ロスト・ケア 葉真中顕 (ネタバレなし)

小説だから書ける、生々しい認知症介護の現場と当事者たちの感情を言語化してくれた重要な作品です。読んでよかった作品です。共有します。

自宅で認知症の身内を介護するという密室で行われる「出口のない地獄」を世間に知らしめてくれた大切な作品です。介護事業で働く人間のナマの声を小説という形で教えてくれます。ぜひともたくさんの方に読んでいただきたい作品です。
戦後最悪と言われる43人の人間を殺した犯人、その被害者はすべて認知症で要介護状態の老人でした。その身内が介護を担当し、疲弊しきっているなか、ある日突然に前触れもなく認知症老人が自然死してしまいます。介護を担当していた家族の心のなかに肉親が亡くなったという喪失感よりも「救われた」というプラスの感情です。犯人は介護を担当する親族を「救う」ために何件もの完全犯罪を成立させてきました。

多くの介護者が肉親を介護しながらも、一刻も早くこの地獄から開放されたいと思っています。思っているけど絶対に口にしてはいけない「早く死んでくれないかな」。介護しても介護しても、優しくしても優しくしても認知症老人の状態は少しずつ 少しずつ悪い方向に進んでいくことはわかっています。赤ちゃんを育てているときは、下の世話や食事の世話をすれば赤ちゃんがみるみる成長していくからやりがいがあって、結果が出ることが嬉しくなります。しかし認知症老人の介護は、優しくすればするほど泥沼化していくという逆進性をもっているため、モチベーションを保つことが難しいのです。まさに出口のない地獄です。出口は認知症老人の死亡ですので、公に口にすることができません。

「早く死ねばいい」なんてことは公には言えませんから、葉真中顕氏は小説をという形でこの作品を世に出しました。しかもミステリーという体裁をとって。そしてこの作品のすごいところはミステリーの入門編としてもかなり完成度が高いというところです。わたしも完全に作者の意図した方向にミスリードされて犯人は当然あのオッサンだと思っていました。結果全然違うひとが犯人でした笑
近日、映画化されるということなので、この作品が世間に注目されて認知症老人介護問題がニュースやワイドショーで大きく取上げられて広く知られることを望みます。

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