第21回 集団の『risk』の考え方

前回は、ちょっと話が逸れました。
今回は、再び『risk management』に戻ります。

ある事象の『risk』や『hedge』の効果は、人それぞれによって異なります。
ある人にとっては『high-risk』になることでも、別の人にとっては『low-risk』になることだってあります。
いやいや、『no-risk』、つまり『safety』になる人もいれば、まだ『danger』のままという人もいるでしょう。
それこそ、100人いれば、100種類の捉え方があるのが『risk』なのです。

例えば、私がある銘柄を仕込むとします。
私は、『low-risk』だと判断した銘柄しか仕込まないと決めています。
が、この銘柄は『low-risk』だよ、と他人に薦めるようなことは絶対にしません。
なぜなら、その銘柄に対する考えやイメージ、捉え方が私と同じ人はまずいないからです。
そうなると、判断すべきタイミングで、私と異なる判断をし、異なる結果を出すことになりかねないからです。

『low-risk』と言うのは、『no-risk』ではありません。
『risk』が少ないことに違いはありませんが、無いことは無い、存在しているということです。
それこそ、1/100の確率でも、その『risk』が現実のものになる可能性はある訳です。
確率が低いから、そんなことは起きないと考えてはいけません。
1/300の低確率でも、パチンコの大当たりは必ず起こるのですから、都合の悪い事象が起こらないなどということは絶対にありません。

その都合の悪い事象が起きた時、自分では問題なく対処できる。
そう思っているから、『low-risk』と判断しているのです。
でも、同じように教えた相手が、対処できるかどうかは分かりません。
もし、対処できなければ、その人には『low-risk』ではなく、『high-risk』だったということになってしまいます。
すると、そもそも『return』との釣り合いが取れていないことになり、その人にとって私は嘘つきになってしまいます。

まぁ、噓つき云々はともかく、その銘柄を利用できる、できないは、このように個人差があるのです。
だから、不容易に勧めることはできないという訳です。

そこで考えてみて下さい。
人それぞれで、『risk』と『hedge』の効果が違う場合、集団行動するときには、誰に合わせれば良いのでしょうか!?

今、『例えの谷』の丸太の前に、荷物を担いでいる4人の集団がたどり着きました。
Aは、この程度なら難なく渡れるから大丈夫だと言います。
Bは、怖いけど、何とか渡れそうだと言います。
Cは、いや、無理でしょうと反対します。
Dは、顔面蒼白で、一言も話せなくなっています。

この4者4様の状況で、誰を基準にして判断すれば良いと思いますか!?
一番上手なAだろうか、それとも一番ダメなDだろうか、それとも間を取ってB、Cだろうか・・・・。
正解は、Dになります。
4人で荷物を担いでいるのですから、1人の脱落者も許すことはできないと考えるべきだからです。
そうなると基準は、一番低いレベルの人にせざるを得なくなるのは、自明の理です。
つまり、運搬する為の道は、非常に効率の悪いものを選択せざるを得なくなってしまうということです。

集団は、その集団に所属する者の中で、最低レベルの者を基準にしなければなりません。
そうしなければ、その最低基準の者が脱落してしまうからです。
脱落しても問題ないと考えられるのであれば、その者は最初から不要だったと言い換えることができます。
不要な者を抱えていたのであれば、その集団は元々非効率だったということになる訳です。

ところが現実では、Bを基準に設定する集団が、圧倒的に多いです。
それは、能力が足りないC、Dに努力させる為の余地を作り、全体のレベルを引き上げる方が良いと考えるからです。
しかし、本当に教育することを考えているのでしょうか!?

実は日本の場合、この努力は個人の責任に負わされているものになっています。
基準を平均と称して、自己責任に於いて研鑽するよう指導されるのです。
ところが、自己責任としていることから、人によってはなかなかレベルが上がらないというのが現状です。
更に日本は、そういう者でも集団から追い出すようなことはしません。
結果、集団のレベルがジリジリと低下してしまいます。
これは、基準と考えていたBのレベルが下がるということに他なりません。

基準のBを下げることにより、C、Dでも、問題なく所属できるようになる。
しかしこれは、集団としての競争力を奪ってしまうということです。
なぜなら、実質的には基準がDに落ちているのに、感覚ではBのままだからです。
自分たちは、基準をBのまま動かしていないことに満足し、全体のレベルそのものが落ちていることに気付いていないのです。

旧来の日本型企業には、このような企業が圧倒的に多いです。
利益率が悪く、成長していない、低PBR、低PERに置かれている企業などの多くは、このような状況だと思います。
最近になって、東京証券取引所は、長く低PBRが続いている企業には、株価対策をするように通知を出しました。
低PBRというのは、企業が持つ財産は多いが、それが有効に利用されず、その結果評価されていないという意味です。
だから東京証券取引所は、もっと評価されるような具体的な動きを見せなさいと言ったのです。
その結果、自社株買いや償却、新規事業の開発などの動きが、低PBR企業に出てきました。
だから今後は、長年放置されていた低PBR企業への投資も、面白いかもしれません。

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