『カットバック』 背景(バック)を見せつつ、時間をカットする

前回にてシナリオは映像作品のためのものであり編集を必ず使うことになること、そして編集を行うということは作中世界の時間と空間をすっ飛ばすことだと説明しました。
その際に留意するべき点は、時間や場面を飛ばしたことでどこで誰が何をしているのか観客が分からなくなってしまうリスクがあるとも述べました。
では具体的にはどのように時間を飛ばせばそのような事態を避けることが出来るのでしょうか。
代表的な技法のひとつである『カットバック』について、今回は解説します。

■『カットバック』とは

まずは以下の例文をご覧ください。
例:
〇廃墟の村・洋館・館内
   少女がゾンビと遭遇する。
   少女が叫びつつ逃げる。
   ゾンビが後を追う。

〇同・町の広場
   警察官のレオンが拳銃でゾンビを撃退している。
   少女の叫び声に気づく。

〇同・洋館・館内
   少女はレオンの名を連呼する。
   助けを求めつつ逃げ惑う。

〇同・洋館への道
   レオン、車を走らせ洋館へと向かう。

〇同・洋館・館内
   少女、つまずいて床の上に倒れる。
   ゾンビが少女に襲い掛かる。
   レオンが窓ガラスを突き破ぶる。
   ゾンビに飛び蹴りを食らわせる。
   レオン、倒れたゾンビに何発が銃弾をぶち込む。
   レオン、少女の無事を確かめる。
   二人は手を取り合って、館を脱出しようとする。

……関連のある2つのシーンを交互に並びたてて展開させています。
この技法の最大の利点はなんでしょうか。
それは、"作中で実際にかかった時間を飛ばすことができたこと"と、
"物事の背景を見せることで味わいを深める"という効果です。

〇作中で実際にかかった時間を飛ばす効果

例文のシーンは映像化するとおそらく1分程度の尺で製作されることとなります。
その間に作中で起きたことは、
1・少女がゾンビに襲われる
2・レオンが気づく
3・少女が助けを求める
4・レオンが車で移動する
5・少女のピンチ
6・レオンが少女を助ける
7・二人が連帯して行動するようになる

……です。
このような出来事が実際に起こったとして、1分以内に片を付けることができるでしょうか。
おそらく無理です。
ではなぜ作中世界よりも編集したフィルムの方が短い時間で片が付いているのでしょうか。
それはレオンが助けに赴くまでの移動の時間をすっ飛ばしたからです。
レオンのいた広場から洋館まで、車で5分かかるか1分ほどで着くのか分かりません。
その移動時間をダラダラ映しても無駄です。何も面白くありません。
映像作品の尺は限られています。無駄な部分は省きたいです。
そこでレオンが車を走らせるシーンを差し込むことで、観客にレオンが移動しているという印象を植え付けました。
そこで別のシーンに差し替えられても、舞台裏ではレオンが移動しているという想像を働かせてくれるので、実際に移動する時間を飛ばして次の展開を描くことができるというわけです。
『カットバック』とは、別のカットを差し込むことで舞台裏で起こっていることを補完してもらうように仕向ける技法といえます。
小説でいうところの『一方そのころ……』というやつです。
想像で補完してもらったら、さっさとそのシーンはカットして時間を節約しましょう。
ダラダラした作品は多くの人が嫌います。尺の制限が多い中、意外性もくそもない想像で補完できる部分はサッサと飛ばすのが得策です。

〇展開の裏側を見せて味わいを深める

中にはもしかしたらこう思われた方もいるかもしれません。
「じゃあ、最初から広場のシーンいらなくない?」
「少女のいる洋館だけで撮ればいいじゃん」
……と。
たしかにそれでも展開として成立します。
よほど尺がなければそうするかもしれません。
ですが少女が助けを読んだらすぐさま正義のヒーローが現れるというのはあまりにご都合主義すぎないでしょうか。
後の記事で取り扱うつもりですが、シナリオやキャラクターには共感性というものが特に大事な要素です。
ただ颯爽と助けに入る場面を映すよりも、汗をかいて懸命に助けに向かってくれる姿を描く方がカッコよく映ります。そんなヒーローにはきっと多くの視聴者が愛着を持ってくれることでしょう。
本当に描かなくてはならない展開は、レオンが少女を助けるシーン。
ですがその裏でレオンが何をしていたかを描くことで、キャラクターへの愛着や行動に共感を持ってもらうこと。
カットバックを用いることで効果的な演出を果たしてくれます。

■カットバックの注意点

カットバック (cutaway / cutback) は、2つ以上のショットを交互に切り返すモンタージュ手法。カットバックは場面Aと場面Bを時間の連続性を持って繋ぐものであり、場面Aと場面Bを並列的に繋ぐクロスカッティングとは意味が異なる。

突然ですが、カットバックの定義をwikipediaから引用しました。
"連続性を持って繋ぐ"と記されていますが、ピンとこない人がいるのではないでしょうか?
私見ではありますが、この"連続性"を"関連性"と読みかえた方が理解の進みが早そうです。
想像してみてください。作中の少女とレオンは当初バラバラに行動していても最終的には合流しますが、このまま二人が合流することがなかったらこの技法は成立するでしょうか。
全く関係のないシーンを2つ並べてくり返し映しても、それはカットバックにはならないということです。
カットバックを使う際は、関連性があり、かつ最終的に2つのシーンの筋が一つの展開へと合流するシーンを用いるようにしましょう。
なぜ筋が合流することにこだわるのかというと、前回に述べた『三統一の法則』が関わってくるからです。
三統一の法則とは、作中時間が24時間以内、1つの場所、1つの話の筋で完結する話こそが観客にとって最も分かりやすい話であるというものです。
現実ではそのような商業用映像作品は皆無です。(学生が作るような映像作品にはありそうですが)
2時間映画であれば200を超える場面転換が要求されることもあります。
ですが場面転換や作中時間は三統一の法則に従うことができなくても、話の筋を一本化するのは難しいことではありません。
カットバックで関連性のないシーンをつなぐと、話の筋がバラバラになってしまいます。
そのような危うさを秘めていることにも留意しておいてください。

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