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私はアライでいられたのか?LGBTQという言葉さえ知らなかったあの頃

「ねぇねぇ、A子と仲良かったよね? A子とB子って付き合ってるの?」


とくに話したこともないクラスメイトにそう聞かれたのは、もう20年以上前。高2の夏だった。


A子はその年からクラスメイトになった子で、確かに私とは仲良くしていた。
同じ歴史好きということで距離が近づき、休み時間や移動教室はずっと一緒だった。

A子はコミュ力が高く、私よりよほど友人の多いタイプ。他のクラスメイトや先生とも気さくに話し、男女問わず誰とでもすぐに仲良くなってしまう子だった。

一方、B子は別のクラスの同級生。
冒頭の質問のクラスメイトは知らなかったのだろうが、私はB子と中学時代からの知り合いだった。
高校受験塾が一緒だった私とB子は、別の中学に通っていたが、同じぐらいの成績だったので席が近くなることが多かった。
同じ高校を目指していたこともありすぐに仲良くなった。
2人で志望高校に合格してから、高校3年間同じクラスになることはなかったが、お互い電車通学だったのでよく一緒に登下校していた。

B子は変わった子だったが、決して目立つタイプでも突出した何かを持っているわけでもなく、とにかく穏やかな子だ。
いつもニコニコ笑っていて、怒る姿や意地の悪い姿を、私は見ることがなかった。

2人とはそんな関係だったので、たまに3人になる場面もあった。
A子とB子が2人が特別な関係なのは感じ取っていたが、私がそれぞれと友人であることに、変わりはなかった。
私にとっては、友人に恋人がいる、それだけのことだった。



「A子とB子って付き合ってるの?」の質問には、「何それ、知らない」と返事をしておいた。

「A子とB子が放課後、キスしてるの見ちゃったんだよね」と追撃を受けたが、「へぇーそうなんだ」と興味のない回答をしてその場を離れた。
このクラスメイトは、私にどんな反応を期待していたのだろうか?

「えっ何それ気持ち悪い」 とか
「どういうことかA子に聞いてくるわ」 とか?
私がA子を何かしら攻撃することを期待していたのだろうか?

だとしたら、他人をストレスの捌け口にしようとする神経の方が私には好かない。



本人たちに直接聞いたことはないが、実際A子とB子は付き合っていたのだと思う。

2人が一緒にいるときは、恋人特有の雰囲気があった。
お互いが、他の友人に見せる態度とまったく違う態度をとるので、私以外にも一目瞭然だっただろう。

誰とでもフレンドリーなはずのA子は、B子との時間を確保するために色んな誘いを断っているようだった。大人数で行動するのも好きなはずだが、B子がいるとすぐに2人で抜け出そうとする場面も、正直目立っていた。

一方のB子も、A子にはイジワルな態度をとるのをよく見かけた。
わざとツレなくしたり、素っ気ない態度をとってA子が悲しそうにしているのを見て楽しんでいる風のB子。
普段ひどく穏やかな性格のB子が、そんな対応をしているのを見ると、2人がただの友人関係ではないのは、誰の目から見ても明らかだった。

なんなら、私は2人ともが私相手に若干の嫉妬心を抱いているのを見て、ちょっと面白がっていたかもしれない。
自転車通学のA子は、B子が私と一緒に電車で帰るのを見送りながら、「いいなぁ私も電車で帰ろうかな」などと言っていたし、
B子も「同じクラスだからA子とずっと一緒にいるよね」とボヤいていた。
心の中で、大丈夫邪魔しないよ、などと思いながら見守っていた。

A子とB子は、週末はほとんどお互いの家に泊まっていて、ずっと一緒にいるらしいのに。恋って面倒なんだねって思っていた。

そんな感じで、2人と私との友人関係にはなんら変わりはなかった。
当時まだ恋愛を自分事として興味を持てずにいた私には、2人の関係は微笑ましさを感じていた。

とは言え、ちょっとした好奇心や野次馬根性が生まれる瞬間もあったような気もする。
そんな時は、「たとえ友人同士でも、聞かれたくなさそうな話題は避けてあげる」そんな当たり前の心遣いで、ただ見守るに徹していた。
LGBTQとかそんな言葉を知らなかった私だが、これは別に当たり前の友情だった。


…それでも、2人が大事な友人なのは確かなので、外野から面白がられてたりするのは、気分が悪い。
これ以上話が広がらないように、と強く祈った。



結局冒頭のクラスメイトは、しばらくA子のことを気持ち悪いなどと言っていたが、そのうち収まったようだった。
誰にもあまり相手にされなかったのだろう。
これは日頃のA子の人徳によるものだろうなと思った。

それでも、A子は陰で言われていることには気付いていたようだった。
しばらく落ち込んでいる様子が見られたし、B子が何か言われてないかひどく心配していた。


2人とは高校卒業後もそれぞれと友人関係が続いたが、結局付き合っていると話をされたことはなかった。
とくに言う必要はなかったのだろう。

私はあれから大学生になり、社会人になった。
自分も人とお付き合いをしたり、他の恋人同士や友人の結婚式に呼ばれたりもした。
それなりに恋人同士の2人というのを見てきたが、色んなタイプがいるなと思った。

2人だけの甘い空気を出す人たちもいれば、友人関係にしか見えない間柄、恋人の前では別人になる人もいる。
A子とB子の関係も、その数多ある恋人関係の1つだったのだろうと感じている。

2人のことは当人たちにしか分からないが、2人の関係が異質だとは今も昔も思っていない。



最近、アライという言葉を知った。
性的マイノリティを抱える人たちを、認める人たちのことだそうだ。
他人に排斥される人たちにとっては、アライの存在はとても心強いものだと聞いた。

私は、A子とB子にとって、アライになれていただろうか?

#創作大賞2024 #エッセイ部門

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