柱・ト書き・セリフ

ここで述べるのは前回の記事で解説した『ペラ形式』のシナリオに関してです。
シナリオは次の3つの要素で構成されています。

・柱
・ト書き
・セリフ

各々の役割は以下の通りです。

■ 柱

場面と照明の指定を行います。

例:
〇桜ヶ丘中学校・校門前(夕)

柱を立てる際には、これらの点に注意してください。
・二行に渡らせない
・具体的に指定する
・簡潔に書く
・文頭に『〇』をつける
・柱と柱の間に一行空ける

まず、"シナリオとは製作スタッフに対する指示書である"と念頭においてください。
映画やドラマであれば撮影する際に、ゲームやアニメであれば素材を用意する段階になって、『具体的な場所』や『時刻』が分からないと、どう動けばいいか分からなくなってしまいます。
混乱を招くような表記や、主観的な表現は訂正するようにしましょう。

悪い例・1:
〇中学校・入り口
 ↑
これだとまず、"どこの中学校なのか?"
"登場人物に関係のある場所なのか?"
"『入り口』とはどこのことを指しているのか?"
"時間帯はいつなのか?"
何も分からず、撮影不能になってしまいます。

悪い例・2:
〇王都・貴族の住まう住宅街・高台・
 お嬢様が住まうような邸宅・ブルボン朝様式の庭園・噴水前(昼下がり)
 ↑
これだと、柱を読むだけで疲れてしまいます。
柱は1行で納めるようにしましょう。

"お嬢様が住まう"などの装飾語や形容詞は不要です。
主観的な意見は排除するようにしてください。
主観というのは、人それぞれ違います。
あなたの想像する"お嬢様が住まう邸宅"と、読む人が想像する"お嬢様の邸宅"は違っていることは往々にしてあり得ることです。
どうしてもそういう印象を与えなければならないのであれば、後に述べるト書きで指定するようにしてください。
また、このような柱を立てたとしても観客にどう伝えればよいのでしょうか。
たった一つの場所を映して、"噴水前、ブルボン朝、お嬢様が住まう、高台、貴族が住んでいる、王都"などのてんこ盛りの要素を、一度に伝えるのは恐らく不可能です。
そういった場合は、柱を分けるようにしてください。

改善例:
〇王都・全景
 丘陵地帯に拓けた都市。急峻な高台に王城がある。

〇同・高級住宅地
 閑静な佇まい。馬車を引かせる貴族が往来する。

〇同・令嬢の邸宅・外観
 貴族に相応しい豪奢な佇まいである。

〇同・庭
 庭の造りはブルボン朝の様式。
 令嬢が噴水前で誰かを待っている様子。

ページ数が増えてしまいそうですが、この方が読む人に優しいです。
同じ場所内から移動する際は、『同』とすれば理解してもらえます。
また、お気づきの方もいるかもしれませんが、今回は時刻の指定をしていません。
"午後や昼は時刻の表記を省いてもいい"という慣習があります。
()で括る時刻の表記の種類として一般的なのは、『早朝・朝・夕・夜・深夜』などです。
どうしても"昼下がり"としていしたければ、ト書きに『昼下がりの街灯の様子はとても穏やか』などと、"昼下がりをどのように映像として表現するか"を念頭に置きつつ指定するようにします。
最後に、場所を移動したら柱と柱の間を一行空けるのを忘れないでください。

■ト書き

『ト書き』には平たくいうと、"光景や演技の指定"の役割があります。
語源は歌舞伎の脚本にて役者がどう動くかを、"~と、動く"などと表記したことからです。

ト書きには以下のルールがあります。
・柱の次は必ずト書きで始めなくてはならない
・初出の人物はセリフを喋らせる前にト書きで登場させるのが前提
・セリフが続く場合はその間にト書きは不要
・原稿用紙では3マス下げてから書き出す
・目に浮かぶように書く
・丸裸で書く
・現在形で書く

まず、"シナリオとは映像表現することを前提に書く"と意識しておいてください。

〇柱の次は必ずト書きで始めなくてはならない

柱は前項で述べた通り場所と時間を指定するものです。しかしそれだけではどうしても情報が不足しているので、ト書きで補うのが定石となっています。
またシナリオは"スタッフに対する指示書"でもあります。
ト書きで"何に注目してもらいたいか"具体的に書かないと、カメラが寄ってくれることはありません。
画面に映してほしいもの、観客に気づいてもらわないといけないものは、ト書きで指定するようにしましょう。

〇初出の人物はまずト書きで登場させる

ト書きで指定することでカメラがそこに寄ってくれることを先ほど説明しました。
キャラクターや役者がセリフを話すときも、カメラに映ることが前提です。ですからセリフを喋らせる前に、ト書きで登場させることにします。
例外として、カメラに映る前にセリフを言わせたい場合は、

