少し諦めをつけることで失望する程度を抑え、多くの人の利益につながり、期待を持てる。

私は最近まで4ヶ月間、ワクチンコールセンターで仕事をしていた。

この4ヶ月間でワクチンは急速なスピードで接種ができるようになり4割が接種済みとなっている。だがしかし若者や中高年がまだ打てずいつまで待たなきゃいけないのだという状況になっている。その間にデルタ株など強力なウイルスで感染者や重症者が増えてしまっている現状だ。
このnoteからワクチン行政の〈中身〉で何が起こっているのか知ってもらい、期待と諦めをつけて貰えばとおもう。「諦め」を促すなんておかしい話だが。

私は元々は旅行会社で働いているのだが、今は移動に対して自粛が求められ、会社は旅行の需要が復活するまでの間の苦肉の策として色んなことをしている。どこの旅行会社も同じであろう。私はたまたまワクチンコールセンターで働くことになったのだ。
会社から飛ばされるのは初めての経験だったのでわたし自身としては少しワクワクしているところがあった。後になってみるとそんなワクワクしてた自分が情けない。

ワクチンコールセンターはその名の通り、ワクチンに関する予約・キャンセル・お問い合わせを全て引き受けるコールセンターである。
その会社では複数の自治体のコールセンターを引き受けていたので私は2自治体の受付を担当していた。
ワクチン行政は自治体によって予約の方法から全てが違っておりコールセンターは混乱を極めていた。5月からはワクチンが流通し始め、65歳以上の高齢者・基礎疾患がある人向けの優先接種を行っていた。6月からは順々に対象年齢が下がって行き、8月末には全年齢が予約をできるようになった。これから書くのは予約方法の是非についてである。本当に多岐にわたる変更があったので全てを書けるわけではないのをご了承いただき、大まかなことを掴んでいただければと思う。

自治体Aと自治体Bについて。
自治体Aは2回受ける接種を別々に設けていた。そうしている理由は、自治体で接種されているものはファイザー社のワクチンで2回目の接種は1回目から3週間後以降6週間以内で受けられるため、市民が〈予約を好きな時に取りやすいように〉という目的でそのようにしていた。場所は自治体の設置した会場ならどこでもいいが2回目と同じ会場で取る必要がある。
自治体Bは2回分をセットで予約受付していた。こちらはAに比べて比較的多くの自治体で採用されている方法であろう。3週間後に自動的に日程が設定されて同じ会場で受けられるようにしている。

どちらにも共通するのは電話とインターネットで受付をしており、電話専用枠などなく、インターネットが使えればとてもスムーズに予約ができるのである。情報弱者、IT弱者にとってはとても辛いシステムだ。

自治体Aは市民の予定を重視しているため一見〈市民のためを思っている方法〉とみえる。実際に予約が自由に取れて仕事の都合やプライベートの都合などを優先することができた人たちは多いだろう。しかし大多数の人たちが自由に予定を決めて取ろうとすると何が起こったか。
まず人気の場所が埋まってしまい、行きづらい会場は余っているのに取らない状況が生まれてしまった。その場所をお勧めしても「足が悪くて行きづらいんだよ、そんなとこまでわざわざ行きたくない」とおっしゃる。こちらからするとそんなわがまま言うなよと思うが、足が悪い人からすると本当に大変なんだろう。予約枠拡充まで待ってもらうしかない。そうなると、「いつ予約が取れるんだよ!こっちは電話何時間もかけて結果これかよ!」と言われる始末で、行政ではワクチンの先の予約がまだ不透明ということが多く、その場で次の案内ができないことが多い。市民の方は普段から行政の方に鬱憤が溜まっているのだろうか、3割ぐらいが荒れる。特に高齢男性。こちらは行政じゃないのですぐに身を翻し、「コールセンターは部外に設置されておりますので提案などは自治体側に上げさせていただきます」と言い自治体のせいにする。コールセンターはバイトだ、派遣だから信じられんがとか言われるが、こっちは一応正社員だと思いイラッとするが、同じ仕事をしているのだからそういった雇用の仕方なんて関係ねぇだろと思う。日本に差別が根付いていることを感じる。話が逸れたが、実際に自治体のやり方が悪くて荒れてしまうのだ。

そして次に1回ずつ申し込みをしたことで何が起こったか。1回目しか予約が取れない人たちが大量に発生してしまったのである。その結果、「2回目専用ダイヤル」という無駄な業務が生まれてしまい、電話が鳴り止まない。コールセンターで働く私たちの仕事を生んでいると自治体が思っているのだろうか。いや、ありがた迷惑である。私を含めそこで働いていたのはコロナ禍で危機を味わっている会社から出向できている人たちである。元の会社では感染防止のための休業を命じられる代わりに雇用調整助成金というものを会社がもらいそれで給与が支払われており、休んでいても最低限(何割も減額されているが)もらえているのであり、個人の視点からみると無駄な業務を発生させるなら副業でもやらせてほしいのだ。ワクチンコールセンターで働いてももらえる給料は変わらずむだに週に5日働かせられているのだから。私たちの会社の視点で見れば給料の補填をいくらかコールセンター側からしてもらっているのだろうが。元の会社に残っているメンバーはワクチンの会場でバイトをして少なくとも1日に8000円は稼いでいるのである。明らかに不公平だ。

またまた話が逸れてしまったが、市民からしてもわざわざ電話を2回目の予約を取るためだけに何時間も電話をかけないといけないので全くお互いに迷惑な話なのである。

自治体Bにはこういった問題は起こらない。2回目が風邪をひいてしまったりして受けられなくなってしまっても、他の日程でもそういった人たちがいるので簡単にずらすことができるのである。そしてほとんどの人がなんとか都合をつけて2回目の接種に行ってくれるので、すぐにこちらの自治体は電話が鳴り止んだ。
実際に厚生労働省が推奨しているやり方で、自治体Aに関しては厚生労働省が推奨する「同じ会場で2回目を接種」ということはすぐに守られなくなり、形骸化してしまった。結果、どちらにせよ2回目が遠い会場かつ、都合が特に良くない日程に設定されてしまうのである。

つまり私がここで言いたかったのは、公共善のためには意外にも人は都合はつけられ、少しでも我慢することでみんながプラスの恩恵を受けられる。むしろ野放しにして市民の自由を重んじたばかりに色んな弊害が起こり、一部の人たちだけ恩恵を受け、ほとんどが結局は期待していたもの以下になってしまうのである。


しかしこれを全てに応用すればいいというわけではないことは承知のことだ。もちろん自由にすることでメリットを受けられることも多いと思う。ただ、沢山の市民を相手にし、公共善を求める場合には個人の〈ある程度の我慢〉というのが功を奏す場合もあるのかもしれない。

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