『三統一の法則』 編集の罠

以前にシナリオは映像化されることが前提であると説明しました。
それゆえに"現在形で書かなくてはならない"、"心理描写を直接的に書くことができない"などの性質があることにも触れました。
では例えば『あなたの一生』という映画を製作するとして、本当にカメラが一生あなたについて回り、あなたが生きた時間のぶん上映するということなどありえるのでしょうか。
映画には尺というものがあるので、どうしても編集が必要になります。
もしも『あなたの人生』を編集するのであれば、あなたの人生のターニングポイントや印象的な出来事を中心に切り出せば、きっと観客は楽しく観てくれることでしょう。
作中世界で起こっていることをそのまま披露するのではなく、意図的に時間や空間を飛躍させることができる、それが編集です。

編集は映像作品には欠かせない工程であり、監督自らが行うこともあります。
けっして簡単なものではなく、むしろいきなり場面が切り替わったり時間が飛んだりするので、うまいつなぎ方をしないと観客が話を理解できずに置いてけぼりになってしまいます。
そんな事態を避けるために念頭に置いたほうがよいのが、
『三統一の法則』です。
アリストテレスの『詩学』の一節をもとにルネサンス期の演劇学者が考案した作劇原則ですが、どのようなものかというと……

・時
・場所
・話の筋
……以上をバラバラに展開しないこと。
作中の時間が24時間以内に終わり、一つの場所で、一つの話の筋の物語である方が観客に理解してもらいやすい、というものです。

もちろん、巷にあふれている作品のほとんどがこの法則を守ってはいません。(映画『12人の怒れる男』など)
では『三統一の法則』は守る必要のない、まったく無意味なものなのでしょうか。
そうではなく、むしろ編集という時間芸術の魔法を私たちが容易に使えるからこそ、十分に留意するべきだと思っています。
たまに、"どこで誰が何をしているのかさっぱり分からない作品"に出会ったりします。それはストーリーテリングが下手だからで、ひいては編集をまったくうまく使えこなせていないから起こることです。
時間や空間をすっ飛ばすと、どこで誰が何をしているのかという情報がリセットされてしまいます。
新たな情報を観客に伝えるべきなのにそれが出来ていないと、もちろん観客は混乱してしまいます。
それを避けるために登場人物のセリフやナレーションによってくどくどと説明したなら、観客は退屈してしまいます。
時間や空間を飛躍させるのは、本来とても難しいことなのです。

もしまだあなたが編集をうまく扱えないという自覚があるなら、

"なるべく少ない時間経過で・少ない場面転換で・たった一人の登場人物に焦点を絞る"

という『三統一の法則』に従うのが無難といえるでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?