(キャラクター名)の声「いや~、探しましたよ」

などして、その後すぐにト書きでどのような人物か描写してください。
どのように初出の人物を描写させるかというと、

有馬の声「いや~、探しましたよ」
   有馬喜平(43)が佇んでいる。

のように、年齢と動作を書けばOKです。
どうしても他の要素を伝えたければ自由に書いてください。しかしあまりくどくなりすぎてはダメです。"物語に関わりのある事柄"だけを書くようにしてください。

〇セリフが続く場合はその間にト書きは不要

作中ではセリフの掛け合いが続くことがあります。
その際にいちいち "~と言った" などと余計な演技の指定を入れなくても大丈夫です。
セリフの後ろには必ずト書きであるとは限らないと覚えておいてください。

〇原稿用紙では3マス下げてから書き出す

これに関しては原稿用紙の形式によっても違います。
ですが一般的なペラであれば、慣習として文頭を3マスあけて書くのが通常です。
理由は、一目でどれが柱か、セリフか、ト書きかを見分けやすくするためです。

〇目に浮かぶように書く
〇丸裸で書く

こちらに関しては、詳しくは次回の記事、『シナリオと小説の違い・丸裸で書く』をご参照ください。
かいつまんで説明すると、シナリオは映像化するのが前提なので、心理病やと余計な装飾語や形容詞を省くというものです。

〇現在形で書く

詳しくは次回の『シナリオと小説の違い・丸裸で書く』にて述べますが、シナリオは映像化することが前提なので、カメラにどのように映るかを意識して執筆することとなります。
カメラでは、今起こっているありのままの光景しか移すことができません。例え物語上では過去の風景を映していても、カメラの前では"今"なのです。
例えば、

 髪をなびかせつつやってきた女が、カフェのテラスでお茶をしている。

という描写を、カメラでどのように撮影するというのでしょうか。
シナリオ上ではこの描写は2つに割って、

 女、髪をなびかせつつやってくる。
 カフェのテラスにつき、お茶を頼む。

と、どちらも現在形で書くのがお約束です。

■セリフ

セリフはご存じの通りのものです。
原稿用紙上の表記は次のようになります。

サマルトリアの王子「あなたが噂に聞いた
 ローデシアの王子ですね。いや~探しま
 したよ。今までどこにいたんですか?」

まずは『キャラクター名(役名)』
続いて「」で区切って中にセリフを書きます。
改行する際は、文頭を一文字空けること。
文末の句読点(、や。)は不要です。
一つ留意した方がよいのが、『三行以上に渡る長セリフは控える』ということです。
長いセリフが必要になるときはありますが、必要でない限り長セリフは使わない方が無難です。
なぜならセリフを喋っている間に絵替りがなく、観客が退屈するからです。
上手な人の多数派は、長セリフを分割してその間にキャラクターの動き(アクション)を入れたり、セリフを聴いている人の反応(リアクション)を挿入したりして対処したりします。
長セリフはどうしても観客に印象付けたい、イザというときまで取っておくようにしましょう。

〇語尾の連続に気をつけよう

悪い例:
A子「お腹空いたよね~」
B美「じゃあ、駅前のマック行く?」
A子「新製品も出たしね~」
B美「ヤバっ! 私、今日バイトあるんだった」
A子「じゃあ、また今度だね~」

意図してそのようにしているのであればまだよいのですが、同じキャラクターの語尾が連続して同じものだと、違和感を覚えます。
初心者のうちは気にしすぎなくてもOKですが、プロになるまでには自然と避けれるように普段から心がけておけるようになりましょう。

〇『セリフは嘘つき』

これに関してはいずれ詳しく述べますが、概要だけお伝えします。
例えば、
「わたし実は、あなたのこと、だ~い好き♡」
などと言われて、あなたは素直に信用できるでしょうか?
信用することは出来ても、どこか白々しく感じることでしょう。
セリフを嘘くさく受け止められたくない場合は、いっそのことセリフとして言わせない方がいいです。
例えば、
   主人公と女友達が鉢合わせする。
女友達「こ、こんなところで偶然ね」
主人公「どうしたんだよ、こんなところで」
女友達「たまたまよ。うるさいわね……」
主人公「そうか、じゃあな」
女友達「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
   女友達、ラッピングしたチョコを差し出す。
主人公「これって?」
女友達「か、勘違いしないでよ! いわゆる友チョコってやつだから」
   と言い、立ち去る。
   主人公、チョコの包装を眺めつつ、
主人公「こんな丁寧にラッピングして……意外とマメな奴なんだな」
   と呟く。

長い三文芝居をお見せしてしまいました。
しかしながらこのようにした方が、直接的に感情を口にするよりも登場人物の感情を観客に察してもらうことができます。
しかし直接感情を口にすることが禁じ手ではありません。
事前にいくつも伏線を張り、裏付けをすることで、ある時に一気に感情が溢れ出せば観客に強く印象付けるシーンを作ることができます。
登場人物は直接感情を口にする機会は、イザという時のために取っておきましょう。

まとめ

以上が『柱・ト書き・セリフ』の概要です。
もっと細かなテクニックや気を配るべき点がありますが、必要なときに逐一述べるようにします。

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