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【企業分析】ナイキ(Nike Inc.)

NKE(NYSE)
時価総額:1,942億ドル
株価:123ドル
売上高:445億ドル
営業利益:▲69億ドル
(2021年)

事業内容: スポーツ用の靴やアパレルの製造・販売
設立年:1964年、上場
本社: 米国オレゴン州
代表者: フィル・H・ナイト(取締役会会長)、マーク・G・パーカー(最高経営責任者兼代表取締役)
従業員数: 75,400人
主要株主: フィル・H・ナイト 37.7%、オークヒル・インベストメント・マネジメント・エルピー 5.6%

概要

ナイキ(Nike, Inc.)は、スポーツ関連の靴、アパレル、機器、アクセサリー、サービスの設計、開発、製造、世界的なマーケティングと販売を行うアメリカ合衆国の多国籍企業。本社はオレゴン州ビーバートン近郊、ポートランド都市圏にある。世界最大のアスレチックシューズとアパレルのサプライヤーであり、スポーツ用品の大手メーカー。

社名の由来は、同社社員のジェフ・ジョンソンが夢で見たギリシャ神話の勝利の女神「ニーケー (Nike)」から。

プロダクト・ビジネスモデル

ナイキはご存知の通り、スポーツ用品を製造・販売し、収益をあげています。

2017年の決算資料によると、ナイキグループ全体の収益はおよそ340億ドル(約3652億円)、最も収益をあげているフットウェア事業は約210億ドル(約2255億円)、続くアパレルは96億ドル、そしてコンバースブランドでの収益が20億ドルでした。

フットウェアでは主に卸売業者を通じた売上が大きく、世界中にナイキブランドを広めています。
2017年のデータによると、収益の60%はフォットウェアが占め、28%がアパレル、その他はスポーツ用品やコンバースブランドが占めています。

チャネル別の売上を見てみると、卸売業者(日本でいうABCマートなど)への売上が全体の72%を占め、収益は230億ドルとなっています。
消費者への直販からの収益は約90億ドルで、グローバルブランドディビジョン(ナイキブランドのライセンス事業)からの収益が全体の0.3%の7300万ドルです。

地域別売上では、北米が圧倒的に多く、全体の15%である150億ドル、続いて西ヨーロッパが60億ドル、その後に中国、新興国、中央ヨーロッパ、日本と続きます。

そんなナイキの成功の秘訣は、需要を創造する能力にあるのです。
このことを裏付ける2017年のデータによると、ナイキは33億ドル、日本円で約3540億円もの金額を需要創造(Demand creation)に費やしています。

(出典:FourWeekMBA.com, https://fourweekmba.com/nike-business-model/)

では、もう少し細かくビジネスの中身を見てみましょう

ナイキのビジネスモデル:商品

ナイキの商品は9つのキーカテゴリーに分かれています。

ランニング
NIKEバスケットボール
The Jordan Brand
サッカー
メンズトレーニング
ウィメンズトレーニング
アクションスポーツ
スポーツウェア
ゴルフ

メンズトレーニングにはバスケットボールやアメフト商品も含まれています。

また、ナイキはキッズ商品や他のスポーツ(ラクロス、テニス、バレーボール)、その他アウトドアアクティビティー用の商品も取り揃えています。
特に売上が大きいのはランニングとThe Jordan Brand、メンズトレーニングウェアです。

ナイキのビジネスモデル:流通と生産

ナイキはアメリカのテネシー州にあるメンフィスという都市に6つの主要な流通センターを持っています。

そのうち2つは自社で所有し、残り4つは契約で借りています。

製造に関しては、15カ国におよそ127のフットウェア工場を有し、一番大きな工場ではナイキブランドのフットウェア商品の約8%を製造しています。
ナイキのフットウェアの全商品はアメリカ以外の国で生産され、工場はナイキと契約を結ぶ独立した製造業者が請負っているそうです。
2017年にはベトナムで46%、中国で27%、インドネシアで21%のフットウェアが生産されました。

ナイキの成功の秘訣:需要創造モデル

冒頭で紹介したようにナイキのビジネスモデルで最も重要であり、成功の秘訣は人々の需要を創り出す仕組みにあります。

上記の表は、ナイキが需要創造にどれだけの費用を費やしているかを表しています。

2017年には約33億ドル(3540億円)をも需要創造のために支出しています。

需要創造支出の中身は、広告やプロモーションの費用、具体的にはスポーツ選手とのエンドースメント契約(スポンサー契約)やテレビ、デジタル、紙媒体の広告、ブランドのイベントなどとなっています。

