豪雨なんかで、十分に役目を果たせなかったときには、自分の無力さを恥じたものさ。


そんな俺も今年でお役ゴメンだ。

ヒューム管の耐久年数はちょうど50年なんだ。


もうすぐ俺は、ペルセウス座近くで無数の星屑に戻る。

毎年夏には、流れ星として君たちの前に現れるさ。

もし見つけられたなら、ヒュームって呼びかけてくれよな。



明日 続編公開













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