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第155回 優秀な部下が必ずしも優秀な上司になる訳ではない

今回は、話が投資からちょっと逸れます。
それでも、企業経営者に関する話ですので、ご勘弁いただきたいと思います。
なぜ今回、こんな話を書きたいと思ったかと言えば、某県知事の会見のニュースを見たからです。
厚顔無恥も極まれり、という感じです。

厚顔無恥とは、厚かましく恥知らずなことです。
出展は「四書五経」でおなじみの「書経」で、元々は「顔厚忸怩」です。
「天下万民に嫌われて、誰も頼ることが出来なくなった君主が、厚顔無恥な自分でもさすがに今の状況は恥ずかしく思うと嘆き、しっかり徳を積むことをし続けなければ後悔しても後悔しきれない状況になる。」と言うのが原典です。
どっかの知事の状況にピタリと当て嵌まると思いませんか!?
まぁ、某県知事は、この君主以上に厚顔無恥なようなので、今のところ全く恥じていませんが・・・・。

さて、3635コーエーテクモHDと言えば、歴史シミュレーションゲームが有名です。
「信長の野望」、「三国志」、「蒼き狼と白き牝鹿」を歴史三部作と言われていました。
どのゲームも人材がゲームクリアのカギとなっており、人材を政治や軍事に割り振りつつ、富国強兵を行い、天下統一を目指します。
当然、戦争もあり、将軍に兵を率いらせて戦わせるのですが、この時に将軍の能力によって率いることが出来る兵数の上限が決まっていたことがありました。
つまり、誰もが同じだけの人数の兵を指揮できる訳では無いことを、3635コーエーテクモHDはゲーム内で数値化していた訳です。

実はこの話は、漢王朝を開いた劉邦と、その片腕として働いた韓信との対話に基づいています。
劉邦は、漢王朝を開いた後は疑心暗鬼に憑りつかれ、多くの功臣を処刑してしまいます。
韓信も例外ではなく、謀反の疑いを着せられて軟禁されてしまいます。
ただ、直ぐに処刑されることはなく、劉邦の近くで飼い殺しのような生活を強いられていました。
その時に交わされたのが次の会話です。

劉邦「わしはどれくらいの将の器であろうか」
韓信「陛下はせいぜい十万の兵を率いる器でしょう」
劉邦「ではお前はどうなんだ」
韓信「私は多ければ多いほど良いでしょう」
劉邦「ではどうしてお前がわしの虜になったのだ」
韓信「陛下は兵を率いることができなくても、私と違って将を率いることができます。これは天授のものであって、人力のものではありません」

また、同じような話は、徳川四天王の中にもあります。
徳川四天王とは、酒井忠次、井伊直政、本多忠勝、榊原康政の4名です。
まだ三河、遠江しか領有していなかった頃の徳川家では、酒井忠勝と石川数正が両巨頭として家康を支えていました。
ところが、石川数正が裏切りって羽柴秀吉の下に走ってしまいます。
そこで慌てた家康は、本多重次を石川数正の後釜に任じました。
つまり、草創期の徳川家で、本多重次はそのような地位にあった訳です。

ところが、家康が関東に移封されると、四天王はそれぞれ10万石の領地を与えられましたが、本多重次には3,000石しか与えられませんでした。
つまり、本多重次は大軍を率いる能力に欠けるため、広い領土を与える必要は無いと家康に判断された訳です。
自分の部下としては優秀であっても、一軍の将、つまり支店長は務まらないから、本社の総務課長止まりという感じだということです。

日本の場合は、年功序列の弊害から、務まる、務まらないで人事異動をすることが非常に少ないです。
務まらなければ、優秀な副支店長を置けば良いと安易に考えます。
このような悪しき慣例があるから、本来支店長にするべきではない人物を支店長に任命し、しばしば間違った権力を奮わせることになるのです。
日本人の多くが労働に対して、諸外国と比べて否定的な見解を持つのが圧倒的に多いのは、この為です。

優秀な部下が、必ずしも優秀な上司になると言えないのは、誰もが知っていることでしょう。
名選手が名監督になれないのは、選手だったころの自分の姿を、今の部下である選手に求めるからだと言われています。
普通の選手でも真似できる程度なら、そもそも名選手だと言われません。
某県知事は部下として優秀だったらしいですし、本人も自分は優秀だと自負しているところでしょう。
それなら優秀ではない一般の部下に、自分と同じことを求めるところに、そもそもパワハラの要素があります。

自分が出来るから誰でも出来ると考えているのであれば、人の上に立つ資格はありません。
人の上に立ちたいなら、先ずは自分と同じことを誰もが出来るように工夫することです。
そのように環境を整えた後に、同じレベルのことを要求するべきでしょう。
少なくとも、某県知事がそういうことをしたという形跡は無いので、知事としては不合格だと判断します。

ただ、人は成長し続けるというのも事実です。
多くの起業家たちは、今回の某県知事のような失敗を1度や2度は必ず犯していると思います。
ところが、それはまだ規模が小さい時に犯しているので、それほど大きな問題とならず、本人たちは気づけたわけです。
もし気づいていなければ、その後の事業の拡大は行えず、上場にこぎつけなかったと思います。
某県知事は、単に後援した政党の力で選挙に当選しただけで今の地位を得たのですから、このような経験をして来なかったのでしょう。
ですから、今回の件で良い方に変わる可能性は、大いにあります。
ただ、今回の会見の内容を本気で喋っていたのなら、無理ですね。

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