また、2017年のデータを見ると需要創造支出は2016年から2%増加しており、マーケティング費用はもちろんのこと2016年に開催されたリオオリンピックやユーロサッカーのチャンピオンシップなどのスポーツイベントに伴うプロモーションコストなどが理由と考えられます。

つまり、ナイキはブランドのPR、広告宣伝に資金を惜しまず注ぎ込み、消費者の需要を作り出すことにとても注力し、それが売上を支えているのです。
このような需要創造ですが、エンドースメント契約(スポンサー契約など)による支出額は以下の2つ方法で計上されています。

1つ目は、契約した特定のアスリートや著名人のパフォーマンスに基づいてスポンサー料を支払うやり方です。

ナイキは、エンドースメント契約(スポンサー契約)を結んでいる選手が定められた目標を達成する時に需要創造費用を出しています。

特定のアスリートとの契約では、アスリートがパフォーマンスを長期間維持すること(例えば、一定以上の世界ランキングを一年間維持する 等)を前提に、スポンサー費を支払う形をとっています。

契約期間中に支払いの可能性が高い、つまり選手が目標を達成/一定以上のパフォーマンスを維持しそうだとナイキが判断した場合、ナイキは選手のパフォーマンス結果に基づいて契約期間中の支払額を見積もり、需要創造コストとして支出に計上します。
2つ目の計上方法は、ロイヤルティフィーによる計上です。

パフォーマンスベース以外のエンドースメント契約では、それぞれの商品の売上から決められた割合をロイヤルティとしてエンドースメント契約を結ぶ相手に支払い、需要創造費として計上します。

以上のようにして、ナイキは需要創造を記録しているのです。

市場動向

スポーツ用品メーカー各社の2021年度の売上高を分子に、後述する市場規模を分母にして、2021年のスポーツ用品業界の世界市場シェアを簡易に算出すると、1位はナイキ、2位はアディダス、3位はプーマとなります。

スポーツ用品メーカーの市場シェア(2021年)

2021年の売上高市場シェアも、2019年に続き1位は不動のナイキ、2位も同じく不動のアディダスです。3位以下の5~7倍程度の売上高規模でダントツのトップ2となっています。3位は中国のアンタです。フィンランドのスポーツブランドマネジメント会社であるアメアスポーツを2019年に買収し、一気にランクアップです。

4位はケリングより改めて分社化独立を果たしたプーマです。5位は新興スポーツメーカーながら急成長を遂げているアンダー・アーマーです。内部成長を重視している日本のアシックスは6位になっています。7位はニューバランスとなっています。

調査会社等の公表データを参考にし、スポーツ用品、シューズとウェア業界の2021年の世界市場規模を6296億ドルとして市場シェアを計算しております。参照にしたデータは以下の通りです。

調査会社のグランドビューリサーチによると、2021年のスポーツシューズの市場規模は1273億ドルです。2022年には1331億ドルへと拡大することが見込まれます。また、同社によると2020年のスポーツウェアの市場規模は2884億ドルです。2025年に向けて年平均10.4%の成長を見込みます。また同調査会社によると2021年のスポーツ用品の市場規模は3314億ドルです。2030年にかけて年平均6.4%での成長を見込みます。

調査会社のフォーチュンビジネスインサイツによると、2021年のスポーツウェアの市場規模は1709億ドルを見込みます。同社によると、2019年のスポーツシューズの市場規模は1028億ドルです。2027年に向けて年平均4.1%での成長を見込みます。

なお、スポーツの種類別の市場規模では、サッカー関連が市場規模では最大で、アメリカンフットボール、野球が2位の座を競っています。以下、F1、バスケットボール、アイスホッケー、テニス、ゴルフと並びます。

