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【ネタバレ有】『春にして君を離れ』

『バーナード嬢曰く。』で紹介されていた一冊。
アガサ・クリスティが別名義(メアリ・ウェストマコット)で発表した作品。

クリスティ作品だが殺人は起こらないし、主人公が砂漠でただ人生を見つめ直すだけの物語。
それなのに、怖い。少し読み進めただけで主人公への違和感が出始める。




世の中には「善意は他人を傷つけない」と本気で信じている人たちがいる。それは恐らくジョーンのようなタイプの人だ。
誰かのためを想って行動すれば、それは必ずその人のためになると信じている。

実際には善意も人を傷つける。それが善意と伝わっていようがいまいが、関係ない。
幸か不幸か、私は身をもってそれを理解している。私は正しい、と妄信して生きていくことはできない。

けれど自分の中にジョーンのような独善性がまるきり存在しない、とも言えない。それが肥大化しない保証もない。
だからこそ、この作品は怖い。いつかまた10年、20年と年を重ねて人生を回顧して、後悔しないと言い切れる人生を送れるだろうか。

読みながら想像していたラストは

・ジョーンが汽車で乗り合わせた夫人のように旅をし旅をし生きていく
・ロドニーが自殺
・ロドニーから離婚を申し渡される

など、どんな形であれ、「君=ロドニー」から離れて生きていく……というものだった。タイトルは『君を離れ』だが、ジョーンは離れないし変わらない。変わらないままロドニーと生きていく。
自ら変化しようとしない人は、変化しない。あまりに現実的な終わり方だった。

もし汽車で夫人に自分の心境を語らなければ、帰宅前にエイヴラルと会わなければ、ロドニーへの贖罪が最初に出てきたのだろうか。
変化に期待したくなってしまう私は甘い人間だろうか。


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