異語り　020　結婚記念日　妻より

コトガタリ　020　ケッコンキネンビ　ツマヨリ

扉がノックされ、笑顔の夫が顔を出した。
手には花とケーキの箱
「ああ、やっぱり」
心の中でそう呟くと、自分の口角が上がるのがわかった。

「また、今年もこんな感じになっちゃったね」
そう笑いかけると、夫はちょっと眩しそうな顔をしながら慣れた手つきでテーブルの上に紙皿とケーキを並べていく。
小さなホールケーキにロウソクが6本
チョコのプレートには　6周年♡　と書いてある

最初はマグカップだった

投げつけられたカップの当たりどころが悪く、私は意識を失い気が付けば病院のベッドの上にいた。
頭への衝撃のせいでその前の半年ほどの記憶が混乱し、喧嘩していたことを忘れてしまっていた。
よくわからないまま新婚よろしくな笑顔を向けると
以来、夫はかいがいしく私の世話を焼き、言うことも素直に聞いてくれるようになった

でもそれも長くは続かなかった。
だいたい半年もすると、モラハラじみた発言が増え、私ないがしろにし始める。

1年目と同じように、結婚記念日の3日前に再び激しい喧嘩になった。

今度は辞書が飛んできた。

私はわざとそれに当たり、また運ばれてやった。

その次の年はヘルメット
そのまた次の年は目覚まし時計
そしてその次の年は投げずに電気ポットで直接殴りかかってきた。

そして今年はフライパン。

投げられたものなら、うまくかわして当たったふりもできるようになったけど、直接攻撃は正直きつい

なるべく凶器になりそうな物は家に置かないようにしていたけれど、本当に最近は見境無くなってきてる気がする。

夫は6年前より15キロぐらい重くなった。
今年の健康診断では再検査の紙が来てたのも知ってる。
でもどうせ面倒くさがって再検査にも行かないはずだ。
放っておいても勝手に自滅してくれると思うけど、そろそろ手を打った方がいいかな？
トロトロしてるとこっちの身が危ない気がする。

やっぱり素直に何でも聞いてくれる半年が勝負だね。
さてと、退院したらご馳走いっぱい作ってあげなきゃ

結婚記念日　夫より