業績

売上高の推移

FY2021(2020年6月-2021年5月期)の売上高は445億ドルと、前年度比+19.1%、過去5年間で年率+6.6%となりました。

セグメント別(ナイキブランドのみ)の売上高は、以下の通りです。

・フットウェア:68億ドル、前年同期比▲0%

・スポーツウェア:36億ドル、前年同期比+2%

・スポーツ関連用品:4億ドル、前年同期比+10%

セグメント別(ナイキブランドのみ)の売上高構成比は、フットウェアが63%、スポーツウェアが34%を占めます。

地域別(ナイキブランドのみ)の売上高は、以下の通りです。

・北米:45億ドル、前年同期比+12%

・欧州/中東/アフリカ:31億ドル、前年同期比+6%

・中国/香港/台湾:18億ドル、前年同期比▲20%

・アジアパシフィック/ラテンアメリカ:13億ドル、前年同期比▲8%

地域別の売上高構成比は、北米が41%、欧州/中東/アフリカが29%、中国/香港/台湾が17%を占めます。

利益の推移

FY2021の営業利益は69億ドルと、前年度比+122.7%、過去5年間で年率+9.0%となりました。

営業利益率は15.6%と、前年度の8.3%から改善しました。

FY2021のEPSは3.56ドルと、前年度比+122.5%、過去5年間で年率+10.5%となりました。

キャッシュフローの推移

FY2021の営業キャッシュフローは67億ドルと、前年度比+167.9%、過去5年間で年率+14.4%となりました。

営業キャッシュフローマージン(営業キャッシュフロー/売上高)は14.9%と、前年度の6.6%から改善しました。

FY2021のフリーキャッシュフローは60億ドルと、前年度比+326.2%、過去5年間で年率+21.5%となりました。

フリーキャッシュフローマージン(フリーキャッシュフロー/売上高)は13.4%と、前年度の3.7%から改善しました。

株主還元(配当、自社株買い)の推移

FY2021を除いて、自社株買いに積極的です。

(参考)過去5年間の株主還元利回り(株価は各会計年度末時点)

FY2021の益利回り(PERの逆数)は2.6%、フリーキャッシュフロー利回りは2.7%です。

FY2021の配当利回りは0.8%です。

(参考)過去5年間の配当性向、総還元性向

FY2020の配当性向は、利益・キャッシュフローベースともに30%以下です。

M&A(合併買収)

2010年以前はブランド獲得や地域補完を目指した買収を行っていましたが、それ以降はデジタル領域のテクノロジー獲得を目指した買収が多くなっています。

2003年 ナイキがコンバースを買収
2013年 APAXパートナーズがコールハーンをナイキから買収
2016年 モバイルアプリ制作のヴァージン・メガ(Virgin Mega)を買収
2018年 データアナリティクス企業のゾディアックを買収
2018年 3Dスキャンのインバーテックス(Invertex)を買収
2021年 仮想スニーカーのRTFKTを買収

経営者 

沿革

1968年にオニツカタイガー(現アシックス)のアメリカにおける輸入総代理店・販売代理店「BRS(ブルー・リボン・スポーツ)」として鬼塚喜八郎と50ドルで契約したフィル・ナイトとビル・バウワーマンによって設立された。

オニツカタイガーからスニーカーづくりのノウハウを学び、1971年にオニツカタイガーから代理店契約終了とアメリカの銀行から融資継続拒否を告げられ、資金切れを起こしたところを日商岩井(現:双日)の支援を受た。

自社ブランドとしてナイキを創設し、オニツカタイガーの技術者を引き抜き、福岡のアサヒコーポレーションでトレーニングシューズを生産、社名もナイキと改名した。1981年に日商岩井と「NIKE international」を創設し、世界40カ国以上で海外販売も開始した。

その後も不渡りを理由にメインバンクから取引停止される事態を起こした際にも日商岩井ポートランド支店経理担当の独断による肩代わりで倒産を免れている。

CEO

現在のCEOはジョン・ドナホー(John Donahoe)

2020年1月にマーク・パーカー(Mark Parker)前会長兼社長兼CEO(当時。現エグゼクティブ・チェアマン)からバトンを受け継いで2年余りが経った。

同社に加わる前、ドナホー社長兼CEOは米IT企業サービスナウ(SERVICENOW)の社長兼CEOを、それ以前は米大手リセールEC企業イーベイ(EBAY)のCEOを08年から15年まで務めている。14年からはナイキの社外取締役も務めていた。経営者としての経験が豊富である。

株価推移

株価を長期的に見ると、右肩上がりに成長しているチャートとなっています。

ナイキ(NKE)の直近5年間の株価上昇率をS&P500と比較しました。

S&P500を大きくアウトパフォームしていることがわかります。

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