原稿の種類

シナリオとはメディアコンテンツの一部を構成するパーツです。
映像や音声、役者の演技がついてやっと一つの作品になります。
シナリオが書かれたものは俗に原稿などと呼ばれています。
では、シナリオが書かれていればどのようなものでも原稿として顧客から受け取って頂けるものでしょうか?
それは違っていて、大抵は媒体(メディアコンテンツの種類)ごとに決まった形式があります。
私が経験した形式を以下に列挙していきます。よろしければ参考にしてください。

■ドラマ・映画等の映像作品

まずことわっておきたいことですが、台本と原稿は違います。
台本は役者さんやスタッフさんが現場等でどのように動くか事細かに指定してある物です。
原稿は主にプロデューサーや監督などに読まれます。
作品の責任者が採用して始めて台本に載せられるのです。

ドラマ・映画・ラジオドラマなどのオールドメディアでよく採用されている原稿用紙の形式は、『ペラ』と呼ばれているものです。
ペラとは学校でも教材として使われている400字詰めの原稿用紙を半分にしたもの。20文字×10行の原稿用紙のことを指します。
ちなみにペラ一枚は約30秒として換算されることが多いです。つまり2時間物の作品はペラ240枚ほどとなります。
今後特に指定しない場合、原稿用紙とはこの形式を指していると留意しておいてください。

ドラマ・映画等の原稿では、主に『柱・セリフ・ト書き』の3要素を用いて執筆します。
これらの要素に関しては後の記事で詳しく説明します。

■ゲームシナリオ

ゲームシナリオの形式は企業やプロジェクトごとに多種多様です。
私はAAA級のビッグタイトルには携わったことがないので、分かる範囲のみ解説いたします。
ゲームシナリオの形式は主に以下の形式に大別されます。

・テキストエディタによるもの
・エクセルなどのCSVデータ方式によるもの
・独自ツールによるもの

〇テキストエディタによるもの

Windowsに標準搭載されている『メモ帳』を想像してみてください。あんな感じです。シンプルな機能のソフトで作成し、提出します。
ゲームの規模やジャンルを問わず採用されています。
理由は取り回しのしやすさです。
『.txt』形式のファイルだと、ゲームエンジンというゲームを制作するソフトウェアで、とても読み込みしやすいのです。
ですのでWordなどの専用の文章作成ソフトで提出を求められることはほとんどありません。
ゲームシナリオでは現在でも執筆料を『KB』で指定されるのが主流ですが、それは『メモ帳』などの極力シンプルなエディタで作成した場合で計測されたものでなければなりません。
余計な機能のついたソフトは使わないようにしましょう。
例外として『サクラエディタ』などの普及しているエディタや、取引先が指定するエディタであればそのソフトで作成して提出することもあります。

テキストエディタでシナリオを書く際は、以下の形式が一般的です。

#キャラクター名
「セリフ」
//コメント
[スクリプト]

キャラクター名の直下にセリフを書いて、どのキャラがどんなセリフを喋っているかを指定します。
『コメント』とは、スタッフや声優さんなどに対する指示です。主に『//』を先頭に置いてから書きます。どうしても伝えるべき事項や申し送りがあれば書きます。あまり多用しない方がいいです。
『スクリプト』とは、会話中に特定の演出を挿れる際に必要なコマンドです。例えば"暗転"や"キャラクターの表情の変化"などです。
業務委託のシナリオライターであれば必要最低限の記述のみ求められます。スクリプトはプログラミングの一種と言ってよいので専門の知識が求められるからです。ゲーム会社には"スクリプター"というスクリプトを専門とする技術スタッフがいるぐらいです。ちなみにゲーム会社に所属すると、シナリオライターがスクリプターを兼任する場合もあります。
顧客から求められない限り、スクリプトに関してはあまり難しく考えなくてもOKです。

〇エクセルなどのCSVデータ方式によるもの

大規模プロジェクトであれば求められることが多くなる形式です。
『CSV』とは"カンマ・セパレーテッド・バリュー"の略で、"カンマによって値が区切られた形式"のファイルのことを言います。
最も普及しているCSV形式のソフトウェアは、Microsoft Office の Excel です。Excelではカンマの代わりにセルによって値が区切られています。
記述方法に関してはテキストエディタの場合と異なり、例えば"A列にキャラクター名"、"B列にセリフ"、"C列に演出"などと区切るのが一般的です。
Excel の他に最近は"Google スプレッドシート"による作成、提出を求められることもあります。
またこの形式の場合であれば、KB数よりも文字数を指定されて依頼されることが多いです。

〇独自のツールによるもの

体力のある企業ではより効率的にシナリオを管理し作業するための独自ツールを開発しているところもあります。『ウマ娘』『プリコネ』で有名なCygamesが開発したものなどが有名です。自動で制限文字数を設定してくれたり、どのようにゲーム画面に反映されるか即時に確認できるなどの便利な機能てんこ盛りのソフトウェアが存在します。
会社やプロジェクトごとに使い方や書き方が異なるので、ここで述べるのは控えさせていただきます。

■ASMRやボイス作品

最近になってフリーのシナリオライターになった者が、よくお世話になるであろう案件です。
主に Excel でシナリオを作成することになります。
どのように記述するかは顧客が指定するので、決まった記述の形式はありません。顧客からフォーマット(雛形)をもらうのが良いです。
ですが一般的には、『キャラクター名』、『マイクの位置』、『セリフ』、『セリフ番号』、『SEなどの秒数の指定』、『文字数』などの要素を列ごとに分けて記述していきます。
文字数によって執筆料を指定される場合がほとんどです。
90分ほどの作品が一般的で、約2万文字となります。

■YouTube漫画動画

最近流行りだした媒体です。マンガをアニメ風に動きを与えて、声優さんの演技を足したものを想像してください。
この媒体も主に Excel などのCSV形式のファイルでシナリオを書きます。
一般的に『キャラクター名』、『セリフ』、『セリフ番号』、『演出等の備考』、『コマ数』、『コマの描写』などの要素を列ごとに分けて記述します。
特徴的なのは『コマの描写』に関してです。コマで割られたマンガのように、そのコマの中にどんな絵が入るか具体的に想像して書き表すというテクニックが必要です。
思い浮かんだものをそのまま書けばいいというものではなくて、物語を進行させるうえで絶対に書かなくてはならないことだけを書くようにします。細かく指定し過ぎると絵を描いてくれる漫画家さんの表現する自由を縛ったり、シナリオライターと漫画家との間に思い違いが発生するからです。なるべくシンプルに書くようにしましょう。
この媒体では主にコマ数によって執筆料の指定をされます。ですがそれ以外にも文字数、実際に音読してみたときの経過時間などとバラけています。作品のシリーズごとに尺がバラバラであることが一因でもあります。
最近は短い動画が流行っているので、5分尺、30コマ、文字数は1500文字を超えないようにと指定されることが多いでしょうか。

まとめ

他にも媒体によって特殊な形式の原稿を提出することもあります。
最も重要なことは、顧客から送られてくる仕様書などによく目を通すことです。
仕様書に目を通さないことはご法度です。
あなたの好き勝手に書いた原稿を送りつけてはいけません。
仕様書に書かれている決まり事を守らないでいると、顧客からの信用を失くしてしまいます。
ある大御所シナリオライターは『良いシナリオライターとは、ちゃんと他人の話を聞く人のことだ』と述べています。
顧客が求める形式に合わせて臨機応変に対応するようにしましょう。

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