『三統一の法則』演劇のお約束事から学ぶ脱初心者の心得

『三統一の法則』とは、
・作中に起きる事件は
・1日以内に
・同一の場所で
・発端から終末まで一貫していること

……という古典演劇における法則である。
場所が変わればセットを、日時が変われば照明を幕間に変更しなくてはならない舞台演劇ならではのお約束事だ。
現在ではカメラによって撮影された映像作品がエンタメの主流なので、日時や場所の変更はお茶の子さいさいとなった。むしろ"同じ場所で一日以内"で終わる話を書くという方が難しい。
では、"首尾一貫していること"に関しては他の要素と同様、無視できることなのだろうか?

例えばあなたがアラサーで結婚を焦っている男性女性だったとして、
『29歳。1年以内に結婚できなかったら自殺すると決めた』
というタイトルの映画を観に行こうとしたとしよう。
このタイトルの場合では、"主人公が結婚できるか出来ないか"を期待して映画に観に行くことになることだろう。
しかし実際に鑑賞したところ、主人公は自分が結婚できない原因は稼ぎが悪いからだと思ってビジネスを始める……もしくは容姿がだらしないからだと思ってダイエットを始める……そして最後に主人公はビジネスで成功を収め、見事ダイエットやイメチェンを成功させました。チャンチャンで終わったとしよう。
「いや、結婚に全然関係ねぇじゃん!?」
となることだろう。
これは極端な例だが、もっと小さな破綻であれば初心者が書くシナリオや稀に商業作品で散見される、陥りやすい罠である。
"主人公が何かを決意して真っすぐに進んでいく。何か困難があってもそれを乗り越える"という性質を『貫通行動』と呼ぶのだが、それがブレブレであるとこのような問題が起こりやすい。
物語の方向性が決まったなら最初から最後までそれを貫く。これは『三統一の法則における一つの筋』にも共通していることだと思う。
古くから伝わる作劇法の中にも、学ぶことが多いことを留意してもらいたい。

ちなみに『一日以内に同じ場所』というのも、本当にシナリオ等を書き始めて間もない初学者であれば守っておいた方がいいお約束事だ。
カットを挟んで日時が変わる、場所が変わるといった演出はそれ自体が一つのテクニックである。こなれた人でなければ上手く扱うことが出来ない。

例えばだが、とある映画でこんなシーンがあった。
軍学校の生徒である主人公が教官である若い女性に恋をしてしまった。
なんとか彼女の自宅を訪ねることが出来た主人公だったが、訓練後の汗を彼女の家のシャワーで流したいとお願いするも断られてしまう。
しぶしぶ彼女の家を後にする主人公。
次の瞬間のカットで、シャワーを浴びた主人公がむさ苦しい男の行き交う廊下を歩いている。

私は愚鈍な方なので、場所が変わったことは分かったが、カット直後から数日経過したことにすぐには気づけなかった。
教官である女性にフラれた直後に軍の寮にでも帰り、備え付けられているシャワーでも使ったのかと思ったが、そのシーンの直後にヒロインの女性と平然と会話をしていたので日時が変わったと気づくまで違和感を覚えつつ数十秒間鑑賞するはめとなってしまった。
無視できる程度の小さいものだと思うが、極力潰しておきたいミスだ。

『三統一の法則』の『1日以内、同一の場所、一つの筋』は
初心者ほど意識しておいた方がいいし、
ベテランでもたまに疎かになってしまうので、
よくよく肝に銘じておきたい心構えである。
シナリオの出来栄えをチェックする際はもちろん、
出来れば書き始める箱書きの段階から確認しておきたい事項だ。

ちなみにまだシナリオを書き始めた人は、
以下のステップで上達することをおススメする。

・短い話を書けるように練習する
・なるべくシーンや時間経過を搾る
・シーンや日時が移り変わる際は読み手にそれが伝わるように気を配る
・慣れてから長い話を書くようにする

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